AIは優れた触媒の条件を学べるのか?

2026年7月10日 公開

燃料電池触媒の探索を効率化:理想的な性能を持つ材料を提案する手法を開発

どんな研究?

スマートフォンを充電し、エアコンを動かし、自動車を走らせる――。私たちの便利な暮らしは、たくさんのエネルギーによって支えられています。しかし、その多くは石油や天然ガスなどの化石燃料に頼っており、資源の持続的な利用や環境への影響を考えながら、新しいエネルギー技術を開発することが世界的な課題となっています。

luchschenF/Shutterstock.com

そこで期待されているのが燃料電池です。水素と酸素から電気をつくり、発電時にほとんど二酸化炭素を出さないことから、次世代のクリーンエネルギー技術として注目されています。ただし、燃料電池には弱点があります。電気を生み出す反応を助ける「触媒」に、高価で希少な白金(Pt)が必要なのです。

これまで研究者たちは、白金の使用量を減らしながら性能を維持する方法を探してきました。その中で、白金とニッケル(Ni)を組み合わせたPt-Ni合金など、高性能な触媒の候補が見つかっていました。しかし、どの元素をどの割合で組み合わせれば最も優れた触媒になるのかは明確ではなく、膨大な候補を1つずつ調べる必要がありました。

さらに、触媒の開発で需要なのは、反応を速く進める「活性」と、長期間使っても性能が落ちにくい「安定性」の両方が両立することです。最初は高い性能を発揮したとしても、すぐに劣化してしまっては実用化できないからです。しかし、活性と安定性の両立は難しく、AIを使った材料探索でも両方を同時に最適化することは容易ではありませんでした。

そこで東京科学大学(Science Tokyo)の石川敦之(いしかわ・あつし)准教授と博士後期課程2年の若宮大志郎(わかみや・たいしろう)さんの研究チームは、「高性能で壊れにくい触媒が欲しい」とAIに指示した時、有望な材料候補を提案してくれる手法の開発に挑みました。

ここが重要

石川准教授らが研究を始めると、候補となる触媒材料があまりにも多いという課題に直面しました。すべてを高精度な計算で調べようとすると膨大な時間がかかります。そこで研究チームは、AIに有望な候補を提案させ、その結果を学習に反映する方法を採用しました。この工夫によって、限られた計算量でも効率よく探索できるようになりました。

さらに興味深いことが起こりました。研究チームがAIに「表面を白金で覆うとよい」と教えていなかったにもかかわらず、AIは試行錯誤を繰り返す中で、「どのような原子の並び方が高性能な触媒につながるのか」という法則を自ら学習しました。その結果、これまで研究者たちが有望だと考えてきた構造とよく似た特徴を持つ材料を次々と提案しました。

つまりAIは、単に大量の候補を調べるだけでなく、「どのような構造が良い触媒になりやすいか」というヒントを見つけ出すことができました。研究者はその結果を手がかりに、これまで以上に効率よく材料開発を進められるようになります。

今後の展望

今回開発された技術は、燃料電池触媒だけでなく、さまざまな材料開発への応用が期待されています。研究者が「こんな性能の材料が欲しい」と条件を与え、その条件に合った構造を見つけ出す考え方は「逆設計」と呼ばれます。本研究は、その実現に向けた大きな一歩となります。

将来的には、電池材料や化学触媒、航空機や自動車に使われる高機能材料などの開発を加速できる可能性があります。また、希少な白金を効率よく使うことで資源の節約にもつながります。AIが研究者の新しいパートナーとなり、これまで見つけられなかった材料を発見する時代が始まろうとしています。

研究者のひとこと

膨大な候補の中から有望な材料を探すには、人間の経験だけではどうしても限界があります。AIは何でも自動で答えを出してくれる魔法の道具ではありませんが、人間だけでは気づきにくい視点を与えてくれる面白い存在です。これからも、触媒とシミュレーションとAIをつなぎながら、新しい研究をしていきたいです。
(若宮大志郎:東京科学大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 博士後期課程)

若宮くんは博士課程から当研究室に異動してきましたが、当初からコーディング・計算と素早くやってくれました。この研究が若宮くんの成長の一助になれば幸いです。
また、AIは研究者に代わるものではなく、研究者の発想を広げる新しい道具です。本研究が、その可能性を示す一例になればうれしく思います。
(石川敦之:東京科学大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 准教授)

石川敦之准教授(左から2人目)、若宮大志郎さん(右端)と石川研究室のメンバー

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