データに潜む「複数の法則」を自動で発見する新手法を開発

2026年8月26日 公開

1つの答えに絞らない新しいシンボリック回帰手法「DRSR」

ポイント

  • 外れ値や複数の傾向を含むデータから、特徴の異なる数式を同時に発見する新手法「DRSR」を開発
  • 予測精度に加えて、データごとの誤差の現れ方(残差パターン)の違いを利用して数式候補を多様化
  • 人工データと天文学の実データを用いた数値実験により、複数の法則を捉える有効性を実証

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 情報理工学院 情報工学系の池田晃毅博士後期課程学生、野村将寛助教は、株式会社サイバーエージェントの濱野椋希氏と共同で、データに潜む複数の関係を、特徴の異なる数式として同時に発見する新たなシンボリック回帰手法[用語1]「DRSR」を開発しました。

データから人が理解できる数式を自動的に見いだすシンボリック回帰は、物理学や材料科学、生命科学など、結果の解釈性が求められる分野で注目されています。しかし、実際のデータには、測定誤差や外れ値、あるいは異なる現象に由来する複数の傾向が混在しています。従来手法の多くは、単一の評価基準で1つの代表的な数式を選ぶため、データに潜む別の有力な関係を見落とす可能性がありました。

本研究では、この問題を解決する新手法「DRSR(Diversified Residual Symbolic Regression)」を提案しました。DRSRは、予測性能の高い数式を探索するだけでなく、同時に、「どのデータをよく説明し、どのデータに大きな誤差が残るか」という残差[用語2]パターンの違いを利用して、複数の数式候補を探索・保持します。これにより、AIが1つの答えに絞り込むのではなく、研究者が専門知識や分析目的に基づいて候補を比較し、適切なモデルを選択できるようになります。

本成果は、2026年7月に開催された「GECCO 2026」で発表され、同会議論文集に掲載されました。

図1. DRSRにより観測データから複数の数式候補を提示する概念図。数式およびデータは説明のための模式例。

背景

シンボリック回帰は、観測データに含まれる関係を、人が理解できる数式として自動的に発見する技術です。得られた数式を既存の理論や専門知識と直接比較できるため、物理学、材料科学、生命科学、経済学など、結果の解釈が重要な分野で活用されています。

一方、実際のデータには、測定誤差などに由来する外れ値や、異なる仕組みから生成された複数の傾向が含まれることがあります。従来のシンボリック回帰では、データ全体の予測誤差を小さくする1つの数式を探索することが一般的ですが、少数の大きな誤差に影響され、本来の関係を十分に捉えられない場合があります。

外れ値の影響を抑える手法も提案されていますが、どの観測値を外れ値として扱うべきかの基準は必ずしも明確ではなく、分野の専門知識や分析目的によって判断が異なります。そのため、あらかじめ1つの判断に絞るのではなく、異なるデータの捉え方に対応した複数の数式候補を提示する仕組みが求められていました。

研究成果

本研究では、新たなシンボリック回帰手法「DRSR(Diversified Residual Symbolic Regression)」を提案しました。DRSRは、予測精度に加えて、「どのデータをよく説明し、どのデータに大きな誤差が残るか」という残差[用語2]パターンにも着目します。残差パターンが互いに異なる数式を優先して探索・保持することで、同程度の予測精度を持ちながら、データの捉え方が異なる複数の候補を提示します。

また、外れ値の影響を受けにくい評価方法を組み合わせることで、ノイズを含むデータや複数の法則が混在するデータからも、多様性と予測精度を両立した数式候補を発見できるようにしました。

人工データを用いた数値実験では、外れ値を含むデータに対して高い予測性能を示すことを確認しました。また、異なる法則が混在するデータから、それぞれの法則を表す数式を一度の探索で発見できました。さらに、天文学の実データを用いた数値実験では、既知の恒星の質量-光度関係と整合する複数の数式候補が得られ、実データへの適用可能性も確認しました。

社会的インパクト

近年、AIを活用した科学発見への期待が高まる中、研究者がその根拠を理解し、検証できるデータ解析技術の重要性が増しています。本研究で提案したDRSRは、1つの数式を「正解」として示すのではなく、データの異なる側面・特徴を捉えた候補を提示します。これにより、特に、外れ値を除外するか、どの法則を重視するかといった判断をAIに委ねることなく、専門家による多面的なデータ解釈や新たな仮説の創出を支援できます。物理学や材料科学、生命科学をはじめ、説明可能性が重視される幅広い分野への展開が期待されます。

今後の展開

今後は、各分野の専門家との共同研究を通じて、DRSRが実際の科学研究データから新たな知見につながる数式候補を提示できるかを検証します。また、候補ごとに「どのデータをよく説明しているか」を比較しやすくする可視化手法の開発にも取り組みます。

用語説明

[用語1]
シンボリック回帰:データに含まれる関係を、人が理解しやすい数式として自動的に見つける機械学習手法。
[用語2]
残差:数式やモデルによる予測値と、実際に観測された値との差。

論文情報

掲載誌:
GECCO '26: Proceedings of the Genetic and Evolutionary Computation Conference
タイトル:
Diversified Residual Symbolic Regression
著者:
Koki Ikeda, Masahiro Nomura, Ryoki Hamano

研究者プロフィール

野村 将寛 Masahiro Nomura

東京科学大学 情報理工学院 情報工学系 助教
研究分野:ブラックボックス最適化、進化計算

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助教 野村 将寛

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