患者さん自身の細胞で腸を治す未来へ

2026年8月7日 公開

患者さん自身の細胞から再生医療につながるオルガノイドを安定して培養する

どんな研究?

私たちの腸は、傷ついても自ら修復する力を持っています。しかし、炎症が長く続いたり、大きく傷ついたりすると、その力だけでは十分に回復できないことがあります。そこで近年注目されているのが、患者さん自身の細胞を使って腸の修復を助ける再生医療です。

その研究で重要な役割を果たしているのが「腸オルガノイド」です。腸オルガノイドとは、患者さんの細胞を使って試験管内で育てられるもので、腸の構造や働きを再現した小さな組織です。薬の効果を調べたり、病気の仕組みを研究したりするだけでなく、将来は傷ついた腸を修復する治療への応用も期待されています。

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腸オルガノイドは2009年に開発され、消化器疾患の研究を大きく前進させました。しかし、再生医療へ応用するには、治療に使える品質のオルガノイドを安定して大量に作る必要があります。従来の培養法では、マウス由来の材料や高価で不安定なタンパク質に頼っていたため、安全性や品質、製造コストの面で課題が残されていました。

そこで東京科学大学(Science Tokyo)の水谷知裕(みずたに・ともひろ)講師を中心とする研究チームは、安全性の高い材料を用いて、患者由来の腸オルガノイドを効率よく大量に培養できる新しい方法の開発に取り組みました。これにより、再生医療の実現に向けた重要な基盤づくりを目指しました。

ここが重要

研究チームは、安全性の高いコラーゲンを培養材料として用いることで、治療に使える品質の腸オルガノイドを培養できるようになりました。腸に炎症がある潰瘍性大腸炎の患者さんからオルガノイドを作ることは難しいとされていますが、この方法を使うことで、約8割という高い成功率を達成しました。

また、これまで培養に使われてきた高価で扱いが難しいタンパク質の代わりに、タンパク質より小さく、かつ安定したペプチド分子PG-008を利用しました。すると、潰瘍性大腸炎の患者さん由来の細胞でも、全ての例で安定して腸オルガノイドを培養でき、さらに、作製した腸オルガノイドをより効率よく増やせることも明らかになりました。

さらに、この培養法で作製したオルガノイドには、普段から腸を維持する幹細胞だけでなく、腸が傷ついたときだけ現れて修復を助ける特別な幹細胞も豊富に含まれることを初めて示しました。これまで、このような幹細胞を安定して育てたり、その働きを詳しく調べたりすることも容易ではありませんでした。

今回の成果によって、傷ついた腸だけで働く特別な幹細胞が、どのように傷を治しているのかを詳しく調べられるようになりました。腸が傷を治す仕組みの解明が進むだけでなく、その力を生かした、より効果的な再生医療の実現にもつながると期待されています。

今後の展望

今回確立した培養法は、炎症性腸疾患などで傷ついた腸を患者さん自身の細胞で修復する再生医療の実現を後押しすると期待されています。また、患者さんごとのオルガノイドを十分に作製できるようになれば、一人ひとりの体質や病状に合った薬を選ぶテーラーメイド医療や、新しい薬の開発にも役立つと考えられています。

研究者のひとこと

腸の中では常に新しい細胞が生み出され、腸という組織を形作り、その傷を修復しています。しかしながら、一度からだの外に出されると、腸の細胞を育て増やすことは容易ではありません。今回の研究では、細胞を育てるペプチドに着目することで、新しい細胞を生み出す幹細胞を安定して育てられる培養法を実現しました。この技術が、腸の再生メカニズムの解明だけでなく、患者さん自身の細胞を使った安全で新しい治療法の実現につながることを期待しています。
(水谷知裕:東京科学大学 医歯学総合研究科 消化器病態学分野 講師)

水谷知裕講師

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