細胞膜では何が起きているのか、振動をたよりにのぞいてみた!

2025年9月9日 公開

光では見えなかった分子レベルの変化を超高速の振動応答で捉える

どんな研究?

私たちの体をつくる細胞は、ひとつひとつ脂質膜で包まれています。細胞膜は、細胞の外と内を分ける大切な「壁」で、もともとナノポアと呼ばれるナノサイズの穴があり物質の出入りを助けています。

最近の研究では、人工的につくられたDNAナノポア(DNP)と呼ばれるチューブ状の構造体が、自然のナノポアの代わりになるのではと注目されています。

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そこでDNPのふるまいを詳しく調べる研究が進められてきました。これまでは蛍光を使った観察が中心でしたが、光で見える情報には限界がありました。たとえば、DNPが膜にどう吸着し、仲間のDNPとどう集まるか、そして最終的に膜中にどう取り込まれていくのかという、時間とともに起こる変化をとらえることが難しく、課題となっていました。

ここが重要

東京科学大学の林智広(はやし・ともひろ)准教授らの研究チームは、分子の動きが直接見えなくても、そこには質量や硬さのわずかな変化が必ず起きることに着目しました。林准教授らは、1秒間に1,000万回(1,000万Hz = 10MHz)ふるえる超音波領域の振動に対して物質がどのように応答するかを測定しました。

その結果、細胞膜にDNPが吸着したときのごくわずかな質量の変化や、DNP同士が集まったり、膜に取り込まれたときのわずかな硬さの変化を、「振動応答」を通じてリアルタイムで捉えることに成功したのです。

さらに、細胞膜にくっつきやすい性質をDNPに与えたり、DNPが触れるのとは反対側、すなわち細胞の内側に相当する部分の環境を変化させて、DNPを効率的に細胞膜に導入する条件を探りました。面白いことに、膜の下にある「土台」の素材によって、DNPの入りやすさが変わることがわかりました。イメージすると、やわらかいマットの上ではスッと入るけれど、硬いコンクリートの床ではなかなか入らない、といった感じです。

今後の展望

この成果は、細胞膜の働きをコントロールする新しい技術につながると期待されています。たとえば、薬を必要な場所に届けるナノ装置や、人工細胞の開発など、医療やバイオテクノロジーの分野での応用が見込まれています。

研究者のひとこと

人間の目で見えない世界を、どの様にして「観る」か、研究者は日々試行錯誤しています。今回、「振動応答」という新しい視点でのぞいたとき、DNA で作ったナノマシンがどのように働くのかが見えてきました!まさに心が震える瞬間でした。

いつかこの技術が、未来の新しい医療のかたちにつながってくれるよう、これからも研究を深めていきたいと思います。

(林智広:東京科学大学 物質理工学院 材料系 准教授)

林智広准教授

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