どんな研究?
同じDNAを持っているのに、筋肉の細胞と神経の細胞がまったく違う働きをするのはなぜでしょうか。その理由の一つが「遺伝子のスイッチ」と呼ばれる仕組みです。必要な遺伝子だけがオンになり、それ以外はオフになることで、細胞ごとの役割が決まります。
このスイッチのオフに関わる目印として知られてきたのが「5-メチルシトシン(5mC)」です。5mCがDNAのシトシン(C)の部分に付くと、その遺伝子は読み取られにくくなります。この5mCの状態は固定されたものではなく、酵素の働きによって少しずつ別の形に変化していきます。5mCは、段階的に、5hmC(5-ヒドロキシメチルシトシン)、5fC(5-ホルミルシトシン)、5caC(5-カルボキシシトシン)へと変わります。最終的には5caCが取り除かれ、元のシトシン(C)に戻ります。こうして目印が取り除かれると、その遺伝子は再び読み取られやすい状態になります。
こうした変化の流れがわかってくると、遺伝子のスイッチは単純にオンかオフかの状態にあるのではなく、オフからオンへ戻る途中にもいくつかの段階があると考えられるようになってきました。しかし、それぞれの段階がどのような意味を持つのかは、まだよくわかっていませんでした。
中でも5fCは、特定の場所やタイミングで現れることがわかってきました。そのため、5fCは単なる途中段階ではない可能性が注目されるようになりました。ところが、DNA上で5fCを正確に見分ける方法がほとんどなく、「重要そうなのに調べられない」という大きな課題が立ちはだかっていました。そこで、東京科学大学(Science Tokyo)の山吉麻子(やまよし・あさこ)教授らの研究チームは、スイッチの切り替わりの途中に現れる5fCを選択的に捉えるための新たな技術開発に挑みました。
ここが重要
研究チームは、DNAに結びつく分子の構造を細かく設計し、特定の位置関係になったときだけ5fCと反応する分子(人工核酸)を生み出しました。特に、5fCを識別する分子と人工核酸のつなぎ目にあたる部分の長さを工夫することで、効率よく結合させられるようになりました。
こうして生み出された分子に紫外線を当てたところ、紫外線の波長によって反応が異なることがわかりました。365nmの光を当てると、5fCと効率よく結合します。さらに、結合後の箇所に254nmの短波長紫外線を照射すると、5fCとの結合が切断されない極めて珍しい特性があることがわかりました。5fC以外の5mCや5hmCの場合、光刺激によって結合が切れてしまうことが確認され、その結果、5fCとの結合だけが安定して残ることがわかりました。
また、5fCと結合した分子は、特定の光(励起光)を当てると蛍光を発するよう設計してあります。この設計によって、遺伝子がオフのままなのか、それともオンへ向かって変化しつつあるのかを読み取ることが可能になりました。研究チームはこれを利用して、ガラス基板上に5fCを検知するセンサー(DNAチップ)を試作しました。そして実際に、5fCだけを光らせて見分けることにも成功しました。
今後の展望
この技術により、遺伝子のスイッチがどのタイミングでどのように切り替わるのかを、光を使って詳しく調べられるようになります。特に、胎児の発達やがんなど、遺伝子の働きの変化が重要な分野での応用が期待されます。
また今回の研究では、DNAチップとしての基礎技術はすでに確認されています。今後は、5fCを検出する新しいセンサーとして医療や診断への応用も考えられます。
研究者のひとこと
遺伝子は、その並び方(配列)だけでなく、そこに施される小さな印が大事であることが議論されてきました。その印は、本当に本当に小さいので、とても見えにくいのです。今回の研究は、そうした「見えにくい違い」を光で捉える第一歩です。生命のしくみをより深く理解する手がかりになると期待しています。
(山吉麻子:東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 教授)
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