動きまわる糖を止めて見た!薬や健康食品につながる糖鎖研究の最前線

2026年2月17日 公開

結晶を足場に、24時間で分子の形を捉える新しい研究手法

どんな研究?

甘い砂糖やパンの香り――私たちの身近にある「糖」は、体の中では細胞同士の会話や免疫反応を支える重要な役割を担っています。糖が鎖のようにつながった「糖鎖」は、生命活動の要とも言える存在です。

ところが糖鎖は、とてもやわらかいのが特徴です。つまり、分子同士の結合部分が自由に回転するため、形が次々に変わってしまうのです。そのため、その正確な姿を捉えるのはこれまで困難でした。

そこで注目されてきたのが、糖をタンパク質の結晶に固定して観察する「足場(スキャフォールド)」という発想です。足場として使うタンパク質には、分子をしっかり掴み、しかも同じ向きに並べてくれることが求められます。これができれば、動き回る糖でも「止まった一瞬の姿」を高精度で観察できます。

画像提供:上野隆史教授

中でも研究者の関心を集めてきたのが、ガレクチン10(Gal-10)です。Gal-10は体内で自然に結晶を作る、非常に珍しいタンパク質で、まさに「最初から足場の形を備えている」存在でした。しかし、本来、体内で起こるはずの結晶化を試験管の中で再現しようとするのは想像以上に難しい作業でした。Gal-10のきれいな溶液を大量につくり、温度や濃さ、溶液の性質などの結晶化のための化学条件をうまく調整する必要がありました。この作業には膨大な時間と手間がかかっていたため、身近な糖がGal-10にどう捕まえられているのかは、なかなか解き明かすことができませんでした。

ここが重要

東京科学大学(Science Tokyo)の上野隆史(うえの・たかふみ)教授らの研究は、その壁を一気に越えました。画期的だったのは、タンパク質を精製したり、何週間もかけて結晶を育てたりする必要がなくなった点です。上野教授らは、試験管の中でタンパク質を「作る」と同時に「結晶にする」方法を用いました。
この方法では、細胞を使わず、必要な材料だけを混ぜることで、短時間で均一な結晶が得られます。その結果、これまで扱いづらかったGal-10の結晶を、わずか24時間以内に安定して作り出すことができました。この新しい手法は、無細胞タンパク質結晶化(CFPC)法と呼ばれています。

その結果、三糖類「メレジトース」(ポプラなどの木の甘い樹液に含まれる糖)が結合した構造を世界で初めて解明しました。これは、三つの糖がつながった分子の立体構造を、初めてはっきりと見た例です。さらに、これまで不可能とされていた野生型Gal-10(人工的な改変をしていない自然のままのGal-10)に、牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)がどのように結合するかを解明し、従来とは異なる結合の向きがあることを示しました。
さらに、分子シミュレーションを組み合わせることで、どのアミノ酸が、どうやって糖の動きを止めているのかまで定量的に説明できた点も大きな成果です。

今後の展望

この技術は、薬づくりに直結します。糖鎖は、ウイルスや細菌、がん細胞などが体とやり取りする“目印”として働くからです。糖鎖と結合するタンパク質を狙った新薬設計や、未知の分子構造を高速で調べるスクリーニングに応用できます。
また、ラフィノースなどの三糖類は腸内細菌を元気にするプレバイオティクスとして注目されています。本研究の知見は、機能性食品やヘルスケア開発にも貢献するでしょう。

研究者のひとこと

動き回るから見えなかった糖の姿を、結晶という「写真スタジオ」で撮影できました。生命のしくみを知るだけでなく、社会に役立つ応用へ広げていきたいです。
(上野隆史:東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 教授)

上野隆史教授

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