どんな研究?
アクセサリーなどに使われる金といえば、黄色く輝く金属を思い浮かべる人が多いでしょう。ところが、同じ金でも、ナノメートルほどのごく小さな粒にすると、少し変わった性質を見せます。粒の大きさや形によって、例えば、光の吸収のしかたが変わり、赤や青に見えることがあります。
このような極めて小さな金の粒は金ナノ粒子と呼ばれ、物質の検出や触媒、医療などへの応用が研究されています。金ナノ粒子の性質を用途に合わせて引き出すには、金ナノ粒子の大きさや形を狙い通りに制御することが重要です。
その方法の1つが、ペプチドを利用する方法です。ペプチドは、タンパク質と同じようにアミノ酸がつながった短い分子で、その種類によって球状や三角形など異なる形の金ナノ粒子を作ることができます。ただし、通常の溶液中では、溶液の様々な場所で金ナノ粒子が生まれるため、一つ一つの粒子が育つ環境をそろえることは容易ではありません。
そこで東京科学大学(Science Tokyo)の田中祐圭(たなか・まさよし)准教授を中心とする研究チームは、反応を小さな空間に閉じ込めることを考えました。そして、粒子が成長する環境をそろえ、より均一な金ナノ粒子をつくれるのではないかと考えました。
そのために研究チームが使ったのは、細胞膜と同じように脂質が二重に並んだ膜でできた小さなカプセル、リポソームです。研究チームは、この小さな空間の中で金ナノ粒子をつくり、その成長のしかたを詳しく調べました。実験を進めると、予想していなかった現象が見えてきました。
ここが重要
研究チームは、金ナノ粒子をつくる反応を助け、その形にも影響を与えるB3というペプチドを使いました。B3は、通常の溶液中では球状の粒子や三角形の薄い板状構造をつくることが知られています。
ところが、リポソームの中にB3を入れると、その場所によって金の形が大きく変わりました。B3が脂質膜の表面付近にある場合、枝分かれした金の構造ができました(図1上)。一方、膜をつくる脂質の組み合わせを変え、B3が内部空間にある状態にすると、球状の金ナノ粒子ができました(図1下)。つまり、金ナノ粒子の形は、ペプチドがリポソームの「どこにいるか」によって大きく変わったのです。
これまで、ペプチドの種類はナノ粒子の形を決める重要な要素の一つと考えられてきました。しかし今回の研究では、同じペプチドでも、どこにあるかによって金の成長のしかたが変わることを示しました。ナノの世界では、何を使うかだけでなく、どこで反応させるかも材料を設計する重要な要素になることが見えてきたのです。
今後の展望
枝分かれした金の構造は表面積が大きいと考えられ、触媒や微量な物質を検出するセンサーなどへの応用が期待されます。一方、リポソームの内側にできる球状の金ナノ粒子は脂質膜に包まれているため、体内の様子を画像で捉えるバイオイメージングや、光を熱に変えてがん細胞を攻撃する光熱療法などへの展開が考えられます。
今後、ペプチドと膜の組み合わせを工夫し、反応する場所を設計することで、さまざまなナノ材料を目的に合った形や機能に制御する新しい材料設計につながる可能性があります。
研究者のひとこと
この研究は、もともとリポソームの小さな空間を使って、より均一な金ナノ粒子をつくれないか、という発想から始まりました。ところが実験を進めると、予想していなかった「ペプチドがどこにいるか」という要素が、金の形を大きく左右することが分かりました。
研究では、最初に思い描いた通りの結果だけでなく、こうした予想外の現象から新しい考え方が生まれることがあります。今回見つけた「場所」の効果を、これから新しい材料づくりへと広げていきたいと考えています。
(田中祐圭:東京科学大学 物質理工学院 応用化学系 准教授)
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