2026年度「あすなろ研究奨励金」を6人に支援

2026年7月9日 公開

東京科学大学(Science Tokyo)は、45歳未満の研究者に対し基礎研究の資金を支援する「あすなろ研究奨励金」の支援対象者を決定し、6月22日に支援決定通知書授与式を開催しました。

採択者との記念撮影(前列左から渡邊健太助教、難波江裕之准教授、大竹尚登理事長、齋藤了一助教、張葉平助教、後列左から二瓶稔之研究推進部長、山口猛央副学長(研究戦略・研究企画支援担当)、中嶋武助教、長澤竜樹助教、日置滋副学長(産学連携寄附担当)

「あすなろ研究奨励金」は、本学の故浅野康一名誉教授の「在籍中の地道な基礎研究に対して、長期にわたり研究費を措置してもらったことで研究が花開いたので、後進育成のため、基礎研究の支援に充ててほしい」との思いから、浅野名誉教授自身の研究成果の実用化により得た収益の一部から寄付を受け、2020年度に創設されました。

第6回となる今回は50人の応募があり、6人が採択されました。大竹尚登理事長より祝辞があり「研究に行き詰ったときは視点を変え、粘り強く研究をしてほしい」と激励の言葉も贈られました。

大竹尚登理事長による祝辞
山口猛央副学長による挨拶(研究戦略・研究企画支援担当)

2026年度「あすなろ研究奨励金」採択者

齋藤 了一 理学院 物理学系 助教

研究課題:巨大質量物体は量子性をもつか?―原子イオン–ナノ粒子系で迫る量子‐古典境界―

私たちの身の回りの物体は、ふだん古典力学に従って動いているように見えます。一方、原子や電子のようなミクロな世界では、重ね合わせや干渉といった量子力学特有の現象が現れます。では、原子よりはるかに重い物体にも量子性はあるのでしょうか。
本研究では、真空中に浮かべた数百ナノメートルの荷電ナノ粒子と、レーザーで精密に操作できる原子イオンを同じ装置の中に閉じ込めます。両者を電気的な力で結び、原子イオンを「量子の入り口」として用いることで、通常は直接操作が難しいナノ粒子の運動を量子レベルで制御することを目指します。これにより、大きな物体がどこまで量子的に振る舞えるのか、また環境との相互作用によって量子の性質がどのように失われ、私たちが見慣れた古典的な振る舞いがどのように現れるのかを、実験的に明らかにしていきます。

難波江 裕之 工学院 機械系 准教授

研究課題:MHD現象を利用した相変化を伴う液体金属のアクチュエーションに関する研究

常温付近に凝固点を有する低融点金属を用い、磁場中の導電性流体に電流を印加した際に生じる駆動現象を対象としています。低融点金属では、電流による発熱や周囲環境との熱のやり取りによって、固体から液体、あるいは液体から固体への相変化生じると考えられます。
本研究では、この相変化と流動が同時に起こる系を対象に、実験とモデルの両面から検討を行います。それにより、電磁力、流動、相変化が相互に影響し合う複合現象の理解を目指します。得られた知見は、剛性制御機能を有するロボットや自己修復機能を持つデバイスなど、新たな機能を持つ柔軟システムの実現につながることが期待されます。

張葉平 物質理工学院 材料系 助教

研究課題:光触媒による未踏反応空間の体系的探索と反応創出

太陽光エネルギーの活用に向け、光触媒は分子を活性化する有望な手段として期待されています。これまで水分解や二酸化炭素還元といった反応系で多くの成果が積み重ねられてきました。一方で、有機分子に目を向けると、官能基や分子骨格が多様であり広大な反応空間があるのに対して、未だ十分に踏み込まれていないと考えられます。
本研究では、こうした反応空間には人類にとって有益なものも含むと考え、有機分子の光触媒活性化に関する基礎的な学理の構築に挑みます。官能基を軸として分子の反応性を体系的に探索し、得られたデータを物理化学的な電子移動論に立脚して整理することで、光触媒反応を支配する素過程を記述するモデルの構築を目指します。
これにより、理論的記述と広範な実験データの両面から、光触媒が駆動し得る反応空間の構造を捉えます。

渡邊 健太 物質理工学院 応用化学系 助教

研究課題:全固体電気化学系で動作可能なLi+脱挿入性p型半導体光電極の開発と動作原理解明

電気化学は、応用技術である電池と固体電解質の発展によって、全固体電池として構成物のすべてが固体材料である全固体系に展開されています。しかし、電極に光を照射しながら電気化学反応を行う光電気化学は、全固体系に展開されてきませんでした。光電気化学も全固体系に展開されれば、新たな反応(系)の創出につながり、これらを応用した新規光機能デバイスの構築も期待されます。
光電気化学反応では、半導体特性が重要になります。私は、n型半導体電極を用いた全固体系における光電気化学反応を達成しています。
そこで本研究では、p型半導体電極を用いた全固体系における光電気化学反応を目指します。p型半導体電極として機能する物質を探索し、見出した物質を用いて基本的な動作原理を解明します。

長澤 竜樹 生命理工学院 生命理工学系 助教

研究課題:脊椎動物に保存された卵成熟制御機構の分子基盤の解明

卵の形成と成熟は、発生・生殖研究における古典的かつ重要な研究テーマです。しかし、これまでの研究は特定の生物種を対象としたものが多く、脊椎動物に共通する分子機構の全体像は十分に理解されていません。
本研究では、近年急速に蓄積された全ゲノム配列情報を活用し、多様な種を対象とした比較進化学的解析を行います。さらに、モデル魚類であるゼブラフィッシュを用いた分子・細胞レベルの実験的検証を組み合わせることで、卵形成を支える保存的分子機構を明らかにし、卵成熟研究の共通原理を進化学の視点から再定義することを目指します。
本研究の成果は、脊椎動物における生殖機構の進化的理解を深めるとともに、生殖生物学や水産増養殖学など関連分野への波及も期待されます。

中嶋 武 総合研究院 化学生命科学研究所 助教

研究課題:結晶構造の動的遷移に関する群論的理論開拓:実空間・電子状態トポロジーの統合

物質を形作る「結晶構造(実空間)」と、その内部にある「電子の状態」には、それぞれ形や性質のつながりを示す「トポロジー」という特徴があります。これまでは、これらを個別に扱う「静的な(変化を考慮しない)」研究が主流でした。しかし、結晶が別の形へと連続的に変化していく「動的なプロセス」が、電子の状態にどのような影響を与えるのかは、まだ理論的に十分に議論されていません。
そこで本研究は、この「形の変化のルート」そのものに注目し、結晶の変形と電子の状態の変化を一つの理論として統合することを目指します。
具体的には、数学の理論(群論など)を用いて、結晶の変形パターンと電子の状態の相関関係を解明します。
これにより、物質の変形や製造プロセスまでを見据えた、新しい物性物理学の基盤を築くことが期待されます。

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