どんな研究?
物質の性質は、原子の並び方だけでなく、電子がどのように並び、動くかによっても大きく変わります。では、光を当てることで物質の性質が変わるとき、その内部では何が起きているのでしょうか。
これまで、光によって電子がつくっていた規則的な状態が崩れていく様子は数多く研究されてきました。一方で、新しい規則性が生まれていく過程は、変化があまりにも速いため、詳しく捉えることが困難でした。
東京科学大学(Science Tokyo)の石川忠彦(いしかわ・ただひこ)助教らを中心とする研究チームは、金属と有機物が規則的につながった金属有機構造体(MOF)という物質に光を当て、その直後に物質の中で何が起きるのかを、1000兆分の1秒を表すフェムト秒という時間単位で追いました。
ここが重要
観測すると、光を当てた直後にまず電子の状態が変化し、その後、物質の構造に関わる変化も起きたことが示されました。そして約30フェムト秒で、もとの状態にはなかった新しい状態へと変化しました。計算では、この状態が電気的な偏りをもつ可能性も示されています。つまり、実験と計算から、電子の状態と物質の構造に関わる変化が結びつくことで、この新しい状態が形成されることが示されました。
この研究の大きな成果は、光を当てた直後の一時的な状態から、別の状態が形づくられていくごく初期の過程を捉えたことです。これまで、光によってもとの状態が崩れていく現象は数多く研究されてきましたが、その後に別の状態が形成される過程は、変化が速すぎるため十分に分かっていませんでした。さらに計算から、今回調べたMOFはもともと原子の位置関係を変えにくいにもかかわらず、光を受けると電子の変化と構造変化との結びつきが強まり、わずかな構造変化によって新しい状態が安定することも示されました。
今後の展望
今回、形成される過程が明らかになったのは、通常の温度変化だけでは現れない状態です。MOFは金属や有機物の組み合わせを変えることで構造を調整しやすいため、今後は材料を工夫することで、光を当てたときに現れるさまざまな状態を安定してつくり出せる可能性があります。
さらに、原子が動く様子を直接観測する技術などと組み合わせることで、光を当てた後に物質の状態がどのように変化し、新たな状態が形成されるのかを、より詳しく理解できると期待されます。
研究者のひとこと
30フェムト秒は約33兆分の1秒に相当します。これは、例えば水分子の中の原子が数回振動する程度の非常に短い時間です。このような、私たちが実感することもできないほど短い時間の中で、物質の状態は着実に変化しています。今回、その一瞬に起きていることを光のスペクトルの変化として捉えることができました。しかし、実際に起こっている変化を全て直接見たわけではありません。物質の中で何が起き、新しい状態がどのように形づくられていくのか、その瞬間をもっと詳しく見ていきたいと考えています。
(石川忠彦:東京科学大学 理学院 化学系 助教)
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