どんな研究?
宝石の鮮やかな色、スマートフォンの美しい画面、太陽電池の発電性能。一見すると関係のないものに思えますが、実はどれも、材料が光にどのように反応するかによって生まれています。
こうした材料を開発するには、「どんな原子を、どのように並べれば思い通りの働きをするのか」を知る必要があります。しかし、その組み合わせは膨大で、研究者が一つひとつ試していては何年、何十年とかかってしまいます。
そこで近年は、AIを使って材料の性質を予測する研究が盛んになっています。これまでにも、材料の硬さや融点など、一つの数値で表せる性質を予測するAIは数多く開発されてきました。一方で、「様々な色の光にどう反応するか」のように複雑なデータを予測するAIの研究はまだ少なく、さらにAIがなぜその答えを出したのかを説明する方法はほとんどありませんでした。
東京科学大学(Science Tokyo)の高橋亮(たかはし・あきら)准教授らの研究チームは、2,681種類の無機材料をAIに学習させるとともに、AIがどのように答えを導き出しているのかを読み解く、新しい解析手法を開発しました。物質の複雑な性質を予測するAIが、何を手がかりに答えを出しているのかを、理解できる形で分析できるようになったのです。
ここが重要
新しい解析法でAIの内部を調べたところ、AIが何を手がかりに材料を選んでいたのかが見えてきました。AIは、光への反応とその予測根拠が似た材料を自動でグループ分けし、「どの元素が重要なのか」「原子がどう並ぶと目的の性質が生まれるのか」という共通の特徴まで見つけていました。
さらに驚いたのは、AIには高度な化学の知識を直接教えていなかったにもかかわらず、学習の中で材料の特徴を自らつかみ、人間が知っている化学のルールに沿うように分類していたことです。
つまり今回の成果は、高い予測精度のAIを開発しただけではありません。AIの考え方そのものを人間が理解できるようにしたことが、この分野における大きな前進です。
今後の展望
今回の研究によって、AIがどのような原子の組み合わせや構造に注目しているのかが分かるようになりました。こうした知見を利用すれば、高効率の太陽電池や光を利用するセンサー、環境に優しい塗料や着色剤など、新しい光学材料をこれまでより効率よく探せるようになることが期待されます。
この方法は「光」に限らず、時間や温度、圧力によって変化するさまざまなデータにも応用できる可能性があります。そのため、材料科学だけでなく、多次元データを扱うさまざまな研究分野で、新しい発見につながると考えられています。
研究者のひとこと
近年は材料科学でもAIの活用が進み、材料の性質を予測する精度や速度が向上し続けています。一方で学習していない領域で精度が劣るなどAIも万能ではありません。AIを使う場合でも、どのような物質に着目して学習・予測を行うべきかの判断は人間に委ねられており、その指針となる材料科学の理論やアイデアは依然として重要です。本手法のようにAIを予測に使うだけでなく、AIの判断を解釈して科学的な仮説を生成し、材料設計指針につながる理論・アイデアへの気づきを促すことができれば、これまで以上に材料科学の発展や新材料の発見を加速することができると考えています。
(高橋亮:東京科学大学 総合研究院 フロンティア材料研究所 准教授)
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