恐竜時代の北極域はなぜ温暖だったのか?

2026年7月23日 公開

地軸の傾きと大陸配置が鍵

ポイント

  • 約7,000万年前の白亜紀後期の気候をスーパーコンピュータで再現し、恐竜時代の北極温暖化の仕組みを調べました。
  • 地軸の傾きの変化を考慮することで、地質学的なデータから推定された北極域の温暖な気候を従来よりよく説明できることを明らかにしました。
  • 白亜紀の北極域は、大規模な氷床がないことに加え、広い陸地が存在していたことで、地軸の傾きが大きくなったときに温暖な気候になりやすいことが分かりました。
地表気温とその変動性の現代と白亜紀の比較

研究成果

東京科学大学 未来社会創成研究院 地球生命研究所(ELSI)の樋口太郎研究員(日本学術振興会特別研究員)(研究開始時:東京大学 大学院理学系研究科 博士課程)、東京大学 大気海洋研究所の阿部彩子教授らの研究グループは、大気・海洋・植生を結合した全球気候モデルMIROC[用語1]を用いて、白亜紀後期の気候を対象とした数値シミュレーションを実施し、白亜紀後期の地球環境の再現を大きく改善しました。とくに、地球の公転軌道や地軸の傾きが変化する「軌道要素」に着目し、その影響を系統的に調べるため、多数の数値実験を行いました。その結果、当時の北半球高緯度地域は、地軸の傾きの変化に対して敏感に応答していたことが明らかになりました。本研究は、恐竜時代の温暖な気候を理解するうえで、二酸化炭素濃度だけでなく地球軌道や大陸配置の重要性を示す成果です。

中生代最後の時代である約7,000万年前の白亜紀後期は、恐竜が繁栄していた温暖な時代であり、北極域でも現在よりはるかに暖かかったことが化石などから知られています。しかし、その暖かさを気候モデルで再現することは容易ではなく、地質データとモデル結果の不一致が長年の課題となっていました。また、その温暖な極域気候が地球軌道要素[用語2]の変化によってどの程度変動していたのかは十分に分かっていませんでした。

気候シミュレーションでは、約7,000万年前の白亜紀後期(マーストリヒチアン期)の大陸配置を使用しました。また、大気CO2濃度だけでなく、これまでは現代条件を仮定していた地球軌道要素を変化させ、その影響を調べました。さらに、同様の実験を現代の大陸配置でも行い、両者を比較することで、白亜紀特有の応答を解析しました。

解析の結果、地球軌道要素の変動範囲を考慮することで、現代よりも温暖な白亜紀後期の極域表層温度を気候モデルで再現できることがわかりました(図1e)。また、北半球高緯度域における、地軸の傾きの増加に伴う気温上昇が、白亜紀後期の大陸配置では現代の数倍に達することも明らかになりました(図1c、1f)。白亜紀後期は、現在のグリーンランドや南極にあるような大規模な大陸氷床が存在していないことに加えて、北半球高緯度域には現代よりも広い陸地が存在していました(図1a、1d)。これらの当時の地理的な特徴によって、白亜紀後期の地軸の傾きの変化に対する気温応答が増幅されていたと考えられます。

以上の結果は、恐竜時代の北極温暖化の謎に対して、地球軌道要素と当時の大陸配置が重要な役割を果たしていた可能性を示すものです。さらに、本研究は当時の北極温暖化の理解を通じて、古気候を再現する気候モデルの信頼性に新たな根拠を与えました。今後、他の地質時代についても同様の実験や解析を行い、地質データと気候モデルを統合することで、地球史を通じた極域の表層環境変動の理解や、過去の地球環境の復元精度のさらなる向上が期待されます。

本成果は2026年7月22日22時(日本時間)、科学誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました。

図1. 現代および白亜紀の地形・地表気温の比較
(a、d)地表高度と海洋水深(m)。
(b)現代の気候シミュレーションによる年平均地表気温および海面水温(℃)。
(e)白亜紀後期の大気CO2濃度および太陽定数条件を設定し、北半球の季節性が最大となる地球軌道要素条件を用いたシミュレーションによる年平均地表気温および海面水温(℃)。図中の丸印は、白亜紀後期の地質学的証拠に基づく復元表層温度の観測地点(Upchurch et al., 2015)を示す。
(c、f)地軸の傾きの変化に対する年平均気温の応答(℃)。(c)は現代の、下段(f)は白亜紀の地理条件を用いたシミュレーション結果を示し、大気CO2濃度および太陽定数条件は同じとした。

付記

本研究の数値シミュレーションは海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運用する地球シミュレータを用いて行いました。また本研究は科研費「過去の大規模な気候変動における氷床・海洋・大気の相互作用の解明(課題番号:17H06104)」、大規模火山活動が駆動した白亜紀前期の全球的な寒冷化イベントの解明(課題番号:25K01108)」、大気海洋植生結合モデルに基づく超温室気候下における地球表層環境(課題番号:25KJ0131)」の支援により実施されました。

参考文献

東京大学 大気海洋研究所のプレスリリース

用語説明

[用語1]
全球気候モデルMIROC:東京大学・国立環境研究所・海洋研究開発機構が共同で開発・発展させてきた、日本を代表する数値気候モデルです。国内の気候研究において重要な役割を果たし続けており、過去・現在・将来の気候研究に応用されています。白亜紀のような古い過去の時代のシミュレーションを行う際には、大気組成や大陸配置、地球軌道要素などの条件を変更して実験を行います。
[用語2]
地球軌道要素:地軸の傾き、歳差、公転離心率は、地球が宇宙空間でどのような姿勢で、どのような軌道を描いて太陽の周りを回っているかを示す重要なパラメーターです。これらは数万年~数十万年という長い周期で変化しており、地球に届く太陽光の量や分布を変化させるため、過去の気候変動における重要な要素として知られています[参考文献1、2、3]

論文情報

掲載誌:
Geophysical Research Letters
タイトル:
Enhanced orbital-forcing sensitivity of northern high latitude temperatures in the Late Cretaceous relative to modern geography
著者:
Taro Higuchi*, Ayako Abe-Ouchi, Wing-Le Chan, Ryouta O'ishi *責任著者

発表者・研究者等情報

東京大学

大気海洋研究所

Chan Wing Le(チャン ウィン リー) 特任研究員
阿部 彩子 教授

東京科学大学

未来社会創成研究院 地球生命研究所(ELSI)

樋口 太郎 研究員(日本学術振興会特別研究員)
研究開始時:東京大学 大学院理学系研究科(博士課程学生)

理学院 地球惑星科学系

大石 龍太 研究員
研究開始時:東京大学 大気海洋研究所(特任研究員)

関連リンク

お問い合わせ

東京大学大気海洋研究所 気候システム研究系
教授 阿部 彩子

東京科学大学 未来社会創成研究院 地球生命研究所(ELSI)
研究員(日本学術振興会特別研究員) 樋口 太郎

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東京大学大気海洋研究所 広報戦略室

東京科学大学 総務企画部 広報課