データに新たな価値を与えて、危機に強い社会を支える

VI-Researcherインタビュー:Resilience-Tech Society Visionary Initiative

2026年8月19日 公開

脇田 建 准教授(情報理工学院)

脇田 建 准教授

2025年4月に導入したVisionary Initiatives(VI)は、現行の医学、歯学、理学、工学、情報学、物質理工学、環境・社会理工学、生命理工学、リベラルアーツといった分野別縦割りの研究体制を、分野横断型へと大きく変革する仕組みです。研究者はいずれかのVIを選択し、異分野融合研究を加速していきます。

脇田建准教授が担当するResilience-Tech Society VIは、自然災害やパンデミック、社会システムの障害など、多様で複雑な危機を包括的に捉え、分野や国境を越えて知を結集することで、人々の命と暮らしを守るレジリエントな社会の実現を目指しています。

「なぜこのVIを選んだのか」「異分野研究者との出会いでこれから何が生まれるのか」、研究者一人一人のエピソードを紐解きます。

Resilience-Tech Societyで拓く、情報可視化の新たな役割

膨大で複雑なデータを、人はどこまで正しく理解できるのでしょうか。視覚的データ分析と情報可視化を研究する脇田建准教授は、データを人が理解し、分析し、議論できる形へ変える技術を追究しています。研究者の分析を効率化し、専門家の間で新たな知見を共有し、さらに一般の人々へ分かりやすく伝える――。情報可視化の力を防災・減災や危機管理へ生かすために選んだのが、Resilience-Tech Societyです。理学・情報学の枠を越え、社会の切実な課題へ近づこうとする挑戦について聞きました。

――専門分野と、現在の研究テーマを教えてください。

私の専門は計算機科学で、その中でも視覚的データ分析(Visual Analytics)と情報可視化(Information Visualization)を研究しています。情報可視化は、一般的なグラフやチャートを作ることだけではありません。モノや人、概念同士の関係性、データに潜む構造を視覚的に表し、人が理解しやすい形へ変える技術です。

データ可視化というと、研究成果をプレゼンテーションや学会発表、論文で示すためのものを思い浮かべる方が多いと思います。もちろん、それも重要な役割です。しかし、私が重視しているのは、分析の途中で可視化を使い、データの整理、分析、統合、記録、共有といった一連の作業を効率化することです。対話的にデータを眺め、気になる部分を掘り下げることで、新しい発見や仮説につなげることができます。

さらに、研究で見つけたことを一般の人々へ分かりやすく説明することも、可視化の大切な目的です。データ可視化は、研究者個人の分析、専門家コミュニティでの新しい知見の共有、そして社会への発信をつなぐ役割を担っています。

――なぜResilience-Tech Societyを選んだのでしょうか。

データ可視化は、対象分野の研究者や現場の人と一緒に課題に取り組むことで発展する学問です。自分が面白いと思える研究を続けるには、理学・情報学の殻の内側にとどまらず、データが生まれる現場や、社会とつながる人々のそばへ行く必要があるのではないかと考えました。いくつかのVIを見た中で、社会との結び付きが最も強く、自分の技術を切実な課題へ生かせると感じたのがResilience-Tech Societyでした。

折しも熊本で地震が発生し、ニュースでは被害や避難の状況が伝えられ、学内でも災害派遣医療チーム(DMAT)が動き始めるという情報が共有されていました。被災地には支援を必要とする人がいて、大学から専門的な支援を届ける土壌もあります。災害時に膨大な情報を整理し、状況を正しく理解し、必要な人へ伝える場面でこそ、データ可視化は力を発揮できるのではないかと改めて感じました。

防災や危機管理との接点は、私の研究人生の中で思いがけず生まれたものでもあります。博士後期課程では並列分散プログラミング言語を研究し、ソフトウェア工学の第一人者であるオランダ・トゥウェンテ大学のMehmet Aksit教授のもとへ留学しました。その後、私は専門をデータ可視化へ移しましたが、約2年前に再び連絡をいただきました。Aksit教授がトルコ大統領府の地方自治体・災害政策に関わるワーキンググループへ参加したことをきっかけに、私自身も災害管理や危機管理のIT技術を研究する国際的なグループの立ち上げに携わり、現在は国際ワークショップを開催するまでに活動が広がっています。

父が東京大学地殻化学研究施設の創設に関わり、義弟が名古屋大学減災連携研究センターで防災研究に携わっていることもあり、自然災害は以前から身近なテーマでした。こうした縁と問題意識が重なり、Resilience-Tech Societyへの参画につながりました。

――VIへの参画によって、研究にどのような広がりが生まれそうですか。

現時点では、学内のネットワークづくりはこれからという段階です。だからこそ、防災、医療、社会基盤、心理、情報など、さまざまな分野の先生方と出会えることを楽しみにしています。異なる専門分野の研究者が同じ課題に向き合えば、自分だけでは気付かなかったデータの見方や、可視化すべき新しい課題が見えてくるはずです。

一方的に可視化技術を提供するだけではありません。現場固有の課題と向き合うことによって、情報可視化や視覚的データ分析の側にも新しい研究テーマが生まれます。社会課題の解決と基礎研究の発展が互いを押し広げるような関係をつくりたいと考えています。

――Science Tokyoならではの異分野融合に、どのような可能性を感じていますか。

海外では、多様な専門分野の研究者が強いチームを組み、それぞれの専門性を持ち寄って社会課題へ取り組む例が多くあります。Science Tokyoには、理工学だけでなく、医療や生命科学、社会科学まで幅広い知が集まっています。災害や危機に対するレジリエンスは、1つの分野だけでは扱えないテーマですから、この環境は大きな強みになると思います。

私は、視覚的データ分析や情報可視化の技術を、医療、防災、社会システムなどの研究者へ提供し、研究活動を直接支援したいと考えています。共同研究から各分野に固有の可視化課題や新しい方法論が生まれれば、情報可視化という研究分野そのものに関心を持つ研究者も増えていくでしょう。異分野融合とは、単に異なる専門家が集まることではなく、それぞれの専門性が出会い、双方に新しい価値を生み出すことだと思います。

――今後、Resilience-Tech Societyを通じて実現したいことを教えてください。

現代社会では、膨大で複雑なデータを人がそのまま理解することは容易ではありません。データ可視化は、人間が本来持つ優れた視覚認知能力を生かし、データに新たな価値を付与して「見られる力」を与える技術です。それによって、研究者は分析を深め、専門家同士は知見を共有し、一般の人々も発見の意味を理解して議論できるようになります。

災害や危機の場面では、専門家、行政、医療者、支援者、市民が、同じ状況認識を持つことが欠かせません。その中でデータ可視化は、単なる分析ツールではなく、知識を共有し、判断と行動を支える「共通言語」になり得ます。Resilience-Tech Societyの異分野融合を通じて、必要な情報を必要な人へ分かりやすく届け、危機に強い社会づくりへ貢献していきたいと思っています。

パソコンのデータ画面を指して説明する脇田准教授

プロフィール

脇田 建(わきた・けん)

東京科学大学 情報理工学院 数理・計算科学系 准教授。博士(理学)。専門は計算機科学、視覚的データ分析(Visual Analytics)、情報可視化(Information Visualization)。複雑で高次元なデータの構造や関係性を、人が理解し、探索できる形で表現する対話的可視化技術を研究している。データ可視化を通じた防災・危機管理などの社会課題への貢献にも取り組んでいる。

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