エチレングリコール中毒で生じる肝障害は回復可能であることを解明

2026年3月4日 公開

フェロトーシス関連経路の関与を示唆、新規治療戦略に道

ポイント

  • エチレングリコール中毒では腎障害が主に注目されてきましたが、比較的軽症例でも一過性の肝障害が生じることを明らかにしました。
  • 投与後に脂質過酸化を伴う肝障害が出現し、その後リボゾーム関連遺伝子の発現上昇とともに回復傾向を示すことを示しました。
  • 抗酸化経路SLC7A11-Gpx4の一時的な減弱を確認し、フェロトーシス様の細胞障害機構が関与する可能性を示唆しました。

概要

東京科学大学(Science Tokyo)医歯学総合研究科 法医学分野の鵜沼香奈教授と秋利彦准教授、ならびに獨協医科大学病院 血液浄化センターの藤乘嗣泰教授らによる共同研究グループは、エチレングリコール[用語1]中毒において、抗酸化能の低下を伴う肝障害が一過性に生じ、その後回復することを、動物および培養細胞を用いた実験によって示しました。これら障害と回復には、脂質過酸化物の還元に重要な抗酸化経路であるSLC7A11-Gpx4経路[用語2]の減弱や、タンパク質生合成装置であるリボゾーム[用語3]の増加が関与していることが明らかになりました。

本成果は、2月3日付(米国東部時間)の「Forensic Toxicology 」誌に掲載されました。

背景

エチレングリコールは二価のアルコールであり、不凍液などに含まれ、産業用途のみならず家庭用としても用いられています。無色透明でほのかに甘い味や香りを有することから、誤飲による事故が後を絶ちません。体内に取り込まれたエチレングリコールは肝臓で代謝され、最終的にシュウ酸となって血中へ排出されます。腎臓へ運ばれたシュウ酸はカルシウム結晶を形成し、腎結石や急性腎障害を引き起こします。また、肝臓での代謝過程で生成されるグリコール酸などが代謝性アシドーシスを惹起することも、中毒の原因の1つです。しかしながら、肝臓自体の障害については、これまであまり注目されてきませんでした。

研究成果

エチレングリコールをラットに体重1kgあたり8gの量で経口投与し、2日後および5日後の肝臓を解析したところ、2日後には有意な肝障害が認められた一方で、5日後には回復傾向が認められました。網羅的な遺伝子発現変動の解析からは、タンパク質の生合成を司るリボゾーム関連遺伝子の発現上昇が認められ、肝細胞が一時的な障害から修復され、回復過程にあることが示唆されました(図1)。

図1. 肝障害を示す酵素(ALT)はエチレングリコール(EG)投与2日後に上昇し、5日後には回復した(左)。 肝細胞にはリボゾームを伴う粗面小胞体の増加を認める(右)。

また、エチレングリコール中毒は、細胞膜などの脂質酸化を含む酸化ストレスを伴うことが知られています。過酸化脂質を還元する経路としてSLC7A11-Gpx4経路がありますが(図2)、エチレングリコール中毒モデル動物の肝臓では、この経路が一過性に減弱したのち、回復傾向を示すことが明らかになりました。

図2. エチレングリコールは拡散もしくはチャンネルを介して肝細胞に入り、最終的にシュウ酸となって腎結石の原因となる。上のエチレングリコール代謝が進むに伴って下のSLC7A11/Gpx4経路は減弱しており、脂質過酸化が肝毒性に関与していると考えられる。

SLC7A11-Gpx4経路は、近年フェロトーシスと呼ばれる新しい細胞死において中心的な役割を果たすことが知られています。本研究は、エチレングリコール中毒においてもフェロトーシスが関与している可能性を示唆するものです。

社会的インパクト

本研究では、エチレングリコール中毒において一般によく知られている腎障害がごく軽微な、比較的軽症の症例であっても、肝障害が一過性に生じていること、さらに肝臓がその障害から再生している可能性が示唆されました。

エチレングリコール中毒は治療が難しく、中毒の初期段階ではホメピゾールなどのアルコール脱水素酵素阻害剤が有効です。しかし、肝臓で有毒代謝物が生成され、血中へ放出された後には、血液から有毒物質を除去する浄化療法などに限られます。

SLC7A11-Gpx4経路の低下が関与していることから、フェロトーシス、もしくはそれに類似した細胞障害機構が想定されます。本研究成果は、エチレングリコール中毒を早期段階から検出し、適切に対処する方法の開発につながる可能性を示すものです。

今後の展開

肝臓は強い再生能力を有する器官として知られていますが、本研究により、エチレングリコール中毒に対しても再生応答を示すことが明らかになりました。

今後は、リボゾームによるタンパク質生合成の増強や、脂質過酸化をはじめとする酸化ストレスの軽減を通じて肝障害からの保護を図ることで、エチレングリコール中毒の病態を緩和できる可能性を検討します。これにより、誤飲事故による重篤化や後遺症の軽減につながることが期待されます。

付記

この研究は、文部科学省科学研究費助成事業(JP22K10606、JP20H03955)の支援のもとで行われました。

用語説明

[用語1]
エチレングリコール:化学式C2H6O2の二価アルコール。不凍液等さまざまな産業用途を有する。
[用語2]
SLC7A11-Gpx4経路:SLC7A11は血中のシスチンを細胞内へ取り込むxCT輸送体の一部で、シスチンは細胞内でグルタチオン(還元型)となる。これを用いてGpx4が過酸化脂質を還元することで細胞膜が正常に保たれる。
[用語3]
リボゾーム:アミノ酸からタンパク質を生合成する細胞内装置で、真核生物では小胞体上にある。

論文情報

掲載誌:
Forensic Toxicology
タイトル:
Possible role of ribosome biogenesis in the recovery from transient hepatic damage caused by ethylene glycol in rats
著者:
Kana Unuma, Toshihiko Aki, Nana Kobayashi, Shintaro Isa, Akinori Tojo

研究者プロフィール

鵜沼 香奈 Kana Unuma

東京科学大学 医歯学総合研究科 法医学分野 教授
研究分野:法医病理学、法医中毒学

秋 利彦 Toshihiko Aki

東京科学大学 医歯学総合研究科 法医学分野 准教授
研究分野:法医中毒学

藤乘 嗣泰 Akihiro Tojo

獨協医科大学病院 血液浄化センター センター長/教授
研究分野:腎臓病学

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