どんな研究?
地球の内核は主に鉄からできていると考えられていますが、その詳しい化学組成や内部の動きなど、今も多くの謎が残っています。内核には鉄だけでなく、鉄より軽い元素も含まれていると考えられており、水素はその候補の1つです。しかし、どのような元素がどの程度含まれているのかは、まだよく分かっていません。
地球内部を直接見ることはできないため、その性質を探る重要な手がかりの1つが地震波です。地震波は、通過する物質の硬さや密度によって伝わる速さが変わります。観測では、地震波の一種であるS波が内核で予想より遅く伝わり、方向によって速度も異なることが分かっています。なぜこのような特徴が現れるのかを理解するためにも、内核の組成や物質の状態を知ることが重要です。
そこで、水素が内核の鉄に取り込まれている場合を考えるために研究されているのが、鉄と水素からなる水素化鉄です。これまでの理論計算では、地球内核に相当する高温高圧の条件では、水素化鉄が超イオン状態になり、鉄の結晶は固体のまま、そのすき間にある水素が液体のように動き回ると予測されていました。このように、固体の中で一部のイオンが非常に動きやすくなる状態を超イオン状態と呼びます。しかし、こうした極限環境でこの変化を実験で捉えることは難しく、これまで十分に確かめられていませんでした。
ここが重要
そこで、東京科学大学(Science Tokyo)の太田健二(おおた・けんじ)教授を中心とする研究チームは、大型放射光施設SPring-8で、ダイヤモンドアンビルセルという装置を使って最大約140万気圧の高圧状態をつくり、レーザーで水素化鉄を加熱しながら、強力なX線で結晶の変化を追いました。これは、地球の外核が始まる深さに相当するほどの圧力です。
その結果、温度を上げると、鉄の結晶の膨らみ方に通常とは異なる変化が現れました。研究チームは、この変化を水素化鉄が超イオン状態に変わる兆候と考えています。これまで理論で予測されていた現象について、実験からもその可能性が示されたのです。
地球中心部の圧力は約360万気圧に達するため、今回の実験だけでは中心部の条件までは再現していません。そこで、実験から得られた温度と圧力の関係を地球中心部まで広げて推定したところ、約2,500℃以上で水素化鉄が超イオン状態になると見積もられました。
これまでの理論研究では、水素が超イオン状態になると、鉄合金が横方向にずれるような力に対して変形しやすくなると予測されています。S波の速さは、物質がこうした変形にどれだけ抵抗するかに左右されるため、今回の結果は、内核でS波が予想より遅い理由を考える手がかりになると考えられています。
今後の展望
直接見ることのできない地球内部を知るには、候補となる物質を極限環境で一つずつ調べ、地震波などの観測結果と照らし合わせていくことが重要です。今後は、超イオン状態が鉄合金の性質をどの程度変え、地震波の伝わり方にどう影響するのかを、さらに実験で確かめる必要があります。
研究者のひとこと
高温高圧実験は直接アクセス出来ない天体深部を知るための先端技術です。今回の結果を内核の性質を考えるための一つの手掛かりにしていきたいと考えています。
また、この結果を得るにあたって、学生達の発想力と実行力に大変助けられました。こうした未知の世界を探る研究では、学生と一緒に挑戦できることも研究の面白さだと感じています。
(太田健二:東京科学大学 理学院 地球惑星科学系 教授)
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