超小型衛星OrigamiSat-2が挑んだ宇宙実証の舞台裏

2026年9月15日 公開

折り紙工学とアンテナ技術が生んだ超小型衛星との限られた10分間の通信で確かめる、研究者と学生たちの宇宙への挑戦

超小型衛星OrigamiSat-2が宇宙空間から届けた、展開後のアンテナと地球の画像(衛星に搭載した小型カメラより撮影)

東京科学大学(Science Tokyo)の大岡山キャンパスで、研究者たちは高度約540キロメートルの軌道を飛ぶ超小型人工衛星OrigamiSat-2(オリガミサット2*)からの電波を待っていました。衛星がキャンパス上空を通過し、通信できるのは、1日に3~4回程度です。しかも、1回につきわずか約10分に限られます。その短い時間に、宇宙へ送り出した衛星の状態を確かめます。

「最初の電波をキャッチするときは、ものすごく緊張します。もし届かなかったらどうしよう、と不安になるんです。」(戸村准教授)

2026年4月23日、ニュージーランドからロケットで宇宙へ送り出され、地球を周回する軌道に乗ったOrigamiSat-2。果たして、設計どおりに動くのか。宇宙空間でその機能と性能を確かめる実証が進められています。

宇宙へ送り出されたOrigamiSat-2の実証研究の舞台裏を、坂本啓(さかもと・ひらく)教授と戸村崇(とむら・たかし)准教授に聞きました。

*折り紙リフレクトアレーアンテナ実証衛星OrigamiSat-2:折り紙のように折りたためる展開型アンテナを搭載した超小型人工衛星

衛星と通信できる、わずか10分

衛星の軌道を計算すると、東京科学大学の上空を通過する時刻が分かります。研究者たちはその時間に合わせて地上局で待機し、衛星からの電波を受信します。電波を捉えると、地上からコマンドを送り、衛星から返ってくるデータを確認します。

通信できるのは、衛星が地平線から現れ、反対側の地平線へ消えるまでの約10分間。その限られた時間に、地上局のアンテナで上空を飛ぶ衛星を追尾しながら、通信を重ねます。

小さく運び、宇宙で大きく広げる

衛星が地球と通信するには、アンテナは大きいほど高い性能が期待できます。しかし、ロケットには積載できる大きさや重さに限りがあります。そのため、アンテナを小さく折りたたんで宇宙へ運び、軌道上で大きく展開する仕組みが求められます。

坂本教授は、折り紙工学を応用し、宇宙で展開する膜構造や大型構造物を研究してきました。一方、戸村准教授は、衛星用アンテナからスマートフォンの高速通信を支えるアンテナまでを幅広く研究しています。

宇宙で大きく広がる展開構造物と、その構造にアンテナ機能を持たせる電波工学。異なる二つの専門が融合し、OrigamiSat-2は誕生しました。

風呂敷のようなペラペラのアンテナを折り紙技術で折り畳み収納する(提供:戸村崇准教授)

「助けてほしい」から始まった共同研究

二人の共同研究は、2019年に打上げを実現したOrigamiSat-1の開発がきっかけでした。当時、坂本教授が携わっていた超小型衛星OrigamiSat-1の開発中にアンテナの不具合が見つかりました。そこで声がかかったのが、同じ大学に所属しながら、ほとんど面識のなかった戸村准教授でした。「アンテナを専門とする私に、助けてほしいと連絡があったんです。」(戸村准教授)

その後、坂本研究室の学生が戸村研究室でアンテナを設計し、それをOrigamiSat-1へ搭載しました。当時のOrigamiSat-1は、折りたたんで宇宙で広がる膜はありましたが、膜自体にはアンテナ機能は備わっていませんでした。そこで戸村准教授が、その膜をアンテナとして機能させるOrigamiSat-2を提案します。一方、坂本教授らも、小型アンテナと膜を組み合わせれば、電波を大きく増幅できる可能性に気づきました。

一つのトラブルから始まった相談は、異なる専門分野を結び付け、展開する膜にアンテナ機能を持たせたOrigamiSat-2の開発へと発展しました。

戸村崇准教授(左)と坂本啓教授(右)

打ち上げ準備を託された学生たち

OrigamiSat-2の打ち上げ準備は、研究室にとって大きな引き継ぎの場でもありました。長く開発に携わってきた学生たちは卒業の時期を迎え、ニュージーランドでの最終準備は、新たに加わった学生2人が担うことになったのです。

OrigamiSat-2は、JAXAの革新的衛星技術実証4号機として打ち上げられるため、JAXAの筑波宇宙センターで引き渡された後、航空便でニュージーランドへ運ばれました。衛星には打ち上げ後に使うためのバッテリーが搭載されていますが、航空輸送では安全上の理由から、バッテリーの充電量を約30%まで下げる必要があります。一方、ロケット打ち上げ前にはフル充電が欠かせません。そのタイミングを見極めながら準備を進めることも、打ち上げまでの重要な仕事でした。

現地で学生たちに託されたのは、OrigamiSat-2の梱包を解き、輸送中に損傷がなかったかを確認し、バッテリーを充電したうえで、ロケット搭載用のケースに収める作業でした。経験の浅い学生2人が確実に作業できるよう、研究室では事前に現地作業を想定したリハーサルを重ねました。衛星をよく知る先輩たちが見守る中で手順を確認し、手順書を作成。リハーサルで見つかった課題を反映しながら、何度も書き直して準備を整えました。

そして迎えた打ち上げ当日。研究者たちは、それぞれ離れた場所から中継を見守りました。「私は国際会議に参加するため、アイルランドのダブリンにいました。打ち上げは日本時間の昼ごろでしたが、現地では朝の5時。早起きして中継を見ましたが、前日の夜からずっとドキドキしていました。」(戸村准教授)

一方、坂本教授が思いを寄せていたのは、OrigamiSat-2とともにニュージーランド現地で最終準備を担当した学生たちでした。
「衛星は本当に繊細で、普段から触っている人でなければ、手を出すのも怖いものです。壊してしまえば取り返しがつきません。学生たちはOrigamiSat-2の開発に膨大な時間をかけてきました。それを受け継いだ学生2人がニュージーランドへ行き、すべての準備をしてくれた。本当に頼もしかったです。打ち上げ当日は、ニュージーランドからすでに帰国していた2人と一緒に、きっと大丈夫だと思いながら打ち上げを見守りました。」(坂本教授)
先輩たちが積み重ねた知識と責任を受け継いだ学生たちは、OrigamiSat-2を無事に打ち上げへとつなぎました。

東京科学大学でのOrigamiSat-2衛星開発の様子

宇宙へ送り出してから、本当の実証が始まる

打ち上げ後、地上局で最初に確認するのは、OrigamiSat-2から電波が届くかどうかです。電波を受信できれば、地上からOrigamiSat-2へコマンドを送ります。最初に送るのは、アンテナの展開動作を停止させるための指令です。指令が正常に届けば、OrigamiSat-2から受信を知らせる返事が戻ってきます。この最初の通信は「クリティカルフェーズ」と呼ばれ、衛星が地上からの指令を受け取り、応答できるかを確かめる重要な段階です。

その後は、バッテリーの電圧や発電量、機体の温度などを確認します。太陽電池が十分に発電しているか、機器が壊れるほど高温や低温になっていないか。事前に作成した運用計画書とコマンドリストに沿って、衛星の状態を一つずつ確かめていきます。

地上であれば、その場で機器に触れ、調整や修理ができます。しかし、宇宙へ送り出した衛星には、もう直接触れることはできません。約10分間の通信で得られる限られた情報から状態を読み取り、次に送る指令を判断する必要があります。打ち上げは華やかな節目に見えますが、坂本研究室や戸村研究室のメンバーにとっては、そこからが本当の実証の始まりなのです。

小さな衛星を次の宇宙開発へつなぐ

OrigamiSat-2の技術が実用化されれば、山頂や海上など、現在も通信が十分に届かない場所で、高速通信を実現できる可能性があります。戸村准教授がさらに見据えているのは、月や火星で使えるアンテナです。

「将来、人が月や火星に移住するとき、地球との通信は欠かせません。非常に軽くて小さなアンテナを、宇宙でより大きく広げることができれば、遠く離れた場所でも高速通信ができると思っています。

火星でも、地球で動画を快適に見られるくらいの通信環境をつくる。その未来へ向けた次の目標が、OrigamiSat-3です。次は、電波の向きを自由に変えられるアンテナの宇宙実証を目指しています。」(戸村准教授)

坂本教授も、膜を単に大きく開くだけでなく、宇宙で複数の構造物を組み合わせ、さらに巨大な構造をつくることを思い描いています。そのためには、展開構造の知識に加え、宇宙で組み立てを行うロボット技術が必要です。現在は、ロボット分野の研究者とも議論を重ねています。

宇宙開発には、構造、アンテナ、通信、運用、ロボットなど、多くの専門が同時に関わります。坂本教授は、専門知識だけでは、異なる分野の人と一つのものをつくることはできないと話します。大切なのは、お互いがまだ言葉にできていない考えをくみ取り、相手と共有できる形にしていくことです。

「ものづくりでは、失敗から学ぶことが欠かせません。ただし、宇宙では修理ができないので失敗は許されません。だからこそ地上で何度も試し、確信を持てるまで検証を繰り返します。それは、自分たちがつくったものへの責任でもあります。」(坂本教授)

OrigamiSat-2を支えたのは、新しい技術だけではありません。異なる専門をつなぎ、責任を引き受け、研究を次の世代へ渡していく人たちの力です。

OrigamiSat-2は今も地球を回り、地上へメッセージを届けています。その小さな衛星には、研究者と学生たちが積み重ねてきた挑戦が詰まっています。この宇宙実証は、OrigamiSat-3、そしてその先の宇宙開発へと続いていきます。

戸村崇准教授からのメッセージ

わたしたちは、宇宙用のアンテナ開発を長年進めてきました。たとえば、日本を代表する宇宙ミッションのひとつである「はやぶさ2」のアンテナは、当研究室につながる研究室の系譜の中で,安藤真(あんどう・まこと)先生・廣川二郎(ひろかわ・じろう)先生の研究室時代に設計されたものです。当研究室の歴史は、1957年に研究室を設置した関口利男(せきぐち・としお)先生に遡りますが、その後、後藤尚久(ごとう・なおひさ)先生、さらに、安藤真先生、廣川二郎先生へと、研究と教育が何代も続いてきた研究室です。また、衛星の製作には多くの学生さんが関与しています。実際、OrigamiSat-2の衛星の組み立ては学生さんがほとんどやっていて、延べ人数にして約30人です。自分も衛星を作ってみたいと思っている方は、ぜひわたしたちの研究室で一緒に挑戦してもらいたいです。

戸村崇准教授

坂本啓教授からのメッセージ

別分野の研究者とともに何かを進めるとき、専門的なことだけを知っていてもうまくいかないものです。特に、宇宙開発のようにたくさんの人が様々な技術を同時に駆使する現場では、チームビルディングが欠かせません。そこで、Science Tokyoでは大学院にエンジニアリングデザインコースが設置されています。共通の基盤がない人と一緒に何かをするときに、どうアプローチすればよいのかを学びます。Science Tokyoは、そうした実体験型の教育を進めていますので、ぜひ多くの学生さんに集まってもらいたいです。

坂本啓教授

取材日:2026年7月9日/坂本研究室にて


この研究をもっと詳しく知る

「みんなの科学ニュース」でほかの研究を知る

「みんなの科学ニュース」は、Science Tokyoの最先端の科学研究と未来につながる取り組みや可能性を紹介しています。

「みんなの科学ニュース」をXでも

Xアカウント「研究フロンティア」では、「みんなの科学ニュース」で公開した記事を取り上げ、Science Tokyoのさまざまな研究を定期的に紹介しています。

お問い合わせ

研究支援窓口