熱や光にはびくともしない、でも「力」には光って反応する分子

2026年3月24日 公開

20年におよぶメカノフォア研究の壁を越えた新しい分子設計

どんな研究?

コンサート会場などで使われるケミカルライトを知っていますか。ポキッと折ると、暗闇の中でふわっと光り始めます。あの光は、折るという「力」をきっかけに内部の溶液が混ざり、化学反応が始まることで生じます。

このように、力を引き金として化学反応が起こるという点に着目すると、「メカノフォア」と呼ばれる分子の働きをイメージしやすくなります。メカノフォアは、分子そのものに加わった力によって特定の化学結合が切断・変換され、色や光といった形で応答を示す分子です。目に見えない「力」を、色や光として「可視化」してくれる存在です。

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この分野は、ここ20年で大きく発展してきました。これまでは、力がかかったときに反応しやすいよう、あらかじめ少し切れやすい部分を分子の中に組み込む方法がよく使われてきました。問題は、その部分が力だけでなく、熱や紫外線でも反応してしまう点でした。本当に求められていたのは、熱や光にはびくともしないのに、強い力が加わったときだけ選択的に反応する分子でした。

そこで、東京科学大学(Science Tokyo)の大塚英幸(おおつか・ひでゆき)教授らの研究チームは、「DAANAC(ダーナック)」と呼ばれる分子に着目しました。これは、炭素どうしがしっかり結びついた、もともと安定性の高い構造をもつ有機分子です。

ここが重要

研究チームの実験によると、DAANACは、200℃を超える高温や強い紫外線を当ててもほとんど分解しません。それにもかかわらず、強い力が加わると結合が切れ、蛍光を発します。どれぐらい壊れにくいかを理論的に計算してみると、これまで報告されてきた同種のメカノフォアの中でも、最も壊れにくい部類に入ることが分かりました。

しかし、ここに大きな課題がありました。これまで報告されてきたメカノフォアの多くは、反応しやすくするために、あえて弱く設計されていました。そのため、材料の中に組み込むと、材料そのものを弱くしてしまうことがありました。研究チームは、材料の強さを損なわないことを最優先にし、それでも力がかかったときだけ反応する設計を目指しました。

研究チームは、このDAANACを材料の中に組み込み、実際に引っぱる実験を行いました。すると、材料をほとんど弱めることなく、強い力が集中した場所だけが光りました。材料の中で、目に見えない力の偏りを光として捉えられるようになったのです。

今後の展望

この成果は、強さと賢さをあわせもつ新しい材料づくりにつながります。たとえば、橋や飛行機、自動車などに使われる材料が、どこに強い力を受けているのかを光で知らせる仕組みへと発展する可能性があります。暑さや強い光の中でも使えるため、安心して長く使える材料づくりに役立ちます。

さらに、材料の中で分子のつながりがどのように変化していくのかを直接見ることができるようになります。目に見えない小さな変化を知ることは、より安全で長持ちする材料を生み出す土台になります。

研究者のひとこと

材料がどのように変化していくのかを、できるだけありのままに見たいと考えてきました。そのためには、まず材料の強さを損なわないことが大切だと思いました。力にだけ応える分子をつくるのは簡単ではありませんでしたが、目に見えない小さな変化を光として捉えられるようになりました。この研究が、より安心して使える材料づくりに役立てばうれしく思います。
(大塚英幸:東京科学大学 物質理工学院 応用化学系 教授)

大塚英幸教授

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