肥満になるとなぜ尿酸値があがりやすいのか

2025年5月16日 公開

メタボと遺伝子が尿酸値を左右する仕組みを発見

ポイント

  • 約37万人のビッグ・データ解析などにより、メタボリック症候群(メタボ)では腎臓が尿酸を排泄する力が弱まり、痛風の原因となる高尿酸血症を合併しやすくなることを示しました。
  • メタボで尿酸値が上がるメカニズムには、肥満によるインスリン抵抗性の増加(環境要因)と、腎臓で尿酸を運ぶ分子の個人差(遺伝要因)の両方が関与することがわかりました。
  • 肥満だけでなく、食塩のとりすぎも尿酸値を上げることを明らかにしました。

概要

東京科学大学 総合研究院 難治疾患研究所の高地雄太教授は、帝京大学 医学部 内科学講座の柴田茂教授と帝京大学 先端総合研究機構の藤井航特任助教との共同研究により、肥満に伴って血清尿酸値が上昇しやすくなるメカニズムを明らかにしました。痛風・高尿酸血症[用語1]個別化医療[用語2]や、新たな治療薬への応用が期待されます。

本研究成果は5月15日に「The Journal of Clinical Investigation」に掲載されました。

背景

「尿酸」という物質が血中で増えすぎた状態を「高尿酸血症」と呼びます。この状態が長く続くと、痛風という激しい関節痛を引き起こす病気になり、心臓病などのリスクが高くなることが知られています。

血液の尿酸値が上がる原因には、両親から受け継ぐ遺伝要因(体質)と、運動不足や肥満などの環境要因(生活習慣)の両方が関わっています。これまで体内で血糖値を下げるホルモンである「インスリン」が効きにくくなった状態(インスリン抵抗性[用語3])では、尿酸値が高くなりやすいことが知られていましたが、その詳しい仕組みは明らかではありませんでした。また、遺伝要因と環境要因がどのように組み合わさって尿酸値を決めるのかについても、ほとんどわかっていませんでした。

研究成果

本研究チームは、大規模な健康調査プロジェクト「UKバイオバンク[用語4]」から得られた約37万人分の遺伝情報と健康データを用い、尿酸値とインスリン抵抗性の指標、そして食塩摂取量の関係を解析しました。また、帝京大学医学部附属病院のデータを活用し、インスリン抵抗性の程度と尿中に排泄される尿酸との関係を調査しました。基礎実験では、「URAT1[用語5]」という腎臓で尿酸を輸送するタンパク質が、インスリンや塩分負荷によってどのように影響を受けるのかを調べました。

約37万人のビッグ・データ解析では、インスリン抵抗性が高い人や食塩摂取量が多い人ほど、尿酸値が高くなる傾向がありました。また、URAT1の発現が多くなる遺伝型を持つ方では、インスリン抵抗性に伴う尿酸値上昇が起こりやすいことがわかりました(「遺伝子―環境間交互作用[用語6]」)。

帝京大学医学部附属病院のデータを用いた解析では、インスリン抵抗性が高くなると、腎臓からの尿酸の排泄が少なくなることが示され、インスリン抵抗性と高尿酸血症の関連が、腎臓の働きに由来することがわかりました。メカニズムの解明のために行った基礎研究では、インスリンや食塩過剰に伴い腎臓のURAT1に「リン酸化[用語7]」という化学修飾が加わり、その結果としてURAT1の働きが調節されて、尿酸の排泄量が減ることが示されました。

研究の成果の意義

腎臓で尿酸の再吸収を担うURAT1の働きが、「遺伝要因(生まれ持った体質)」と「環境要因(日常の生活習慣など)」の両方によって調節される仕組みが明らかとなりました(図)。今回の研究の結果、メタボや肥満になるとなぜ尿酸値があがりやすいのか、そのメカニズムが明らかになりました。また同じように体重が増えても、尿酸値の上昇の度合いがどうして個人によって異なるのかを説明できるようになりました。

尿酸値を決める遺伝要因と環境要因(生活習慣)の交互作用

この図は、尿酸を腎臓で再吸収するURAT1タンパク質が、遺伝要因(図の左側)と環境要因(図の右側)の両方によって調節される仕組みを示しています。遺伝要因として、URAT1遺伝子に存在する個人差のひとつである遺伝子座rs475688の差異がURAT1タンパク質の量を修飾します。一方、環境要因として、肥満によって増えたインスリンが細胞内のAKT(インスリンの信号を細胞内に伝えるタンパク質)を介してURAT1の働きを促進します。とくに、URAT1が多く作られやすい遺伝子タイプ(rs475688の特定の型)を持つ人が、肥満などでインスリン抵抗性をもつ場合には、遺伝と環境の効果が重なり合い、尿酸値がさらに上昇しやすくなる「遺伝子―環境間交互作用」が生じます。

今後の展望

高尿酸血症や痛風の病態には遺伝要因と環境要因、そして両者の交互作用が関わっていることが明らかとなり、その予防には一人ひとりの体質に合わせた生活指導や治療が重要であることがわかりました。同様の研究が進んでいくことで、個別化医療の実践につながるものと考えられます。例えば、URAT1の働きが強まる遺伝子型を持つ人では、体重の増加とともに尿酸値も上昇しやすいため、痛風や高尿酸血症の予防のために、体重管理がより重要となります。また、食塩摂取も尿酸値の上昇と関連することから、減塩も尿酸値管理に有効である可能性が示唆されました。高血圧対策としての減塩は、高尿酸血症の予防にも効果的かもしれません。

今回明らかにしたURAT1の調節メカニズムはヒトには存在しますが、ラットやマウスには存在せず、動物の進化とともに発達してきたヒトの尿酸代謝機構が、生活習慣の変化の影響を受けやすいことを示唆しています。今後は、日本人を含めたより多様な人々での検証や、他の遺伝子との交互作用の解析、さらにはURAT1のリン酸化を標的とした新たな治療法の開発などに繋がることが期待されます。

付記

本研究成果は、日本学術振興会科学研究費助成事業(19H03678、24K20715)、帝京大学先端総研チーム研究助成(20-04)、2024年度日本痛風・核酸代謝学会若手研究助成、東京科学大学難治疾患共同研究拠点(2023-国内08、2024-国内26)の支援により得られたものです。

用語説明

[用語1]
高尿酸血症:血液中の尿酸値が7.0 mg/dLを超えて高くなっている状態。放置すると痛風や心血管疾患、腎疾患などを引き起こす可能性がある。
[用語2]
個別化医療:患者の遺伝的背景や環境要因、生活習慣などの個人差を考慮して、最適な予防法や治療法を提供する医療アプローチ。
[用語3]
インスリン抵抗性:体内でインスリンの作用が低下し、血糖値を下げるためにより多くのインスリンが必要となる状態。肥満や運動不足などで生じ、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの原因となる。
[用語4]
UKバイオバンク:国の約50万人の遺伝情報や健康情報を集めた大規模バイオリソース。様々な疾患の遺伝的要因や環境的要因を研究するために広く活用されている。
[用語5]
URAT1(尿酸トランスポーター1):腎臓の近位尿細管の細胞膜上に存在するタンパク質で、尿中に排泄された尿酸を血液中に再吸収する役割を持つ。SLC22A12遺伝子によってコードされる
[用語6]
遺伝子―環境間交互作用:遺伝的要因と環境的要因が互いに影響し合い、表現型(形質)を決定する現象。同じ環境要因でも、遺伝的背景によって異なる影響を受けることがある。
[用語7]
リン酸化:タンパク質にリン酸基が付加される化学反応。タンパク質の機能や活性を調節する重要な翻訳後修飾の一種。

論文情報

掲載誌:
The Journal of Clinical Investigation
タイトル:
Gene-environment interaction modifies the association between hyperinsulinemia and serum urate levels through SLC22A12
著者:
Wataru Fujii1, Osamu Yamazaki, Daigoro Hirohama, Ken Kaseda, Emiko Kuribayashi-Okuma, Motonori Tsuji, Makoto Hosoyamada, Yuta Kochi2, Shigeru Shibata2
(1 筆頭著者、2 共同責任著者)

関連リンク

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東京科学大学 総合研究院 難治疾患研究所ゲノム機能多様性分野

教授 高地雄太

帝京大学 医学部内科学講座 腎臓研究室

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