「腎臓の健康を守る見張り役」が不在になる病気に迫る

2026年2月3日 公開

難病・ネフロン癆(ろう)への挑戦

どんな研究?

私たちの腎臓は、毎日せっせと血液をろ過し、血液をきれいに保っています。また、水分や塩分、血液の状態までも細かく調整しています。

ところが、こんな大事な役割を担う腎臓の中で、気づかぬうちに進行する病気があります。子どもや若者の腎不全の原因となる「ネフロン癆(ろう)(Nephronophthisis: NPH)」です。NPHは、治療法が確立しておらず、国が指定する難病の一つとして知られています。

NPHにはいくつかの原因があることが知られていますが、なかでもNPHP1遺伝子の欠損は、全体の約半数を占める代表的な病因です。NPHP1欠損型のNPHを発症すると、本来やわらかい腎臓の組織が硬くなっていく「線維化」が進みます。ただ、NPHP1遺伝子の欠損が原因だと分かっていても、それがなぜ腎臓の線維化を引き起こすのかは分かっていませんでした。

crystal light/Shutterstock.com

線維化を引き起こすメカニズムを調べるために、人と同じ腎不全や線維化をマウスで再現しようと試みましたが、それもできていませんでした。そこで研究者たちが注目したのが、人工的につくられたミニ臓器であるオルガノイドです。

ここが重要

東京科学大学(Science Tokyo)の蘇原映誠(そはら・えいせい)准教授、須佐紘一郎(すさ・こういちろう)講師、鈴木健文(すずき・たけふみ)大学院生らの研究チームは、ヒトiPS細胞から作った3D腎臓オルガノイドであるミニ腎臓を用いて、NPHP1遺伝子欠損による腎臓組織の線維化を、ヒト細胞で初めて再現しました。

この再現によって、病気の背景で何が起きているのかを詳しく調べることが可能になりました。その結果、NPHP1は腎臓の中で、線維化が広がらないよう見張る監視員のような役割を果たしていることが明らかになりました。

腎臓の細胞では、本来、細胞が増えすぎたり、組織が傷ついたりしないよう、状態を一定に保つための「ヒッポ・シグナル」と呼ばれる制御信号が働いています。NPHP1はその制御機能が正しく働くように見張り、腎臓の組織が硬く変わってしまう線維化を抑えるブレーキ役にもなっていたのです。

ところがNPHP1が欠けると、この見張り役がいなくなり、線維化が歯止めなく広がってしまいます。さらに研究チームは、その進行を抑える方法として、細胞の働きを調整する薬(ペプチド17、ベルテポルフィン)が、線維化を阻止するブレーキ役となることも、ヒトiPS細胞から作製したミニ腎臓で実証しました。

今後の展望

この成果は、治療法がなかったNPHに対し、新しい創薬の土台を提供します。特にベルテポルフィンは、すでに別の病気で使われている薬です。既存薬を転用する「ドラッグリポジショニング」により、より早く患者さんに届く治療につながる可能性があります。また、遺伝性腎疾患に共通する線維化の理解が進めば、腎不全を防ぐ新戦略にも発展すると考えられています。

研究者のひとこと

ネフロン癆という病気に対して、留学先で取り組みはじめてから20年経ちましたが、やっと治療に結びつく成果が得られました。今回の発見をもとに、ネフロン癆患者さんに使いやすい薬剤を届けられるように現在頑張っています!
(蘇原映誠:東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野 准教授)

iPS細胞の登場で、今までできなかったことが可能になりつつあります。我々の研究もその一つです。我々は臨床医でもあるので、患者さんに希望を届けられるよう、薬の実用化を目指していきます。
(須佐紘一郎:東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野 講師)

今回の我々の研究で得られた知見が更なるネフロン癆の研究発展につながることを期待しています。また、腎臓オルガノイドがネフロン癆だけでなく、様々な腎臓の病気を理解するために役立つ実験モデルになることを期待し、研究を続けて参ります。
(鈴木健文:東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野 大学院生)

左から:鈴木健文大学院生、須佐紘一郎講師、蘇原映誠准教授

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