どんな研究?
新型コロナウイルス(COVID-19)の流行とともに、さまざまな患者さんの診療や治療を通じて、「重症化しやすい人」の特徴が明らかになってきました。中でも「肥満」は特にリスクが高いことがわかっています。というのも、体にたまった脂肪が炎症を起こす物質を出しやすく、それが感染時に免疫の働きを暴走させてしまうのです。この暴走によって起こる強い反応はサイトカインストームと呼ばれ、自分の体を傷つけるほど激しい炎症につながります。
「この炎症を抑えることはできないだろうか?」

東京科学大学(Science Tokyo)の保田晋助(やすだ・しんすけ)教授と細矢匡(ほそや・ただし)准教授らの研究チームは、太らせたマウスを新型コロナに感染させる実験で、関節リウマチの治療に使われているイグラチモド(IGU)という薬の効果を調べていました。この薬は自己免疫疾患である関節リウマチの治療でサイトカインストームを防ぐのですが、自己免疫疾患ではないウイルスとの戦いでも、免疫の暴走を防ぎ炎症だけをうまくおさえてくれるのではないか?そう考えたのです。
ここが重要
細矢准教授らは、高脂肪のエサを食べて太ったマウスに新型コロナウイルスを感染させてみました。すると、強い炎症が肺で起こり重症化しやすくなりました。ところが、IGUを使うと肺の炎症が軽くなり、生き残るマウスが増えたのです。
つまり、IGUが「暴走した免疫」である強い炎症サイトカインストームをほどよくしずめることで、肺の組織を守り、ウイルスが広がりにくい状態を保つ助けになったのです。IGUそのものは、ウイルスの増殖自体を直接止めたわけではありませんが、肺という「ウイルスとの戦場」を整えて、体が有利に戦えるようにしたのです。
今後の展望
IGUはすでにリウマチの治療薬として日本や中国などで使われており、安全性も確認されています。これを新型コロナにも活用できれば、特に肥満の人など重症化リスクの高い人たちにとって、新しい治療の選択肢になります。このように、既に臨床利用されている薬剤を別の症例に応用することを薬剤再活用(ドラッグ・リポジショニング)と呼び、新たな可能性とともに期待されている研究分野です。
また、ワクチンや抗ウイルス薬と組み合わせて使うことで、より効果的な治療法の開発にもつながるかもしれません。
研究者のひとこと
重症化を、より現実に近いかたちで再現できる肥満のマウスを使ったことで、これまで見えにくかったヒントが得られました。炎症をおさえながら、体がウイルスと戦う力は保つという、難しいバランスをとれる薬があることがわかり、今後の治療につながる可能性が見えてきたと感じています。(細矢匡:東京科学大学 医歯学総合研究科 膠原病・リウマチ内科学分野 准教授)

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