ポイント
- 上顎埋伏犬歯による隣接歯の歯根吸収リスクは、犬歯と隣接歯の位置関係だけでなく、隣接歯の歯根成熟度も重要な評価指標となる可能性を初めて示しました。
- 歯根の成熟度を示す「根尖孔径(AFD)」が小さい(成熟が進んだ)歯ほど、歯根吸収が生じやすい傾向があることを明らかにしました。
- 空間的位置と歯根成熟度を組み合わせて評価することで、CBCTによる精密検査の必要性や適切な治療開始時期を判断する新たな診断戦略につながることが期待されます。
概要
東京科学大学(Science Tokyo) 医歯学総合研究科 咬合機能矯正学分野の小野卓史教授、石田雄之歯学部内講師、溝口縁大学院研究生らの研究グループは、上顎埋伏犬歯(Impacted maxillary canine: IMC)[用語1]によって生じる隣接歯の外部歯根吸収(External root resorption: ERR)[用語2]について、従来重視されてきた犬歯と隣接歯との位置関係に加え、隣接歯の歯根成熟度もリスク評価に有用である可能性を初めて明らかにしました。
本研究では、歯の成熟度を示す「根尖孔径(Apical foramen diameter: AFD)[用語3]」に着目し、CBCT(Cone-beam computed tomography)[用語4]画像を解析した結果、歯根吸収が認められた歯では、AFDが小さい傾向にあることが確認されました。一方で、AFD単独では歯根吸収を予測できず、犬歯と隣接歯の空間的位置関係と組み合わせて評価することが重要であることも示されました。
本成果は、上顎埋伏犬歯を有する患者における隣接歯の歯根吸収リスクを、より多面的に評価するための新たな考え方を提示するものです。今後は、より適切な画像診断の実施や治療介入時期の判断につながることが期待されます。
本研究成果は、矯正歯科分野の国際科学誌「Progress in Orthodontics」のオンライン版に、2026年7月14日(現地時間)に掲載されました。
背景
永久犬歯は、比較的遅い時期に萌出する歯です。何らかの理由で正常な位置へ萌出できず、顎の骨の中に埋まったままになる状態の歯を「埋伏歯」といいます。
上顎埋伏犬歯は、隣接する前歯や小臼歯の歯根を徐々に溶かしてしまう「外部歯根吸収」を引き起こすことがあります。歯根吸収は自覚症状に乏しいまま進行することが多く、一度大きく吸収された歯根は元に戻らないため、早期発見と適切な治療時期の判断が極めて重要です。
これまで、上顎埋伏犬歯による隣接歯の歯根吸収リスクは、埋伏犬歯と隣接歯との距離や位置関係などの「空間的要因」を中心に評価されてきました。しかし、実際には同様の位置関係であっても歯根吸収が生じる患者と生じない患者がおり、空間的要因だけでは十分に説明できませんでした。
そこで研究グループは、この違いに隣接歯の歯根の発育状態が関与している可能性があると考え、歯根の成熟度を示す「根尖孔径(AFD)」に着目しました。
上顎埋伏犬歯が隣在歯に接近することで、歯根吸収が生じています。CBCT画像では、その様子を明瞭に確認できます。
【略語】IMC:上顎埋伏犬歯、U1:上顎中切歯、U2:上顎側切歯、U4:上顎第一小臼歯
研究成果
研究グループは、上顎埋伏犬歯を有する40名(58本の埋伏犬歯)の患者を対象に、治療前に撮影したCBCT画像を解析しました。隣接する中切歯・側切歯・第一小臼歯について、歯根吸収の有無、歯の成熟度(AFD)および犬歯との位置関係を比較しました。
その結果、中切歯および第一小臼歯では、歯根吸収が認められた歯ほど根尖孔径が小さく、歯の成熟が進んでいる傾向が認められました。一方、追加解析の結果、根尖孔径だけでは歯根吸収を十分に説明できず、犬歯との位置関係などの空間的要因と組み合わせて評価することが重要であることも明らかになりました。
本研究は、空間的要因に加えて「歯根の成熟度」を評価することで、埋伏犬歯による隣接歯の歯根吸収リスクをより的確に評価できる可能性を示した初めての研究です。
中切歯(U1)および第一小臼歯(U4)では、歯根吸収が認められたグループ(ERR群)は、認められなかったグループ(non-ERR群)と比較して、隣接歯の根尖孔径(成熟度の指標)が有意に小さいことが認められました。
本研究の最大の意義は、これまで主な指標とされてきた「歯同士がどのような位置関係にあるか」という空間的評価に加え、「周囲の歯の歯根がどの程度成熟しているか」という発達学的視点を組み合わせた、新たなリスク評価の考え方を提示したことです。
今後の展開
臨床では、まずパノラマエックス線写真で上顎埋伏犬歯と隣接歯との位置関係に加え、隣接歯の成熟度を確認し、歯根吸収リスクが高いと考えられる患者に対しては、CBCTによる三次元精密検査を行うことで、より的確な診断と治療計画の立案が可能になると期待されます。
さらに、本研究は、患者ごとに適切な治療開始時期を判断するための新たな客観的指標となる可能性を示すものであり、放射線被ばくを最小限に抑えたプレシジョン・メディシン(precision medicine)の実現にも貢献することが期待されます。
用語説明
- [用語1]
- 上顎埋伏犬歯(Impacted maxillary canine: IMC):上顎の犬歯が、本来生える時期を過ぎても、上顎の骨や歯ぐきの中に埋まったままの状態を指す。永久歯の中では比較的多くみられる埋伏歯である。
- [用語2]
- 外部歯根吸収(External root resorption: ERR):歯根の表面が外側から徐々に溶かされ、短くなったり形が変化したりする現象。進行すると、歯の寿命に大きく影響する。
- [用語3]
- 根尖孔径(Apical foramen diameter: AFD):歯根の先端には神経や血管が通る小さな孔があり、その孔の大きさ(直径)を根尖孔径と呼ぶ。歯の成長とともに孔は徐々に小さくなるため、歯の成熟度を客観的に評価する指標として利用できる。
- [用語4]
- CBCT(Cone-beam computed tomography):歯や顎の骨を三次元的に撮影できる歯科用CT。埋伏歯の位置や周囲組織との関係を立体的に把握できるため、精密診断に広く用いられている。
論文情報
- 掲載誌:
- Progress in Orthodontics
- タイトル:
- Relationship between root formation progress of adjacent teeth and external root resorption associated with impacted maxillary canines: a retrospective cross-sectional CBCT study
- 著者:
- Yukari Mizoguchi, Yuji Ishida, Aiko Ishizaki-Terauchi, Chiyo Shimizu-Tomoda & Takashi Ono
研究者プロフィール
小野 卓史 Takashi Ono
東京科学大学 医歯学総合研究科 咬合機能矯正学分野 教授
研究分野:歯科矯正学、口腔生理学、睡眠医学
石田 雄之 Yuji Ishida
東京科学大学 医歯学総合研究科 咬合機能矯正学分野 歯学部内講師
研究分野:歯科矯正学、核酸医薬、骨代謝
溝口 縁 Yukari Mizoguchi
東京科学大学 医歯学総合研究科 咬合機能矯正学分野 大学院生
研究分野:歯科矯正学
関連リンク
お問い合わせ
東京科学大学 医歯学総合研究科 咬合機能矯正学分野
教授 小野 卓史
- t.ono.orts@tmd.ac.jp
- Tel
- 03-5803-5526
- FAX
- 03-5803- 5526