「一滴」から、災害とパンデミックに備える

VI-Researcherインタビュー:Resilience-Tech Society Visionary Initiative

2026年10月14日 公開

山本 貴富喜 准教授(工学院)

山本 貴富喜 准教授

2025年4月に導入したVisionary Initiatives(VI)は、現行の医学、歯学、理学、工学、情報学、物質理工学、環境・社会理工学、生命理工学、リベラルアーツといった分野別縦割りの研究体制を、分野横断型へと大きく変革する仕組みです。研究者はいずれかのVIを選択し、異分野融合研究を加速していきます。

山本貴富喜准教授が担当するResilience-Tech Society VIは、国際的な協働により自然災害やパンデミックに備え、誰もが安心して暮らせる生活基盤を整えることを目指しています。

「なぜこのVIを選んだのか」「異分野研究者との出会いでこれから何が生まれるのか」、研究者一人一人のエピソードを紐解きます。

一滴で微生物を見つけ、感染症に強い社会へ

マイクロ・ナノデバイスとAIを融合した「微生物AIセンサ」の研究開発に取り組む山本准教授。東京医科歯科大学と東京工業大学の統合に向けた動きの中で始まった医工連携を、災害やパンデミックに強い社会の仕組みへと広げようとしています。細菌やウイルスを見分けるセンサを開発する工学者は、なぜResilience-Tech Societyを選んだのか。研究室で生まれた技術を、感染症や災害の現場で人を守る力へ変えたい——その思いと、世界展開の構想を聞きました。

――専門分野と、現在の研究テーマを教えてください。

専門は、ナノバイオテクノロジー、マイクロ・ナノフルイディクス、超微小信号計測、微細加工、機械学習などです。微細加工でつくったマイクロ・ナノデバイスに、微弱な信号を捉える計測技術とAIを組み合わせ、ライフサイエンスや医療への応用に取り組んでいます。

なかでも今、特に力を入れているのが、細菌やウイルスなどを簡便かつ迅速に検出・識別する「微生物AIセンサ」です。最大の特徴は、鼻腔ぬぐい液などの検体をセンサに一滴垂らすだけで、そこに含まれるさまざまな微生物を一度に調べられること。さらには、デバイスが捉えたわずかな信号の違いをAIが読み解き、微生物の種類を見分けることができます。対象ごとに検査キットを替えるのではなく、一回の計測で網羅的に明らかにすることを目指しています。また、研究成果を社会へ届けるため、スタートアップの立ち上げも進めています。

――なぜResilience-Tech Societyを選んだのでしょうか。

きっかけは、大学統合を見据えて設けられたマッチングファンドでした。当時すでに微生物センサの研究を進めていた私は、武内寛明先生(医歯学総合研究科)に「一緒に研究をしませんか」と声をかけました。そこから、将来のパンデミックに対抗できる、誰もが簡単に使えるセンサの共同研究が始まったのです。

大きな災害が起きると、避難所の過密化や衛生環境の変化などにより、食中毒や感染症のリスクが高まります。日常的な医療の現場だけでなく、被災地でも使える簡便な検査技術を実現し、人々を感染症から守りたい。そう考えて進めてきた私たちの研究と、Resilience-Tech Societyが掲げる方向性がまさに重なりました。

センサの検出原理を確立するところまでは、工学を中心に進められます。しかし、どの感染症を対象とし、どの検体を使い、得られた結果を診療や感染対策にどうつなげるかは、工学だけでは決められません。医学系の研究者や医療現場の方々とともに研究を設計し、さらに災害時の運用や社会実装まで見据える必要があります。その意味で、この研究は分野横断を掲げるVIの枠組みと非常に相性がよいと感じています。

――VIへの参画によって、研究にどのような広がりが生まれましたか。

いちばん大きいのは、東京科学大学病院の医師や看護師、スタッフの方々に話を聞きやすくなったことです。すでに何度かヒアリングを重ね、「ここでも使えるかもしれない」という具体的な可能性が見えてきました。これまで私一人が頭の中で描いていた活用場面が、現場の声を通じて現実的なシナリオへと変わったのです。

用途は病院内の感染症検査にとどまりません。災害現場に最初に入る消防、警察、自衛隊といったファーストレスポンダーがセンサを携行し、現地の感染リスクをその場で把握する。さらには、海外の被災地支援に役立てる。そうした展開も視野に入ってきました。センサを単体の「モノ」としてではなく、感染症に強い医療・社会システムを支えるインフラとして捉え直せるようになったことが、VIに参画した大きな収穫です。

――若い研究者が「もう一つの専門」を持つことを、どう考えますか。

アカデミアには、一つのテーマを狭く深く掘り下げる大切さがあります。一方で、実社会の課題は「自分はこれしかやらない」という姿勢では解決できません。どこに本当の問題があるのかを俯瞰して見つけ、解決へ近づくには、ある程度幅広い知識が必要です。

とはいえ、「もう一つの専門を持つ」とは、一人で複数の分野を究めることではありません。異分野の考え方や言葉を理解し、それぞれの専門家と課題を共有できる力を身につけることだと思います。主となる専門を深めながら、サブテーマや共同研究を通じて視野を広げることは、これからの研究者にとってますます重要になるはずです。

――今後、Resilience-Tech Societyを通じて実現したいことを教えてください。

まずは微生物AIセンサを通じて、パンデミックレジリエンスの向上に貢献することです。高性能なセンサが完成しても、それだけで現場に普及するわけではありません。誰が、どこで、どう使うのかを見据えたUI・UX、検体採取から判定後の対応までの運用フロー、さらにコストやサービス体制まで含めて設計する必要があります。医学系の研究者や病院と連携し、前臨床評価、臨床試験へと段階的に進みながら、社会実装につなげていきます。

その先に描いているのが、本学のガーナ研究拠点を足がかりとした、アフリカ・アジアへの展開です。感染症や食中毒の被害が大きく、日本から直接つながることが難しい地域にも、VIと大学の国際的なネットワークを生かして技術を届けたい。一滴の検体から始まる技術で、世界の人々を感染症から守る——それが私の目標です。

山本 貴富喜 准教授

プロフィール

山本 貴富喜(やまもと・たかとき)

東京科学大学 工学院 機械系 准教授。博士(工学)。ナノバイオテクノロジー、マイクロ・ナノフルイディクス、超微小信号計測、微細加工、機械学習を融合し、微生物AIセンサなどの研究開発に取り組む。

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