「Wi-Fiを活用した遭難者携帯端末の位置特定システム」を開発

2025年6月23日 公開

遭難者の位置を迅速に特定して捜索時間を大幅に短縮

ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)と国立大学法人 東京科学大学 工学院 電気電子系 藤井輝也研究室(以下「東京科学大学」)は、雪山や山岳地帯における遭難者の救助をより迅速に行うことを目的として、「Wi-Fiを活用した遭難者携帯端末の位置特定システム」(以下「本システム」)を開発しました。

本システムは、携帯端末に搭載されているWi-Fi機能を活用して、遭難者の端末位置の推定誤差を数メートル以下にする端末位置特定システムです。GPSなどのGNSS(衛星測位システム)を活用した遭難者位置特定システムによる位置の特定(1次特定)に、本システムを組み合わせることで、通信圏外のエリアで雪下に埋まった遭難者の捜索時間を大幅に短縮することが可能になります。捜索者は、まずGNSSを活用した遭難者位置特定システムによって遭難者の推定位置(GNSS推定位置)を 20メートル四方に特定し、その位置に向かって移動します。GNSS推定位置に到着後、本システムを利用することで、約10分で遭難者の推定位置(Wi-Fi推定位置)を半径数メートルの範囲に特定することが可能です。

ソフトバンクは、雪山や山岳地域などでの遭難者救助を目的として、ドローンによる無線中継システムによって通信圏外のエリアを臨時にサービスエリア化するとともに、スマホの測位機能を活用することで遭難者の位置情報を取得して捜索関係者に共有する「ドローン無線中継システムを用いた遭難者捜索支援システム」(以下「ドローン遭難者捜索支援システム」)を、2022年に開発しました[参考文献1]。このシステムにより、捜索者はGNSSで得られた遭難者の位置(GNSS推定位置)に向かって効率的に移動して捜索することが可能になりましたが、一般的にGNSSの位置推定精度は、スマホに搭載されている測位機能や、受信した測位衛星の数およびその位置によって異なり、実際に端末がある位置と誤差が生じます。地上での誤差は約5メートルですが、雪下では雪による電波の減衰で約10メートルとなり、捜索者は推定誤差を考慮して、捜索範囲をGNSS推定位置の周辺約20メートル四方に設定できます。しかし、捜索者が横一列に並んで雪下の遭難者を20メートル四方の範囲においてくまなく捜索する場合、遭難者の発見までに数時間を要します。

そこで、人命救助の観点で、消防機関の研究支援者の北海道倶知安町 羊蹄山ろく消防組合消防本部[参考文献2]から、さらに捜索時間を短縮できるシステムが期待されていました。例えば、端末位置の推定誤差が数メートルとなるような端末位置特定システムがあれば、捜索時間を大幅に短縮することが可能です。

図1. 遭難者の位置特定

本システムの概要

本システムは、携帯端末に搭載されているWi-Fi機能を活用して、遭難者の端末位置の推定誤差を数メートル以下とするものであり、「ドローン遭難者捜索支援システム」で特定したGNSS推定位置の誤差範囲内において利用することを基本としています。本システムは、Wi-Fiアクセスポイント(以下「遭難対応AP」)と、モニターとして利用する携帯端末(以下「RSSIモニター」)、Wi-Fi指向性アンテナ(以下「指向性アンテナ」)で構成されており、遭難対応APに指向性アンテナを接続し、RSSIモニターを指向性アンテナに取り付けます。

図2. Wi-Fiを活用した遭難者携帯端末の位置特定システム

測定では、まず遭難対応APを起動してWi-Fiの電波を送受信し、遭難者の端末とRSSIモニターとの通信を確立します。その後、遭難者の端末は遭難対応APが発する電波の受信電力(RSSI)を測定し、その値を一定間隔でRSSIモニターに送信します。捜索者は、RSSIモニターに取り付けられた指向性アンテナを水平面内に回転させることで、RSSIモニターに内蔵されるジャイロセンサーにより、指向性アンテナの指向方向とその向きにおける遭難者端末の受信電力値を取得して、RSSIモニター上に指向方向と受信電力値を表示します。

図3. 遭難者端末方向の検出

一般に、受信電力が最大となる方向が遭難者端末の方向になることから、捜索者は受信電力が最大となる方向に進むことで、遭難者に近づくことができます。RSSIモニターに搭載したジャイロセンサーにより回転角を取得し、回転角と受信した遭難者端末の受信電力値を円グラフ上に表示するとともに、測定開始からモニター確認時までの受信電力の最大値とその方向を同時に表示します。この表示により、遭難者端末がある方向の探索が容易になります。例えば、約3メートル進むごとに捜索者は指向性アンテナを一定範囲内で回転させて、受信電力が最大になる方向を確認し、その方向に進みます。遭難者端末に近づくほど受信電力は大きくなるため、この探索を繰り返して行うことで、受信電力が一定値(しきい値)を超える場所を探索し、しきい値を超えた場所を遭難者端末の位置(Wi-Fi推定位置)と特定することが可能です。また、しきい値を最適に設定することで、その誤差を数メートル以下にすることができます。なお、本システムは、しきい値を超えると “効果音”で知らせてくれる機能を搭載しており、捜索者はRSSIモニターを常時見る必要がありません。

図4. 遭難者端末の位置の特定

本システムを利用するためには、「ドローン遭難者捜索支援システム」と同様に、遭難者対応のアプリケーションを事前にインストールする必要があります。アプリケーションには、遭難対応APと遭難者端末が自動で通信するためのAPの名前(SSID)とパスワードが事前に登録されています。遭難者端末が遭難対応APを検出すると、RSSIモニターと通信を行い、遭難者端末からRSSIモニターへ一定間隔で受信電力値を送信します。

実証実験について

東京科学大学の敷地内で、紙袋を10 個用意し、その中の一つに遭難者端末を入れて、10メートル四方のエリアでランダムに配置しました。指向性アンテナの半値角(利得が最大となる角度)は40度、ΔT(遭難者端末の受信電力値の送信間隔)を3秒とし、しきい値(電波強度)を-40dBmとしました。捜索者は、「Wi-Fi遭難者捜索支援システム」を使って遭難者端末が入っている紙袋を捜索し、10分以内に遭難者端末が入っている紙袋の近くに到着、さらに、しきい値を超えた時の効果音によって遭難者端末の位置を特定しました。この実証によるWi-Fi推定位置の誤差は、約1メートルでした。

図5. 実証実験

ソフトバンクと東京科学大学は、「ドローン遭難者捜索支援システム」と「Wi-Fi遭難者捜索支援システム」を統合したシステムの実用化を目指すとともに、自治体や公共機関、企業と連携し、災害対策に向けた研究などを進めていきます。

なお、2015年の開発当初から北海道倶知安町 羊蹄山ろく消防組合消防本部(2021~2022年の研究支援者)[参考文献2]には、「ドローン無線中継システム」の実証実験などで多大なるご支援およびご助言を頂いています。

参考文献

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特任教授 藤井 輝也

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