ペプチドの「居場所」が金ナノ粒子の形を変える

2026年9月9日 公開

リポソームの内側と表面を使い分ける新しい反応場設計

ポイント

  • ペプチドがリポソームの膜界面と内部空間のどちらにあるかで、金ナノ粒子の成長や形態が大きく変化することを発見
  • 脂質組成を変えることでペプチドの局在を制御すると、合成される金ナノ粒子の構造が変化することを実証
  • リポソームの「内部」と「界面」を異なるナノ反応環境として利用する、分子局在に基づく新しい反応場設計概念を提示

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 物質理工学院 応用化学系の田中祐圭准教授、阿部裕哉大学院生(日本学術振興会特別研究員)、英国リーズ大学のステファン エヴァンス(Stephen D. Evans)教授らの研究グループは、金ナノ粒子[用語1]の合成を促進するミネラリゼーションペプチド[用語2]の「居場所」を、リポソーム[用語3]の内部空間と膜界面の間で制御することで、金ナノ粒子の成長様式を変化させられることを発見しました。

金ナノ粒子は、形状やサイズによって異なる性質を示すことが知られています。この性質を機能性材料として応用するには、粒子の形態を狙い通りに制御する技術が欠かせません。これまでの研究では、リポソームの内側にある均一でごく小さな空間を、金ナノ粒子の形を制御するための「型」として利用する方法が開発されています。一方でリポソームの膜表面(界面)にも特徴的な物理的・化学的構造があり、内部空間とは違う性質を持つ「もう1つの反応の場」として利用できる可能性があります。しかし、分子をリポソームの内部空間と膜表面のどちらに配置するかによって、金ナノ粒子の成長や最終的な形態がどのように変わるかは未解明のままでした。

本研究では、金ナノ粒子の合成を促進するミネラリゼーションペプチドを用いた、リポソーム内での金ナノ粒子合成法を開発しました。さらに、ペプチドの種類や脂質組成を変えることで、リポソーム内でのペプチド分子の局在を内部空間と膜界面で切り替えると、金ナノ粒子の成長や形態が変化することを明らかにしました。

本手法は、分子局在に基づく新しいナノ粒子合成反応場の設計指針となることが期待されます。将来的には、刺激に応じて反応環境を切り替え、ナノ粒子の成長を動的に制御することで、単一の反応プラットフォームから複数の機能性ナノ材料を創製する技術につながることが期待されます。

本成果は、8月18日付(現地時間)の「Advanced Functional Materials 」誌に掲載されました。

背景

金ナノ粒子は、化学的に安定で生体との親和性が高いことから、医療や診断、創薬などへの応用が期待されています。一般に金属や半導体のナノ粒子は、大きさや形によって性質が変化するという特徴を持ちます。そのため、目的に応じた機能を引き出すには、ナノ粒子の形状やサイズを精密に制御して合成する技術の開発が重要になります。

しかし、一般的な金ナノ粒子の合成では、金イオンと還元剤を溶液中で混合するため、粒子合成の出発点となる「核」の形成や、その後の結晶成長を精密に制御することが難しく、狙った形状の粒子だけを選択的に得ることは容易ではありません。特に、温和な反応条件で金ナノ粒子の形状を精密に制御する技術の開発が求められています。

これまで、金属ナノ粒子の形状やサイズを制御する方法の1つとして、脂質二重膜からなる小胞「リポソーム」の内部空間を利用した合成法が研究されてきました。リポソーム内部のナノメートルスケールの均一な微小空間には、反応に関与する分子を限られた空間に閉じ込めることができ、閉じ込める分子の数を調整することでナノ粒子のサイズなどを制御する合成法が開発されています。

一方でリポソームは、脂質膜の表面(界面)も内部空間とは異なる特徴的な物理的・化学的環境を持っています。この膜界面も粒子合成の「もう1つの反応場」として利用できる可能性を秘めています。しかし、これまでの研究は主にリポソーム内部での粒子合成に焦点を当ててきたため、反応に関与する分子をリポソーム内の内部空間と膜界面のどちらに配置するかによって、ナノ粒子の成長や最終的な形態がどのように変化するのかは明らかになっていませんでした。

研究成果

本研究では、ペプチドと脂質の性質を利用して、ミネラリゼーションペプチドのリポソーム近傍における局在を制御し、リポソームの内部空間と膜界面をそれぞれ異なる反応場として利用する金ナノ粒子合成法を開発しました。さらに、ペプチドの局在の違いが、金ナノ粒子の成長や形態にどのような影響を与えるかを調べました(図1)。

図1. ミネラリゼーションペプチドの局在に基づいたリポソーム内金ナノ粒子合成制御の概要

まず、これまでに当研究室が同定した、三角形と球状の金ナノ粒子の合成を促進するミネラリゼーションペプチドB3(ASHQWAWKWE)を用いて、リポソーム内で金ナノ粒子を合成しました。その結果、予想に反して、高度に分岐した特徴的な金ナノ粒子/リポソーム複合体が合成されることを見いだしました(図2a)。さらに、高分解能透過型電子顕微鏡による元素マッピング解析の結果、分岐構造に金が存在することを確認しました。特に枝状部分の縁では、金に由来するシグナルが強く検出され、金が局所的に集積していることが示されました。

次に、B3とは異なり、球状の金ナノ粒子の合成を促進するミネラリゼーションペプチドG1(ETGHHIWEWM)を用いて、同様の実験を行いました。その結果、G1ペプチドでは、リポソームを用いない場合とほぼ同じ形態の金ナノ粒子が合成され、B3で観察された高度に分岐した金ナノ粒子/リポソーム複合体は合成されませんでした(図2b)。

図2. 金ナノ粒子/リポソーム複合体のミネラリゼーションペプチド配列依存性評価。
(a)B3ペプチド および(b)G1ペプチドで合成された金ナノ粒子/リポソーム複合体の電子顕微鏡像。(c)G1ペプチドで合成成された金ナノ粒子の粒子径(電子顕微鏡像から無作為に計測(N = 100))、(d)金ナノ粒子/リポソーム複合体の紫外可視吸収スペクトル

この違いが生じる要因を明らかにするため、高度に分岐した構造を合成したB3ペプチドについて、リポソーム内での局在を解析しました。共焦点顕微鏡による観察の結果、B3ペプチドはリポソームの内部空間ではなく、脂質膜表面(膜界面)に局在していることが明らかになりました(図3a)。

さらに、脂質組成に正電荷を持つ脂質を導入し、膜とペプチドの静電相互作用を変化させることで、B3ペプチドの局在を膜界面からリポソーム内部空間へ移動させることに成功しました(図3b)。この局在の変化に伴い、高度に分岐した金ナノ粒子/リポソーム複合体の合成が抑えられ、より等方的な形態へと変化しました(図3e)。

図3. B3ペプチドのリポソーム内部空間での局在解析と金ナノ粒子/リポソーム複合体の合成評価。
(a)正電荷脂質を含まない条件および(b)正電荷脂質を含む条件での共焦点顕微鏡像。(c)ペプチド分子の漏出評価、(d)リポソームの表面電荷測定、(e)B3ペプチドを内包した条件で合成した金ナノ粒子/リポソーム複合体の電子顕微鏡像

これらの結果は、同じペプチドを用いた場合でも、そのペプチドがリポソームのどこに局在するかによって、金ナノ粒子の成長や最終的な形態が変化することを示しています。

一方、リポソームの有無によって合成される金ナノ粒子の形態が変化しなかったG1ペプチドについても、リポソーム内での局在を解析しました。その結果、B3ペプチドでは局在が変化した条件においても、G1ペプチドは一貫してリポソーム内部空間に局在していることが明らかになりました(図4a、b)。また、この条件で合成された金ナノ粒子は、リポソームを用いない場合と同様の形態およびサイズを示しました(図4e)。

図4. G1ペプチドのリポソーム内部空間での局在解析と金ナノ粒子/リポソーム複合体の合成評価。
(a)正電荷脂質を含まない条件および(b)正電荷脂質を含む条件の共焦点顕微鏡像。(c)ペプチド分子の漏出評価、(d)リポソームの表面電荷測定、(e)G1ペプチドを内包した条件で合成した金ナノ粒子/リポソーム複合体の電子顕微鏡像

以上の結果から、ペプチドの種類や脂質組成によってリポソーム近傍でのペプチドの局在が変化し、その局在の違いが金ナノ粒子の成長や最終的な形態を左右する重要な因子であることが明らかになりました。本研究は、リポソームの内部空間と膜界面を異なるナノスケールの反応環境として利用し、分子の局在によって反応場を設計できることを示しています。

社会的インパクト

本研究で開発した、ペプチドの局在を制御してリポソーム内部空間と膜表面を使い分ける金ナノ粒子合成法は、反応に関与する分子を「どこに配置するか」という空間的な制御に基づく、新しいナノ粒子合成反応場の設計指針となることが期待されます。また生体内では、骨や歯などの無機鉱物が、生体分子や界面によって高度に制御されながら形成される「バイオミネラリゼーション」が知られています。本研究で得られた知見は、こうした鉱物形成において、界面における生体分子の空間配置が果たす役割を理解する上でも、新たな知見をもたらす可能性があります。

今後の展開

今後は、目的に応じた形状や機能を持つナノ粒子の設計・合成技術への展開に加え、触媒やバイオメディカル材料など幅広い機能性材料の開発への応用が期待されます。将来的には、外部からの刺激に応じて分子の局在や反応環境を切り替える仕組みを導入することで、ナノ粒子の成長を動的に制御し、単一の反応プラットフォームから用途に応じた多様な機能性ナノ材料を創製する新たな材料設計技術への発展が期待されます。

付記

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B)「バクテリアUX:あらゆる細菌の遺伝子組換えを可能とするユニバーサル形質転換」の支援を受けて実施されました。また、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP24K01265、JP25K22317、JP25H01415)と科学技術振興機構(JST)JST-未来プログラム (JPMJMI25H1 (M.O.))の支援を受けました。

用語説明

[用語1]
ナノ粒子:ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)程度の大きさを持つ微小な粒子。物質をナノサイズにすることで、通常の大きさの物質とは異なる光学的、電気的、化学的性質を示すことがある。
[用語2]
ミネラリゼーションペプチド:ペプチドとは2個以上のアミノ酸が、ペプチド結合で連結された分子である。ミネラリゼーションペプチドとは、金属や無機材料の合成に関与するペプチドであり、金属イオンの還元や結晶表面への吸着などを通じて、ナノ粒子の合成や成長を制御することができる。
[用語3]
リポソーム:脂質分子が自発的に集合して形成される、脂質二重膜で囲まれた小胞。内部に水溶液を閉じ込めることができる。

論文情報

掲載誌:
Advanced Functional Materials
タイトル:
Programming Nanoscale Reaction Environments via Peptide Localization for Gold Nanoparticle Growth in Liposomal Nanoreactors
著者:
Yuya Abe, Joseph Fox, Zabeada Aslam, Kevin Critchley, Stephen D. Evans, Mina Okochi, Masayoshi Tanaka*

研究者プロフィール

田中 祐圭 Masayoshi Tanaka

東京科学大学 物質理工学院 応用化学系 准教授
研究分野:生体分子化学、生物工学、微生物工学

田中 祐圭 Masayoshi Tanaka

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准教授 田中 祐圭

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