リチウムナイオベート振動子を用いて高周波の超音波を照射することにより細胞内に活性酸素種を産生

2026年3月19日 公開

概要

東京農工大学 大学院工学府 機械システム工学専攻の藤代晃太朗氏、同大学院 工学研究院 先端機械部門の倉科佑太准教授、東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所の岡田智准教授、ミラノ工科大学 化学・材料・化学工学科"Giulio Natta"の Filippo Rossi(フィリッポ・ロッシ)准教授、および自治医科大学 分子病態治療研究センター 分子医工学研究部の口丸高弘教授は、リチウムナイオベート振動子[用語1]によって高周波の超音波を照射することにより、これまで困難であった細胞内における高周波領域での活性酸素種の産生に成功しました。この成果により、今後、高周波の超音波を用いたがん治療や細胞老化に関する基礎研究への応用が期待されます。

本研究成果は、Wiley が発行する「Advanced Science 」掲載に先立ち、2月21日にオンラインで公開されました。

背景

活性酸素種は、酸素由来の非常に反応性の高い分子群の総称で、超音波照射によって生じる化学物質の一つです。一般に活性酸素種は生体内の濃度によって二つの役割を持つことが知られています。低濃度では、免疫応答や細胞の増殖などを調節するシグナル分子として作用し、高濃度では酸化ストレスとして細胞老化や細胞死の誘導することで動脈硬化やアルツハイマー病を引き起こす原因とされてきました。一方で、高濃度の活性酸素種を腫瘍で発生させることでがんを治療する方法が研究されてきました。その中でも、超音波の照射による活性酸素種の発生を用いたがん治療法が近年報告されています。この方法は、超音波の照射によるキャビテーション(局所的に液体中の圧力が低下し気泡が生じる現象)の発生や薬剤を利用して活性酸素種を産生することで、がん細胞の細胞死を誘導することができます。しかし、空間分解能に優れた高周波の超音波ではキャビテーション発生に制限があり、活性酸素種の産生が困難とされてきました。

研究成果

本研究では、リチウムナイオベート振動子を用いて高周波の超音波を照射することで細胞内に活性酸素種を産生する手法を開発しました。具体的には、リチウムナイオベート振動子を作動させることで6.5 MHzの高周波超音波を細胞に照射するデバイスを製作しました。製作したデバイスを用いて6.5 MHzの高周波超音波を細胞に照射することで細胞内に活性酸素種の一つであるヒドロキシラジカルを産生することに成功しました。続いて、超音波照射後の細胞死の割合の時間変化を測定することで、細胞内で産生した活性酸素種が細胞死に与える影響を評価しました。その結果、本研究の提案手法は細胞死を誘導することが確認されました。さらに、三次元細胞組織に高周波の超音波を照射したときの、活性酸素種の産生を可視化しました。具体的には、三次元細胞組織の一つであるスフェロイド[用語2]に6.5 MHzの超音波を照射することで、スフェロイドで活性酸素種を産生させることに成功しました。このことから、リチウムナイオベート振動子によって照射される高周波の超音波が細胞内で活性酸素種を産生することを実証しました。

図. 本研究における高周波超音波を用いた細胞内活性酸素種の産生。
(1)超音波によって生じた活性酸素種の可視化。
(2)高周波超音波を照射するデバイスの構成。
(3)超音波照射における周波数と細胞内の活性酸素種産生の関係。
(4)超音波照射後のインキュベート時間に対する死細胞の割合。
(5)スフェロイドにおける超音波由来の活性酸素種産生の時間変化(Fujishiro et al., Advanced Science 2026を基に作成)。

今後の展開

本研究では、リチウムナイオベート振動子を用いて高周波の超音波を照射することで、細胞内に活性酸素種を産生することに成功しました。活性酸素種は細胞老化や細胞死を誘導することから、高周波の超音波による活性酸素種の産生を用いたがん治療や細胞老化の基礎研究の発展を目指します。

研究体制

本研究は、東京農工大学 大学院工学府 機械システム工学専攻 博士前期課程の藤代晃太朗氏、同大学 工学研究院 先端機械システム部門の倉科佑太准教授、東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所の岡田智准教授、ミラノ工科大学 化学・材料・化学工学科"Giulio Natta"の Filippo Rossi 准教授および自治医科大学 分子病態治療研究センター 分子医工学研究部の口丸高弘教授との共同研究により実施されました。

付記

本研究は、公益財団法人JKA、一般財団法人守谷奨学財団、公益財団法人高橋産業経済研究財団、公益信託小澤・吉川記念エレクトロニクス研究助成基金、および公益財団法人武田科学振興財団およびASPIRE(JPMJAP2505)の助成を受け実施されました。

用語説明

[用語1]
リチウムナイオベート振動子:ニオブ酸リチウム(LiNbO3)の単結晶を用いた圧電デバイス。高周波の超音波を高出力かつ低発熱で照射することを可能とする。
[用語2]
スフェロイド:細胞同士が接着および凝集することで形成された三次元の球形の細胞塊。再生医療、がん研究、創薬スクリーニングに利用される。

論文情報

掲載誌:
Advanced Science
タイトル:
Intracellular Reactive Oxygen Species Generation Induced by High-Frequency Ultrasound in Thickness Vibration Mode
著者:
Kotaro Fujishiro, Satoshi Okada, Filippo Rossi, Takahiro Kuchimaru, Yuta Kurashina

関連リンク

お問い合わせ

東京農工大学 大学院工学研究院 先端機械システム部門
准教授 倉科 佑太

東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所
准教授 岡田 智

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