オートファジーに必要な「膜の種」を守る仕組みを発見

2026年8月31日 公開

Atg9小胞の保護とその解除のメカニズムを解明

ポイント

  • オートファジーにおいて形成される膜の材料となる小胞を膜形成の場に運ぶ間に保護する仕組みと、膜形成の場でそれを解除する仕組みを発見
  • 酵母をモデル生物として、細胞生物学・生化学・ライブイメージング解析で明らかに
  • オートファジーを支える分子機構の理解を前進させ、オートファジーの活性制御技術や関連疾患の治療法の開発につながる基盤的知見となることに期待

概要

東京科学大学(Science Tokyo)総合研究院 細胞制御工学研究センターの木村匠研究員 、小谷哲也特任講師、中戸川仁教授らの研究チームは、オートファジーにおいて、膜形成の種(seed membrane)となる小胞[用語1]が膜形成の場に運ばれる間、細胞内の別の膜に吸収されてしまわないように守る仕組みを解明しました。

オートファジーは、酵母からヒトまで真核生物に共通して見られる、細胞内の主要な分解機構です。オートファジーでは分解すべき細胞成分をオートファゴソームと呼ばれる脂質膜の袋に包んでリソソームや液胞[用語2]に運び、分解します。オートファゴソームは、Atg9と呼ばれる膜タンパク質を含む小さな球状の膜(Atg9小胞)を核として、これを伸ばすようにして形成されますが、Atg9小胞がオートファゴソーム形成の場に運ばれるプロセスについては未解明でした

本研究では酵母細胞を用いた解析により、Atg9小胞はオートファゴソーム形成の場にたどり着くまでの間に、関係のない膜と融合してしまわないよう、Atg23というタンパク質によって保護されていることを発見しました。さらに、Atg9小胞がオートファゴソーム形成の場に到着すると、Atg1というタンパク質リン酸化酵素の働きにより、Atg23がAtg9小胞から解離する脱保護のメカニズムも明らかにしました。また、この脱保護は、その後のオートファゴソーム形成の進行に重要であることを示しました。

本研究は、オートファゴソーム形成における新たな小胞輸送支援機構を分子レベルで解き明かしたもので、オートファジーを支える細胞システムの包括的理解のための重要な基盤情報となります。

本成果は、7月20日付(現地時間)の「The EMBO Journal」誌に掲載されました。

背景

オートファジーは、酵母から哺乳類、植物に至るまで、真核生物に高度に保存された細胞内分解機構です。オートファジーにおいて、分解対象の細胞成分はオートファゴソームと呼ばれる脂質膜の袋に隔離され、リソソームや液胞へ輸送され、分解されます。最近の研究により、オートファゴソームの形成は、細胞の中の決まった場所で、Atg9小胞と呼ばれる直径50 nmほどの小さな球状の膜を出発材料として始まることが明らかになってきました。Atg9小胞はゴルジ体やエンドソームといった細胞小器官から出芽して形成されますが、形成したAtg9小胞が細胞質を拡散してオートファゴソーム形成の場にたどり着くまでのプロセスについては未解明でした。

研究成果

本研究では、Atg9小胞に含まれる膜タンパク質であるAtg9と相互作用し、Atg9小胞の形成に関わることが分かっていたAtg23というタンパク質に着目しました。まず、蛍光顕微鏡解析により、Atg23はAtg9小胞が完成した後もAtg9に結合したまま小胞とともに細胞質を拡散していることを示しました。しかしながら、オートファゴソーム形成の場にはAtg23がほとんど存在しないことから、Atg9小胞がオートファゴソーム形成の場にたどり着くとAtg23がAtg9小胞から解離することが示唆されました。

さらに、オートファジーに関わるさまざまなタンパク質をリン酸化してそれらの機能や動態を制御するAtg1リン酸化酵素複合体が欠損した細胞では、Atg23がAtg9小胞と共にオートファゴソーム形成の場に蓄積したことから、Atg23のAtg9小胞からの離脱はAtg1によって制御されていることが示唆されました。

実際に、変異解析および試験管内リン酸化実験の結果から、Atg1によってAtg9の19番目と948番目のセリン残基がリン酸化されるとAtg9とAtg23との相互作用が大きく減弱し、Atg23がAtg9小胞から解離することが明らかとなりました。また、Atg23とAtg9の相互作用が低下すると、Atg9小胞の数が減少することが分かりました。Atg23はAtg9小胞の形成に関与することが知られていたため、Atg9とAtg23との相互作用低下に伴いAtg9小胞の形成効率が低くなった結果、Atg9小胞の数が減少したと解釈することができましたが、論理的には、形成後のAtg9小胞の安定性が低下した場合も、小胞の数が減少することが考えられます。この可能性を検証したところ予想外の発見につながりました。

細胞内にはさまざまな小胞が存在し、細胞小器官間の物質輸送を担っています。小胞と細胞小器官との融合はSNAREと呼ばれるタンパク質群によって引き起こされます。Atg23がAtg9小胞に結合できない細胞において、SNAREによる膜融合反応を阻害すると、Atg9小胞の数が増加しました。このことは、Atg23が結合していないAtg9小胞は、SNAREによって細胞小器官の膜と融合して消滅してしまうことを意味します(具体的にどの細胞小器官と融合するのかは未特定です)。このような結果から、Atg23には、Atg9小胞が細胞質を拡散してオートファゴソーム形成の場に到達するまでの間、オートファジー非関連膜との融合から保護する役割があることが明らかになりました(図1)。

前述の通り、Atg9小胞がオートファゴソーム形成の場に無事にたどり着くと、Atg1によりAtg9がリン酸化され、Atg23はAtg9小胞から解離します。本研究では、この脱保護の意義も明らかにしました。すなわち、Atg23のAtg9小胞からの脱離は、オートファゴソーム形成の場への他の関連因子の招集を促し、オートファゴソーム形成のスムーズな進行に重要であることが分かりました(図1)。

図1. Atg23によるAtg9小胞の保護と脱保護

社会的インパクト

オートファジーは、細胞内の不要あるいは有害な成分を回収・分解し、細胞を健全に保つための基本的な仕組みです。本研究は、この仕組みを支える膜の材料が細胞内で失われずに必要な場所へ届けられる原理を明らかにしました。加齢や病気に伴う細胞機能の変化に対して、細胞が恒常性を保とうとする仕組みを理解するための土台となります。将来的には、がんや神経変性疾患など、オートファジーの異常と関連する疾患の予防・治療や、健康的な加齢を支える方策の開発に寄与することが期待されます。

今後の展開

本研究では、酵母を用いて、オートファゴソーム形成の出発材料となるAtg9小胞を保護する仕組みを明らかにしました。Atg9小胞は哺乳類細胞においてもオートファゴソーム形成に必須の役割を果たします。Atg23に相当するタンパク質は哺乳類では見つかっていませんが、Atg9小胞の性質や細胞内での輸送様式を考えると、哺乳類でもオートファゴソーム形成部位に到達するまでAtg9小胞を保護する仕組みが必要と考えられます。今後は、その実態を明らかにすることで、オートファゴソーム形成を支える普遍的な原理の理解が進むことが期待されます。

付記

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(JP19H05708、JP23K20044、JP25H01322、JP25K09544)、武田科学振興財団研究助成による支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1]
小胞:細胞小器官の間でタンパク質や脂質などの輸送を担う小さな脂質膜の袋(中空のボールのような構造体)。輸送元の細胞小器官から輸送すべき物質を積み込んで形成され、輸送先の細胞小器官と融合することで、その物質を運ぶ。Atg9小胞の場合は、小胞を構成する脂質膜そのものがオートファゴソーム形成の出発材料として利用される。
[用語2]
リソソーム、液胞:さまざまな分解酵素を含む細胞小器官。動物細胞ではリソソーム、酵母や植物では液胞と呼ばれる。

論文情報

掲載誌:
The EMBO Journal
タイトル:
Atg23 prevents aberrant fusion of Atg9 vesicles during delivery to autophagosome formation sites
著者:
Takumi Kimura, Takayuki Shima, Tetsuya Kotani, and Hitoshi Nakatogawa

研究者プロフィール

木村 匠 Takumi Kimura

東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター 研究員
研究分野:分子細胞生物学

小谷 哲也 Tetsuya Kotani

東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター 特任講師
研究分野:分子細胞生物学

中戸川 仁 Hitoshi Nakatogawa

東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター 教授
研究分野:分子細胞生物学

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東京科学大学 総合研究院 細胞制御工学研究センター
教授 中戸川 仁

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