ポイント
- 自然免疫の中心分子である膜貫通型タンパク質STING[用語1]は、DNAウイルス感染時に炎症反応を誘導します。STING炎症はSTINGがリソソーム[用語2]により内包化されて終息します。
- リソソーム膜に存在するリン脂質PI(3,5)P2[用語3]が、膜をくびれさせて分断すること(くびり切り)を担うESCRT複合体[用語4]の構成因子CHMP4Bをリソソーム膜に呼び込むことで、STINGのリソソーム内包化を制御することを明らかにしました。
- 本研究成果は、炎症性疾患や神経変性疾患の病態理解に寄与するとともに、STINGによるシグナルを持続させることでがん免疫療法の有効性を高めるという新しい治療戦略への貢献が期待できます。
概要
自然免疫はウイルスなどの異物を認識して炎症反応を引き起こす生体防御機構です。その中心的な経路の一つがSTING経路であり、DNAウイルス感染やがん細胞からのDNA漏出を感知して炎症反応を誘導します。一方で、この経路の過剰な活性化は自己炎症性疾患や神経変性疾患などの原因となるため、STING炎症シグナルを適切に終息させる仕組みが重要です。
東京科学大学 総合研究院 難治疾患研究所の佐々木雄彦教授と梶保博昭助教は、東北大学 大学院生命科学研究科の東海林紬大学院生、朽津芳彦助教、田口友彦教授、慶應義塾大学、京都大学、旭川医科大学、鹿児島大学と共同で、リソソーム膜に存在する脂質PI(3,5)P2がESCRT複合体の構成因子CHMP4Bをリソソーム膜へ呼び込みSTINGのリソソーム内包化を制御すること、およびこのプロセスによりSTING炎症が終息していることを明らかにしました。本研究は、リソソーム脂質とタンパク質の相互作用が自然免疫シグナルの終息を制御することを示したものであり、STINGによるシグナルを標的とした新しい治療法開発への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年5月27日に科学誌「Nature Communications」に掲載されました。
通常時(上段)、STING小胞クラスターはリソソーム膜に局在するPI(3,5)P2とCHMP4Bの相互作用を介してリソソーム内腔に取り込まれます。このプロセスによりSTING炎症シグナルは終息します。一方でPikfyveを阻害した場合(下段)には、STING小胞クラスターがリソソームに取り込まれずに細胞質ゾルに蓄積し、炎症が持続してしまいます。
背景
STING経路は、細胞質に出現したDNAを感知して自然免疫応答を誘導する重要なシグナル伝達経路です。DNAウイルス感染や、がん細胞などからのDNA漏出に応答して活性化し、インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を誘導します。近年STING経路は、がん、自己炎症性疾患、老化性炎症、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症といった多様な疾患の病態形成に関わることが報告され、注目を集めています。
これまでに東北大学大学院生命科学研究科の朽津助教・田口教授らのグループは、リソソームが細胞質成分を直接内包化する現象(=リソソームミクロオートファジー)により、膜貫通型タンパク質であるSTINGのシグナルが終息することを見いだしていました(Kuchitsu et al. Nat.Cell Biol. 2023)。しかしながらSTING自身の内包化を担うリソソーム側の分子機構は不明のままでした。
今回の取り組み
本研究で東北大学大学院生命科学研究科の東海林紬大学院生、朽津芳彦助教、田口友彦教授は、東京科学大学 総合研究院 難治疾患研究所の佐々木雄彦教授、梶保博昭助教、慶應義塾大学の山本詠士准教授、平野秀典特任教授、京都大学の八角高裕特定教授、旭川医科大学の甲賀大輔准教授、鹿児島大学の久住聡助教らとの共同研究を実施しました。
まず、STING分解評価スクリーニングによるSTING分解制御因子の同定を行いました。STINGの分解を一度に効率的に測定できる評価系(Shoji et al. Cell Struct. Funct 2025)により、キナーゼ阻害剤ライブラリーを用いた薬剤スクリーニングとESCRT構成因子の発現抑制スクリーニングを行いました。その結果、リソソーム膜脂質PI(3,5)P2を産生する酵素Pikfyveの阻害剤処理、およびESCRT複合体の構成因子CHMP4Bの発現抑制のいずれの条件でも、STINGの分解が阻害されることが明らかになりました。またこれらの条件では、活性化したSTINGはリソソームに内包化されず細胞内に蓄積し、炎症シグナルが持続することが明らかになりました。
次に、PI(3,5)P2-CHMP4B間相互作用の証明を行いました。PI(3,5)P2はリソソーム膜に存在する脂質であることが知られています。そこでCHMP4Bの細胞内での局在を解析した結果、CHMP4Bもリソソーム膜上に局在していることが確認されました。PIKfyve阻害剤によりPI(3,5)P2の産生を阻害すると、CHMP4Bのリソソーム局在は消失しました。さらに通常はPI(3,5)P2が存在しない初期エンドソーム上で人工的にPI(3,5)P2の産生を誘導すると、CHMP4Bが初期エンドソーム膜に局在するようになりました。
これらの結果から、PI(3,5)P2がCHMP4Bを膜上へ呼び寄せる上で必要十分な役割を持つことが示されました。さらに、分子動力学シミュレーションおよび生化学解析により、CHMP4BがPI(3,5)P2に直接結合する能力を持つことも明らかになりました。
今後の展開
本研究により、リソソーム膜脂質PI(3,5)P2がESCRT構成因子CHMP4Bをリソソーム膜へ呼び寄せ、その結果としてSTINGがリソソーム内へ取り込まれて分解される分子機構が明らかになりました。この発見を契機に、リソソームミクロオートファジー分解を受けるタンパク質の同定につながることが期待されます。
また本研究では、Pikfyve阻害剤処理によりSTINGの分解が阻害され、炎症シグナルが持続することが明らかになりました。STING経路はがん免疫応答の活性化にも関与することから、Pikfyve阻害剤などを用いてSTINGシグナルを持続させることで、がん免疫療法の効果を高める新しい治療戦略につながる可能性があります。
謝辞
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP24H00548、JP25K18455、JP22K06171)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21E4)、同さきがけ(JPMJPR22EE)、同次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)(JPMJSP2114)、AMED-CREST(JP25gm1710007h0003)、武田科学振興財団 、上原記念生命科学財団 、セコム科学技術振興財団、日本学術振興会特別研究員 (23KJ1785) 、東北大学大学院生命科学研究科 研究奨励賞2024、Nanken-Kyoten、Multilayered Stress Diseases program、Initiative for High Depth Omics、東北大学 学際高等研究教育院 をはじめとする研究費支援を受けて実施されました。掲載論文は『東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』によりOpen Accessとなっています。
用語説明
- [用語1]
- STING:Stimulator of interferon genesの略。小胞体に局在する膜貫通型タンパク質で、細胞質ゾルDNAの出現に反応してゴルジ体へ移動し、自然免疫・炎症応答を活性化する。炎症応答活性化後、STINGは膜小胞の集合体(STING小胞クラスター)と形をかえ、最終的にリソソーム内腔に取り込まれて、その炎症応答が終息する。2014年にSTINGの変異に起因する常染色体顕性の遺伝性自己炎症性疾患SAVI(STING-associated vasculopathy with onset in infancy)が同定され、種々の炎症性疾患の原因となることが判明し、近年大きな注目を集めている。
- [用語2]
- リソソーム:真核細胞に存在する細胞小器官の一つ。リソソームは膜に包まれた構造体で、内部(内腔)に加水分解酵素を豊富に含む。細胞外から取り込まれた物質や細胞内の不要となった成分を分解する場として機能し、細胞内における物質の分解と再利用を担うオルガネラとして知られている。
- [用語3]
- PI(3,5)P2:イノシトール環を極性頭部に持つリン脂質。PI(3,5)P2(phosphatidylinositol 3,5-bisphosphate)は、イノシトール環の3位と5位にリン酸基を有する。
- [用語4]
- ESCRT複合体:Endosomal Sorting Complex Required for Transportの略。真核生物において高度に保存されたタンパク質複合体群であり、膜をくびれさせて分断(くびり切り)する機能を持つ膜リモデリングを担う。
論文情報
- 掲載誌:
- Nature Communications
- タイトル:
- A PI(3,5)P2/CHMP4B axis on lysosomes is essential for microautophagic degradation of STING
- 著者:
- Tsumugi Shoji, Ayumi Shinojima, Takuma Kishimoto, Kanako Sato, Nana Ikegami, Eisuke Yumoto, Ruri Shindo, Yasunori Uchida, Satoshi Kusumi, Daisuke Koga, Eiji Yamamoto, Yoshinori Hirano, Ryo Ogino, Hirofumi Shibata, Kazushi Izawa, Takahiro Yasumi, Ryota Sato, Jun Nakayama, Shigeki Higashiyama, Junya Hasegawa, Hiroaki Kajiho, Takehiko Sasaki, Yoshihiko Kuchitsu*, Tomohiko Taguchi*(*責任著者)