異方的な力学特性を示す超分子材料の開発に成功

2026年9月16日 公開

分解性やリサイクル性に優れた新材料の創出へ、新しいアプローチ

概要

現代社会はプラスチックやゴムなどに代表される高分子材料に支えられています。一方で、持続可能な社会の実現に向けて、従来の高分子材料を補完する新たな材料の開発が求められています。近年、分子量の小さな低分子化合物のみから構成される「超分子材料[用語1]」が、分解性やリサイクル性に優れた次世代材料として注目を集めています。しかし、これまでの超分子材料の多くはアモルファス性(非晶質)の物質であり、高分子材料のように結晶構造や分子配向を利用して材料特性を制御することは困難でした。

今回、東京科学大学(Science Tokyo)リサーチインフラ・マネジメント機構の梶谷孝上席技術専門員は、京都大学 大学院工学研究科のCheng Chia-Hsin(チェン・チャーシン) 博士課程学生、渡邊雄一郎助教、杉安和憲教授、物質・材料研究機構の佐光貞樹主幹研究員との共同で、コレステロール[用語2]由来の低分子化合物からなる結晶性超分子材料を開発しました。さらに、液晶状態を利用した成形加工によってセンチメートルスケールの分子配向を実現し、力学特性に異方性を付与することに成功しました。本成果は、低分子のみからなる超分子材料において、加工による高次構造と物性の制御を可能にする新たな設計指針を示すものであり、持続可能な次世代材料の開発への貢献が期待されます。

本研究成果は、2026年9月11日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

分子量の小さな低分子化合物のみから構成される、結晶性の「超分子材料」
(杉安研究室 Cheng Chia-Hsin作成)

背景

近年、環境負荷低減の観点から、石油由来の高分子材料に代わる持続可能な材料の開発が求められています。なかでもリサイクル性や自己修復性に優れた超分子材料が大きな注目を集めています。従来の高分子材料は、強い共有結合で構築されています。一方、超分子材料は、可逆的な非共有結合性の分子間相互作用によって形成されており、容易に分解・再構築できるため、材料の回収や再利用が可能です。

実用化されている高分子材料の多くは結晶性の物質であり、材料内部における結晶ドメインの分布や配向を制御することによって、優れた力学特性や異方的な機能を発現します。一方、これまでに報告されてきた超分子材料の多くは、ゴム状やガラス状のアモルファス性(非晶質)の物質でした。高分子材料と同様に超分子材料で結晶構造や高次構造を制御できれば、材料特性を大きく向上できると期待されます。

研究成果

研究グループは、天然に存在するコレステロールをもとに液晶性の化合物を合成しました(Chol-C12: 図1a)。Chol-C12を溶融状態から冷却すると準安定な液晶相を形成し、その後10分程度かけて結晶化することを見いだしました(図1c)。この結晶構造は、カルバメート[用語3]部位の間に働く水素結合[用語4]によって安定化されていることがわかっています。

準安定な液晶状態は室温で十分な流動性を有しており、圧縮成形や押出し成形が可能です(図1d)。この際、液晶状態のまま一定時間室温で保持して、結晶化をある程度まで進行させた後に成形加工を行うと、形成された結晶核が成形の過程で流動配向することを見いだしました。その後、この配向を維持したまま材料全体が結晶化することで、自立性のシート状物質が得られました(図1e、f)。得られたシートの弾性率(ヤング率)[用語5]は270 MPaに達し、低分子のみから構成される超分子材料として優れた力学特性を示しました。また、分子配向を反映して異方的な力学特性を示すことも明らかとなりました(図1b)。一方、結晶核の形成前に成形加工を行った場合には、このような配向構造や異方的な力学特性は確認されませんでした。このことから、超分子材料においても、結晶構造や高次構造の制御が材料特性に影響することが明らかとなりました。

本研究は、高分子材料の創出で用いられてきた成形加工プロセスを、超分子材料に適用することで新しい材料を開発できる可能性を示しています。分解性やリサイクル性に優れた次世代超分子材料の創出につながることが期待されます。

図1. 今回開発した結晶性の超分子材料

社会的インパクト

本研究は、高分子を用いることなく、低分子化合物のみからなる超分子材料においても、成形加工の条件を最適化することで高次構造や力学特性を制御できることを示したものです。準安定液晶状態を経由する成形加工プロセスの活用は、さまざまな超分子材料への展開が見込まれます。また、材料の再成形や再利用が可能であることから、持続可能な次世代材料の創出への貢献も期待されます。

付記

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR23L2)、ACT-X(JPMJAX23DM)、文部科学省科学研究費助成事業(JP23K17941、JP23K23402、JP24H01712)の支援を受けて実施しました。

用語説明

[用語1]
超分子材料:分子間の弱い相互作用に基づいて設計される材料で、対象とする物性や機能は多岐にわたる。リサイクル性の高さなどからサステイナブルな次世代材料として期待されている。有名な例として自己修復材料がある。これは、材料に生じた損傷が自発的に修復されるものであり、分子間相互作用の可逆性を利用して実現された材料である。
[用語2]
コレステロール:生体膜の必須構成物質であり、細胞内のさまざまなプロセスに関わる主要生体分子の1つ。液晶や医薬品などに広く利用されている。
コレステロールの構造式
[用語3]
カルバメート:カルバミン酸エステル(R1NH-CO-OR2)のことであり、ウレタンとも呼ばれる。
[用語4]
水素結合:水素原子を介した相互作用。電気陰性度の大きな原子に結合した水素原子と、近傍に位置する窒素原子や酸素原子などが引力的に相互作用する。Chol-C12の場合、下図のようにカルバメート部位を介して水素結合する(下図の⻘⾊の部分)。
水素結合の構造式
[用語5]
弾性率(ヤング率):材料を引っ張ると伸長する。このときの力を材料の断面積で割って得られる値を「応力」といい、もとの長さに対して伸長した長さの割合を「歪み」という。ヤング率は、応力を歪みで割った値として求められ、ヤング率が大きいほど材料が変形しにくいことを示す。

論文情報

掲載誌:
Nature Communications
タイトル:
Macroscopically anisotropic supramolecular materials prepared from an undercooled liquid-crystalline phase of a cholesterol-based low-molecular-weight compound
著者:
Chia-Hsin Cheng、渡邊雄一郎、梶谷孝、佐光貞樹、杉安和憲

関連リンク

お問い合わせ

東京科学大学 リサーチインフラ・マネジメント機構 コアファシリティセンター
上席技術専門員 梶谷 孝

京都大学 大学院工学研究科 化学理工学専攻
教授 杉安 和憲

取材申し込み

東京科学大学 総務企画部 広報課

京都大学 広報室 国際広報班

(JST事業に関するお問い合わせ先)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
金山晋司