概要
東京科学大学(ScienceTokyo) 理学院 地球惑星科学系(研究当時 地球生命研究所、ELSI)中川 麻悠子 研究員と同大学 山村 雅幸 情報理工学院 情報工学系 教授(研究当時)と、東京農業大学 生命科学部 分子微生物学科の西田 暁史 助教は、東京都内の下水処理場における細菌の働きと、その処理水が放流先の多摩川に与える影響を調査しました。その結果、下水処理プロセスは、季節や処理工程によらず安定して存在する「コア細菌群」が支えており、冬場の低温がそれらの細菌の活動を低下させること、また殺菌処理後に放流された細菌の影響は下流2km地点では大幅に減衰していることを明らかにしました。本研究成果は、2026年4月15日、国際学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。
背景
私たちが排出した下水は、処理場の微生物の力を借りて汚水からリンや窒素を取り除き、河川へと放出されます。しかし、季節による気温の変化が処理効率にどう影響するのか、また処理された水に含まれる細菌のDNAが河川の生態系にどの程度の範囲で影響を及ぼすのかについては、不明な点が残されていました。
研究成果
研究グループは、東京都内のA2O法(嫌気-無酸素-好気法)を採用する下水処理場にて、夏季から冬季にかけて継続的なサンプリング調査を実施し、以下を明らかにしました。
水温と処理効率の相関
調査の結果、下水処理場では年間を通じて高いアンモニア除去率(98.4%)を維持していましたが、冬場の水温低下に伴い、アンモニア除去能の低下や硝化を担う重要な細菌「ニトロスピラ(Nitrospira)」の割合が減少することを確認しました。
コアな細菌の存在
処理場内には、季節や処理槽の違いにかかわらず常に存在する「コア細菌群」がコミュニティの70%以上を占めており、安定した浄化機能を支えていることが分かりました。
河川への影響の評価
殺菌処理されて放流される処理水の多摩川への影響調査では、放流地点で検出された下水由来の細菌DNAが、2km下流では有意に減少していることが判明しました。細菌DNAの放出は、他の細菌が抗生物質耐性を獲得する原因になりますが、適切な処理プロセスを経ることで、河川生態系への影響が一定の範囲に留まっていることを示唆しています。
今後の展開
本研究は、都市の下水処理システムが環境保全に果たしている役割を、微生物学的な視点から明らかにしたものです。今後は、河川における薬剤耐性遺伝子の動態や、機能面の解析のためDNAだけでなくRNAについても調査を広げ、持続可能な水環境の管理手法の提案を目指します。
付記
本研究は、JSPS(22K17999、23KK0192)、東急財団、日本生命財団の支援を受けて実施されました。
論文情報
- 掲載誌:
- PLOS ONE
- タイトル:
- The role of bacteria in wastewater treatment and the impact of treated wastewater on riverine bacterial ecosystems
- 著者:
- Akifumi Nishida, Mayuko Nakagawa, and Masayuki Yamamura