ポイント
- 火炎合成により高性能なメタネーション用ニッケル/酸化セリウム触媒をワンステップにて創出
- 高温・高速な燃焼プロセスにより、微細かつ均一な粒子構造を実現
- 大規模CO2メタネーションの社会実装に貢献する技術として期待
概要
東京科学大学(Science Tokyo)工学院 機械系の岡田公誠大学院生、長澤剛准教授、名古屋大学 未来社会創造機構(研究当時)の中村真季特任准教授の研究グループは、高輝度光科学研究センターの山田大貴主幹研究員(現 東北大学准教授)、伊奈稔哲研究員と共同で、カーボンニュートラル社会実現のために重要なCO2メタネーション[用語1]反応用の高性能触媒を、火炎合成によりワンステップに製造する技術の開発に成功しました。
CO2を燃料や化学原料として有用なメタンに転換するCO2メタネーションは、燃焼排ガスや大気から回収したCO2の利用技術として注目されています。本技術の大規模な社会実装に向けては、高効率・長寿命かつ低コストな固体触媒の製造技術が求められています。しかし、性能を高めるための従来の合成手法の多くは、複雑かつ高コストなため、大量生産への適用が困難でした。
今回、研究チームは火炎補助式噴霧熱分解法(FASP)に着目しました。これは火炎に原料となる元素を溶かした溶液を投入することで、ワンステップで粒子が合成される簡便な方法です。拡散火炎を用いたFASPにてニッケル/酸化セリウム触媒粒子を合成したところ、広く用いられる合成法である含浸法[用語2]による触媒粒子と比べて微細かつ均一な粒子構造が得られ、CO2メタネーション性能は大幅に向上しました。
また、FASPによる触媒はこれまで報告されている触媒の中でも高いレベルの性能を示しており、本手法が高性能なCO2メタネーション用触媒を簡便かつ大量に製造する有望な手法であることを示しました。
本成果は、7月8日付(現地時間)で「Fuel」誌にオンライン版が掲載されました。
背景
カーボンニュートラルの実現に向けて二酸化炭素(CO2)の回収・利用が大きな注目を集めており、その中でも燃焼排ガスや大気から回収したCO2を、燃料や化学原料として有用なメタン(CH4)に変換するCO2メタネーションが有望な技術として期待されています。本技術の大規模な社会実装に向けては、メタンの製造コストとプラントへの設備投資額の低減が大きな課題であり、そのためには高効率・長寿命かつ低コストな固体触媒の開発とその量産技術の確立が求められています。
しかし、含浸法をはじめとする一般的な湿式の触媒合成法は複数の工程を含むバッチ式プロセス[用語3]であり、性能向上に向けた工夫を重ねるほど行程が複雑化・多段化してしまうことが知られています。その結果コストや環境負荷が増加するため、大量生産への適用が困難になるという課題がありました[参考文献1]。
そこで本研究では、火炎を用い、ワンステップにて高純度微粒子の連続合成が可能な火炎合成の一種である、火炎補助式噴霧熱分解法(FASP:Flame-assisted spray pyrolysis)に着目しました。火炎合成は簡便なプロセスでありながら、燃焼条件や前駆体の調整によって粒子構造の制御が可能であり、次世代の機能性微粒子製造技術として注目されています。本研究ではFASPを用いて高性能なCO2メタネーション用触媒の合成を目指しました。
研究成果
本研究では、メタンを燃料とする同軸型の拡散バーナを用いて、CO2メタネーション用触媒として経済性と性能の面から有望視されているニッケル/酸化セリウム(Ni/CeO2)触媒を合成し、粒子の詳細な構造とCO2メタネーション性能を評価しました。また、含浸法で調製した触媒粒子との比較を行い、合成手法の違いが粒子構造と触媒性能に与える影響を調査しました。
FASPにおいては、図1右に示すように、ニッケル(Ni)とセリウム(Ce)の前駆体を溶かした溶液を超音波噴霧により微細な液滴として火炎中に導入しました。液滴は火炎中で急速に蒸発し、前駆体の熱分解、核生成[用語4]・粒成長[用語5]を経てナノ粒子が形成されます。合成後の粒子は燃焼器下流に設置したグラスファイバーフィルターで捕集されます。
図2はFASPと含浸法にて作製したNi/CeO2粒子の電子顕微鏡画像を比較したものです。図2(a)〜(c)がFASP、(d)〜(f)が含浸法の粒子であり、(b)、(e)はそれぞれ(a)、(d)の拡大図です。(c)、(f)は粒子断面における元素の分布を可視化した画像であり、水色がCe、赤色がNiを示しています。(a)、(b)から、FASPにおいては一部に数百nmの粒子が含まれているものの、大部分は直径10~20 nm 程度の微細粒子で構成されています。(c)から、この微細粒子内にNiとCeが均一に分散していることが分かります。一方含浸法の場合は、(d)〜(f)より数µmのCeO2粒子表面に約30 nmのNi粒子が存在する構造となっています。これらの構造の違いにより、FASPの方が含浸法と比較して比表面積は約15倍、Niの分散度は約7倍高くなりました。FASPにおいて、条件によっては燃焼場の高温雰囲気にてガス化した前駆体から核生成と粒成長を経て多数の微細な粒子が生成されると考えられており、これにより、微細かつ均一なNi/CeO2構造が得られたと推測できます[参考文献2]。
図3(a)はFASPと含浸法によるNi/CeO2触媒のCO2メタネーション性能を比較した結果を示しています。横軸が温度、縦軸が投入したCO2に対するメタンの生成割合を表す収率であり、グラフ内には実験結果に加えて熱力学的平衡による理論上限値も示しています。いずれの温度においてもFASPで合成した触媒の性能は含浸法で調製した触媒を大きく上回っており、FASPによる触媒は400℃付近において平衡値に達していることが分かります。この大きな性能差の要因を調べるため、X線光電子分光法(XPS)[用語6]および大型放射光施設SPring-8[用語7]のBL01B1におけるX線吸収微細構造(XAFS)[用語8]を用いた電子状態・局所構造解析を実施したところ、含浸法で合成した粒子と比べてFASPで調製した粒子では、以下の構造的な特徴を持つことが明らかとなりました。
- 1.
- Niクラスターサイズの減少に伴い、触媒反応に重要なNiとCeO2の界面が増加
- 2.
- 反応の開始点である酸素空孔(酸素欠陥)[用語9]の増加
- 3.
- メタン変換に必要な水素を供給する、還元されたNiの増加
図2で示した微細化の促進による比表面積とNi分散度の向上に加え、上記1~3により、FASP触媒のCO2転化率とメタン選択率が含浸法と比較して大きく向上し、メタン収率の増加につながったと考えられます。
図3(b)は、FASPで合成したNi/CeO2触媒を用いた際の触媒単位重量当たりのメタン生成速度(300℃条件)を、近年報告されているNi/CeO2触媒の複数の文献値と比較したものです(論文のTable 5を基に作成)。さまざまな工夫を凝らした触媒が数多く報告されていますが、それらの中においても、本研究にて合成された触媒は高いレベルの性能を示しており、このことは、火炎合成が高性能なCO2メタネーション用触媒を簡便かつ大量に製造する有望な手法であることを示しています。
社会的インパクト
本研究により示された、火炎合成による高性能メタネーション触媒のワンステップ製造技術は、大規模CO2メタネーションの社会実装を加速するポテンシャルを有しています。火炎合成は連続的かつスケールアップが比較的容易な手法なため、工業的な大量生産への展開がしやすく、1時間当たり数kgオーダーにて微粒子合成が可能なパイロットプラントの構築も報告されています[参考文献3]。このような特徴は、メタネーションに代表されるエネルギー分野などの量的な寄与が重要になる分野において、特に優位性を発揮すると予想されます。本技術の確立により、高性能なメタネーション触媒を低コストかつ大量に供給することで、CO2回収・利用技術の大規模な社会実装、およびカーボンニュートラル社会の実現への貢献が期待されます。
今後の展開
火炎合成による触媒の更なる高性能化・長寿命化を達成するためには、含有元素や粒子構造の最適化が求められます。しかし火炎合成の課題の1つに、既存の湿式プロセスと比較して粒子の構造制御性が十分に高くない点が挙げられます。これを解決するためには、火炎中における複雑な粒子生成機構を明らかにすることが求められます。
また、量産化を見据えた際には、合成粒子の構造や機能を保持し、品質のばらつきを抑えた上でスケールアップすることも重要となります。これらの課題を解決するために、合成条件を系統的に変化させた実験や燃焼合成装置の改良に加え、数値シミュレーションによる燃焼場における粒子生成機構の解明、および燃焼器設計の最適化を推進していく予定です。
付記
本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業(23K22684、26K00887)、および公益財団法人JKA 競輪とオートレースの補助事業(2024M-388)の支援を受けて実施されました。
参考文献
- [参考文献1]
- K. Liu, M.A. Nawaz, G. Liao, Progress and Future Challenges in Designing High‐Performance Ni/CeO2 Catalysts for CO2 Methanation: A Critical Review, Carbon Neutralization, 4:e190 (2025).
- [参考文献2]
- N. Minegishi, P. Li, T. Nagasawa, H. Kosaka, Effect of flame temperature on structure and CO oxidation properties of Pt/CeO2 catalyst by flame-assisted spray pyrolysis, Applications in Energy and Combustion Science 20, 100303 (2024).
- [参考文献3]
- K. Wegner, B. Schimmöller, B. Thiebaut, C. Fernandez, T.N. Rao, Pilot Plants for Industrial Nanoparticle Production by Flame Spray Pyrolysis, KONA Powder and Particle Journal 29, 251-265 (2011)
用語説明
- [用語1]
- CO2メタネーション:二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を反応させ、燃料として利用可能なメタン(CH4)を生成する技術。CO2を資源として再利用できるため、カーボンニュートラル実現に向けた有望な技術の1つである。
- [用語2]
- 含浸法:触媒の担体粒子を金属成分を含む溶液に浸し、乾燥・焼成することで触媒を調製する方法。工業的に広く利用されている一方、複数工程を必要とする。
- [用語3]
- バッチ式プロセス:原料の投入から製品の回収までを1つの単位工程として繰り返し行う生産方式。工程ごとに処理が必要となるため、大規模生産では連続式プロセスに比べて効率面で課題がある。
- [用語4]
- 核生成:気体や液体中の原子・分子が集まり、粒子形成の起点となる極めて小さな集団(核)が生じる現象。ナノ粒子のサイズや構造を決定する重要な初期過程である。
- [用語5]
- 粒成長:核生成後に周囲の原子や分子が取り込まれ、粒子が大きくなる過程。核生成と粒成長の進み方によって、粒子の大きさや均一性が決まる。
- [用語6]
- X線光電子分光法(XPS):試料にX線を照射し、放出される電子を分析することで表面の元素組成や化学状態を調べる分析手法。触媒表面の電子状態を評価するために広く用いられる。
- [用語7]
- 大型放射光施設SPring-8:理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
- [用語8]
- X線吸収微細構造(XAFS):X線吸収の変化から、物質に含まれる原子の種類や並び方、電子状態を調べる分析手法。結晶性の低い材料や触媒などのナノ粒子の詳細な構造解析に広く用いられ、SPring-8に代表される大型放射光施設の高輝度X線を活用して測定される。
- [用語9]
- 酸素空孔(酸素欠陥):酸化物結晶中で本来存在する酸素原子が欠けた状態のこと。物質の反応性や触媒性能に大きく影響し、CO2メタネーション反応ではCO2活性化の起点として重要な役割を果たす。
論文情報
- 掲載誌:
- Fuel
- タイトル:
- One-step synthesis of Ni/CeO2 catalyst with fine structure for CO2 methanation by flame-assisted spray pyrolysis
- 著者:
- Kosei Okada, Tsuyoshi Nagasawa*, Hiroki Yamada, Toshiaki Ina, Maki Nakamura*
*責任著者