「第2回 未来の自分を支える健康セミナー ~FUSの理解とヘルスセルフマネジメント~」を開催

2026年10月21日 公開

東京科学大学(Science Tokyo)学生支援センターと社会連携・DE&I本部DE&I部門、アントレプレナーシップ教育機構は、10月2日、「第2回 未来の自分を支える健康セミナー ~FUSの理解とヘルスセルフマネジメント~」をオンライン(Zoomウェビナー形式)で開催しました。

本セミナーは、学生や教職員が現在から将来にわたって、健康的で充実した人生を送ることを目的としたシリーズ講演会です。第2回となる今回は、佐藤憲子先生(日本女子大学 教授・医師)を講師に迎え、「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)」をテーマに講演いただきました。

健康セミナー案内ポスター

「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)」とは

FUS(Female Underweight/Undernutrition Syndrome)は、「閉経前までの成人女性における低体重または低栄養を背景とし、それに起因する多様な身体的・精神的健康障害を包括する概念」です。2025年に日本肥満学会のワーキンググループによって提唱されましたが、現在も診断基準の確立に向けた検討が進められています。

FUSは日本語で「女性の低体重/低栄養症候群」ですが、日本の若年女性の約2割が「やせ(低体重)」に該当する深刻な現状に加え、たとえ標準体重であっても低栄養状態ゆえにFUSが疑われる人が少なくないことが説明されました。また、FUSと関連する症状は、筋力低下や月経周期異常、骨密度低下、糖・脂質代謝異常、精神神経症状など、多岐にわたることが紹介されました。

女性の栄養・代謝・内分泌のネットワーク

講演では、FUSを脳の神経内分泌システムの観点から捉えた説明がなされました。
私たちの脳は栄養不足を感知すると、視床下部のニューロンがシグナルを伝達し、摂食行動を促進します。このシステム自体に性差はありませんが、興味深いことに、この摂食行動を調節するニューロンは、特にメス(女性)において、生殖内分泌系制御の最高司令塔であるキスペプチンニューロン、特にKNDy(キャンディ)ニューロンの働きをも調節しています。
女性の脳内では、栄養不足に陥ると、「摂食行動を促しつつ、エネルギー消費を抑える仕組み」が働きます。エネルギー消費抑制のシグナルは、生殖・内分泌系にも自律神経系にも伝わります。特に、エネルギーを大量に消費する生殖活動を停止させて個体の生存を優先するため、KNDyニューロンの活動が抑制されます。食事が十分に摂れていない場合に月経不順になるのはこのためです。メスのKNDyニューロンは栄養状態の変化に対して非常に敏感であるという事実は最新の単一細胞核RNA-seq解析結果から裏付けられていることも紹介されました。さらに佐藤先生は「FUSのその他の症状についても、エネルギー消費抑制の自律神経系を介した調節の不具合によって説明できる可能性がある」という見解を示されました。

スライド:女性における栄養代謝系と生殖・内分泌系のつながり

将来の健康への影響

FUSの問題は現在の体調不良だけでなく、生涯にわたって影響が及ぶ可能性があります。具体的には、不妊や妊娠合併症リスクの上昇、骨粗鬆症や骨折リスクの増大、筋力低下による将来的なフレイルやロコモティブシンドロームへの進行、さらには糖尿病、脂質異常症など、影響が多方面に及びます。
さらに、妊娠前の低栄養状態が次世代の健康にも影響を及ぼす可能性があることから、若い時期の適切な健康管理は、自分自身だけでなく将来の家族の健康とも関わる重要な課題であることが説明されました。

セルフチェックと生活習慣の見直し

FUSと関連する自覚症状として、多い順に「冷え性」「肌や髪のトラブル」「抑うつ症状」「疲労・倦怠感」「慢性頭痛」「睡眠不足」が挙げられることがFUSワーキンググループの田村好史先生(順天堂大学)らの調査によって報告されています。こうした不調を見過ごさず、早めに生活習慣を改善することが大切であると指摘されました。

スライド:生活習慣改善のための参照事項

予防のために気をつけるポイントとして、以下の点が挙げられました。
• 必要なエネルギー量を満たす食事を心掛ける
• 糖質・脂質・たんぱく質をバランスよく摂取する
• 朝食を含め規則正しい食生活を維持する
• 十分な睡眠を確保する
• 日常的に身体を動かす

特に「朝食で糖質とたんぱく質をしっかり摂ること」「座りっぱなしを避けること」など、具体例を提示しながら、学生や研究者でも実践しやすい具体的なアドバイスが示されました。

質疑応答では、「摂取エネルギーと栄養バランスのどちらを優先すべきか」「やせ体質の人が気を付けること」「忙しい研究生活の中での食事の工夫」など、多くの質問が寄せられました。
佐藤先生からは、一人ひとりの状況に応じたセルフマネジメントの重要性が強調されるとともに、完璧を目指すのではなく、できる範囲から食事・運動・睡眠を整えていくことが将来の健康につながるとのアドバイスがありました。
また、FUSの背景には「やせていることが良い」という価値観や、低栄養リスクへの理解不足といった社会的要因があることにも触れ、「個人の問題としてではなく、社会全体で正しく理解し予防に取り組むことが大切である」と締めくくられました。

おわりに

本セミナーでは、FUSが単なるやせの問題ではなく、脳・ホルモン・代謝が複雑に関わる健康課題であることが明らかになりました。自分の身体から発せられるサインに気付き、食事・運動・睡眠などの日々の生活習慣を見直すことが、将来にわたる健康を支える第一歩となります。

Science Tokyoでは、学生・教職員のウェルビーイング向上を目指し、今後も「未来の自分を支える健康セミナー」を継続して開催していきます。

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