ポイント
- 今回の調査に回答した全国の臨床研修医のうち、約4割が診療現場で生成AIを検索エンジンとして利用していることを明らかにしました。一方、鑑別診断の一次情報源として利用していたのは約1割にとどまりました。
- この生成AI利用者は、非利用者と比べて、生成AIの限界(作話)や倫理的課題への理解・意識が高いことが分かりました。
- 生成AIの利用は、知識やスキルの低下を示す診療行動とは関連せず、身体診察の重視や適切な抗菌薬使用など、望ましい診療行動と関連していました。
- 利用者・非利用者ともに、生成AIの限界や倫理的課題への理解は十分とはいえず、AI時代の医学教育の重要性が示されました。
概要
東京科学大学(Science Tokyo) 医歯学総合研究科 統合臨床感染症学分野の岡本耕准教授らの研究チームは、東京大学の三輪俊貴大学院生、順天堂大学の西﨑祐史教授、群星沖縄臨床研修センターの徳田安春センター長と共同で、日本の臨床研修医(卒後1~2年目)を対象に、臨床現場における生成AI(Generative AI)[用語1]の検索エンジンとしての利用実態と、AIリテラシー[用語2]および感染症診療における行動との関連を明らかにする横断調査を2025年1月に実施しました。
臨床業務における生成AIの利用の有無について回答した2,850人のうち、約39%が生成AIを検索エンジンとして利用していると回答しました。一方、この利用者のうち、鑑別診断の一次情報源として生成AIを用いていたのは13.0%でした。生成AI利用者は、非利用者と比較して、生成AIが誤った情報を作り出す作話[用語3]などの限界を理解している割合や、公平性・透明性といった倫理的観点を意識している割合が高いことが分かりました。
ただし、全体として倫理的観点への意識は必ずしも十分ではなく、公平性を意識していた回答者は約47%、透明性を意識していた回答者は約50%にとどまりました。一方で、生成AIの利用は、身体診察を重視することや適切な抗菌薬の使用など、望ましい診療行動と独立して関連していました。
本成果は、2026年7月17日付(現地時間)で国際科学誌「JMIR AI」に掲載されました。
全国546施設・研修医2,989人が回答(基本的臨床能力評価試験 受験者9,179人を対象、2025年1月実施)
背景
生成AI(GenAI)は臨床現場においても急速に普及しつつあり、研修医はその影響を受けやすい世代です。生成AIは、診断支援や情報検索のツールとしての活用が期待される一方で、誤った情報をもっともらしく生成する「作話」などの限界があり、安易な依存は病歴聴取や身体診察といった基本的な臨床能力の低下や、公平性・透明性といった倫理的配慮の欠如につながる懸念が指摘されてきました。
しかし、実際の臨床現場において、臨床研修医が生成AIをどの程度、どのように利用しているのか、また、その利用の有無がAIリテラシーや診療行動とどのように関連しているのかについては、これまで十分な検証が行われていませんでした。
そこで研究チームは、日本の臨床研修医を対象とした全国調査を実施し、その実態を明らかにすることを目指しました。
研究成果
研究チームは、2025年1月に実施された基本的臨床能力評価試験(卒後1~2年目の研修医を対象とした到達度評価試験)の受験者9,179人を対象に、生成AIの利用状況、AIリテラシー、および感染症診療における自己申告による診療行動について尋ねる独自の質問票調査を実施しました。546施設に所属する2,989人から回答を得ました。
臨床業務における生成AIの利用の有無について回答した2,850人のうち、1,124人(39.4%)が生成AIを検索エンジンとして利用していると回答しました。一方、生成AIを鑑別診断の一次情報源として用いていたのは、利用者のうち144人(13.0%)にとどまりました。
生成AI利用者は、非利用者と比較して、AIの限界である「作話」への理解(74.1%対58.4%)、病歴聴取や身体診察など、将来の医師に不可欠な能力に対する認識(87.3%対76.0%)、さらに、公平性(56.3%対41.5%)や透明性(58.9%対43.8%)といった倫理的観点への意識においても、統計学的に有意に高い割合を示しました。ただし、利用者・非利用者全体として倫理的観点への意識は十分とはいえず、公平性を意識していた回答者は47.3%、透明性を意識していた回答者は49.8%でした。
背景因子、研修環境、および試験成績を調整した多変量解析の結果、生成AIの利用は、身体診察を重視することや、抗菌薬を適切に使用することなど、望ましい診療行動と独立して関連していることが分かりました。
社会的インパクト
本研究は、日本の臨床研修医における生成AIの利用実態と、生成AIの利用が診療行動やAIリテラシーとどのように関連しているかを、全国規模の調査で初めて明らかにしました。
現時点では、生成AI利用は知識やスキルの空洞化を示唆する行動とは関連しておらず、むしろ望ましい診療行動と関連していました。このことは、生成AIが適切に活用されれば、臨床教育において有用なツールとなり得ることを示唆しています。
一方で、生成AIの限界や倫理的観点に対する理解は、利用者・非利用者ともに十分とはいえない現状も明らかになりました。これらの知見は、医学教育機関や臨床研修病院が、生成AI時代における医学教育のあり方を検討する上での重要な基礎資料となることが期待されます。
今後の展開
研究チームは今後、生成AIの利用が診療行動に与える影響について、より詳細な分析を行うとともに、生成AIの利用と実際の臨床能力との関連を明らかにしていく予定です。
用語説明
- [用語1]
- 生成AI(Generative AI):ChatGPTに代表されるような、対話型AIサービスなどで利用されている、文章や画像などのコンテンツを学習したデータに基づいて新たに生成する人工知能技術。
- [用語2]
- AIリテラシー:生成AIの特性や限界、適切な利用方法、倫理的課題などを理解した上で、目的に応じて適切に活用する能力。
- [用語3]
- 作話:生成AIが、事実に基づかない情報や誤った情報を、あたかも正しい内容であるかのようにもっともらしく生成してしまう現象。
論文情報
- 掲載誌:
- JMIR AI
- タイトル:
- Current Landscape of Generative AI Use as a Search Engine Among Resident Physicians: Cross-Sectional Study
- 著者:
- Toshiki Miwa, Koh Okamoto, Yuji Nishizaki, Yasuharu Tokuda
- DOI:
- 10.2196/89750
研究者プロフィール
岡本 耕 Koh Okamoto
東京科学大学 医歯学総合研究科 統合臨床感染症学分野 准教授
研究分野:医療疫学、臨床感染症学、感染対策、医学教育
三輪 俊貴 Toshiki Miwa
東京大学 大学院医学系研究科 生体防御感染症学 大学院生
研究分野:臨床感染症学、医療疫学
西崎 祐史 Yuji Nishizaki
順天堂大学 医学部 医学教育研究室 教授
研究分野:医学教育、総合診療医学
徳田 安春 Yasuharu Tokuda
群星沖縄臨床研修センター センター長
研究分野:医学、疫学、医学史