5Gミリ波とBeyond 5G無線通信を加速する広入射角・広帯域電波吸収体を開発

2024年11月7日 公開

ビームフォーミングやステアリング機能との組み合わせでセキュリティ強化への応用も視野に

要点

  • ミリ波・テラヘルツ帯に対応した広入射角・広帯域電波吸収体を開発
  • ループ型周波数選択性表面技術の導入により、低周波信号の通過が可能
  • 5GおよびBeyond 5G無線通信において吸収体の効率が大幅に向上することから、通信の発展に貢献

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 未来産業技術研究所 李尚曄助教らの共同研究チームは、ミリ波[用語1]およびテラヘルツ帯に対応する広入射角電波吸収体を開発しました。

5G[用語2]Beyond 5G[用語3]無線通信ネットワークなどの先進的な通信システムでは、150 GHzから300 GHzの周波数帯の利用が検討されています。しかし、チップやモジュールから反射・放射される不要な電波を数十ギガヘルツにわたる広帯域で低減するための電波吸収体などのコンポーネント開発は、十分ではありません。また、先進的なアンテナ技術と統合できるよう、広い入射角においても強力な性能を発揮することも求められています。

今回開発した吸収体は、ループ型周波数選択性表面(frequency selective surface、FSS)[用語4]パターンを使用することで、入射角60度までの広帯域周波数吸収を実現しています。この革新により、5Gミリ波やBeyond 5G無線通信ネットワークなどの先進的な通信システムにおいて、吸収体の効率が大幅に向上します。特に、この吸収体はWi-Fiなどの低周波信号を通過させることが可能で、従来の吸収体とは一線を画しています。この二重機能により、吸収体は汎用性が高く、高周波信号の吸収と低周波数帯の伝送が求められる現代の通信システムに最適なものとなりました。さらに、アンテナへのビームフォーミング[用語5]ビームステアリング[用語6]
機能との組み合わせにより、情報漏えいを防ぐセキュリティ強化や人体保護などの分野への応用も見込まれています。

本成果は、2024年11月8日付(韓国現地時間)の国際学会「The 29th International Symposium on Antennas and Propagation (ISAP 2024)」にて発表されます。

  • 2024年10月1日に東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し、東京科学大学(Science Tokyo)となりました。

背景

5G無線通信サービスは、ミリ波帯の24 GHzから71 GHzの周波数(FR2と呼ばれる)を活用し、世界中で急速に拡大しています。将来を見据えると、100 Gbit/sを超える超高速接続を提供することが期待されるBeyond 5Gや6G無線通信サービスが、2030年代に導入される見込みです。これらの未来のネットワークでは、150 GHzから300 GHzの周波数帯が候補として検討されています。しかし、パッケージングやモジュール化に不可欠な電波吸収体などのコンポーネントは、まだ開発が必要です。これらの吸収体は、チップやモジュールからの不要な反射や放射を、数十ギガヘルツにわたる広帯域で低減する役割を果たします。また、最新のミリ波およびテラヘルツ帯吸収体は、ビームフォーミングやビームステアリングなどの先進的なアンテナ技術と統合できるよう、広い入射角においても強力な性能を発揮することが求められています。

研究成果

東京科学大学(旧・東京工業大学)、広島大学、東京理科大学、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))、およびマクセル株式会社の共同研究チームが、ミリ波およびテラヘルツ帯用途向けの広入射角電波吸収体を開発しました。同チームの研究では、ループ型周波数選択表面(frequency selective surface, FSS)を利用した電波吸収体を導入しており、広い入射角での吸収特性により、アンテナのビームフォーミングやビームステアリングとの共同設計が容易になります。この吸収体は、4G LTE、5G、Wi-Fi、ブルートゥースなどの低周波数帯にも応用可能です。ループ型FSSは、2.4 GHzにおいて、0度の入射角でシミュレーションした場合、伝送損失を7 dB未満に抑えることで、低周波数帯での性能向上を実現します。さらに、この吸収体は、入射角60度までの条件でも30 GHz帯のもので26.5 GHzから40 GHz、150 GHz帯のもので95.4 GHzから181 GHzおよび328 GHzから431 GHzの範囲で、90%以上の広帯域吸収を達成し、優れた吸収性能を示します(図1)。

図1. (a) 30 GHz帯試作電波吸収体および測定系、(b) 150 GHz帯試作電波吸収体および測定系、(c) 30 GHz帯電波吸収体実測結果、 (d) 150 GHz帯電波吸収体実測結果。

社会的インパクトと今後の展開

現在普及している5Gミリ波通信や車載レーダー(77 GHz帯)などのアプリケーションに加え、今後Beyond 5G/6G通信の候補周波数帯として注目されているテラヘルツ帯においても、今回の技術は重要な基盤技術として貢献することが期待されています。特に、アンテナのビームフォーミングやビームステアリング機能との組み合わせにより、情報漏えいを防ぐセキュリティ強化や人体保護などの分野への応用も見込まれます。

付記

本研究の一部は、JST A-STEPトライアウト(JPMJTM22C5)、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究(JPJ012368C07401)、および公益財団法人電気通信普及財団の研究助成によって実施されました。

用語説明

[用語1]
ミリ波:波長が1ミリメートルから10ミリメートル(周波数では約30 GHzから300 GHz)の電磁波。
[用語2]
5G:第5世代移動通信。
[用語3]
Beyond 5G:5Gを超える次世代の通信技術。
[用語4]
周波数選択性表面(frequency selective surface、FSS):特定の周波数の電磁波を通過させたり反射させたりする特性を持つ表面構造。
[用語5]
ビームフォーミング:無線通信においてアンテナから送信される電波の指向性を特定の方向に集中させる技術。
[用語6]
ビームステアリング:アンテナから放射される電波の指向を動的に制御し、特定の方向に向けて信号を送信する技術。

論文情報

発表学会名:
The 29th International Symposium on Antennas and Propagation (ISAP 2024)
論文タイトル:
Wide-Incident-Angle Radio-Wave Absorber with Loop-Shape Frequency Selective Surface
著者:
Sangyeop Lee1*, Takeshi Yoshida2, Kyoya Takano3, Shinsuke Hara4, Issei Watanabe4, Akifumi Kasamatsu4, and Yuko Sawaki5
所属:
1 Tokyo Institute of Technology, Japan
2 Hiroshima University, Japan
3 Tokyo University of Science, Japan
4 National Institute of Information and Communications Technology (NICT), Japan
5 Maxell, Ltd., Japan

研究者プロフィール

李 尚曄 Sangyeop LEE

東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所 助教
研究分野:テラヘルツシステム・集積回路・デバイスなど

関連リンク

お問い合わせ

東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所

助教 李 尚曄

取材申込み

東京科学大学 総務企画部 広報課