どんな研究?
手足口病は、小さな子どもを中心に毎年流行する身近な感染症です。口の中や、手足に水疱を伴うたくさんの発しんが出ることが特徴です。
この病気の原因の1つがエンテロウイルスA71(EV-A71)です。このウイルスは口から体に入り、まず腸で増え、便とともに体の外へ排出されます。手足口病の多くは数日で直りますが、患者さんの便からは発症後2〜4週間たってもウイルスが見つかることがあります。
つまり、腸には何週間もウイルスがいるのです。ところが、多くの患者さんは下痢などの症状をほとんど起こしません。この理由は長年分かっていませんでした。
研究者たちは長年、この謎を解こうとしてきましたが、これまで実験に使われてきた培養細胞は感染すると数日で壊れてしまい、患者さんの腸の中でウイルスが何週間も増え続ける様子を再現して観察することができませんでした。そこで東京科学大学(Science Tokyo)の高山和雄(たかやま・かずお)教授を中心とする研究チームは、ヒト多能性幹細胞から実際の腸に近い「腸チップ(腸MPS)」を作り、その中でウイルス感染を再現することに挑戦しました。
ここが重要
研究チームが腸チップを使って調べたところ、これまで実験では確認できなかった現象が初めて明らかになりました。EV-A71は14日間にわたって増え続けていたにもかかわらず、腸の細胞はほとんど傷ついていませんでした。これは、多くの患者さんが下痢を起こさないという実際の症状とも一致しています。
さらに、通常ならウイルスに感染すると、体はインターフェロンという免疫物質を放出してウイルスを排除しようとします。しかし、EV-A71に感染した腸チップでは、この反応が十分に起きていないことも分かりました。これは、EV-A71が体の防御反応を巧みにかわしながら、腸の細胞を傷つけずに長期間増え続けている可能性を示しています。
今後の展望
現在、EV-A71に対する承認済みの治療薬はありません。しかし今回、「患者さんの腸で実際に起きている14日間」を再現できるようになったことで、新しい治療薬を人体に近い環境で評価できるようになります。
また将来は、この技術を発展させることで、ウイルスが腸から他の臓器へ広がる過程の解明にも役立つことが期待されています。
研究者のひとこと
この研究では、患者さんの腸で起きている現象を、できるだけ忠実に再現することを目指しました。今回の腸チップが、手足口病のさらなる理解へと繋がり、将来的に新しい治療薬の開発にも役立つことを期待します。
(高山和雄:東京科学大学 総合研究院 難治疾患研究所 人体模倣システム学分野 教授)
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