東京科学大学と聖マリアンナ医科大学の共同研究チームは、東京科学大学 金兼弘和教授らが導入・確立した EBウイルス(EBV)感染細胞を1細胞単位で特定する新技術「EBER flow FISH 法」について、医療機関からの依頼に応じて解析を行える 全国的な受託解析体制を新たに整備し、2025年6月末より実運用を開始しました。
本体制により、従来の病理診断や分画PCR法では困難であった「どの免疫細胞が EBV に感染しているか」を迅速かつ高精度に判定できるようになり、希少難治性疾患である慢性活動性EBウイルス病(CAEBV)やEBV 関連疾患の診断精度向上に大きく寄与することが期待されます。
本実用化は、東京科学大学で開発された技術を基盤とし、聖マリアンナ医科大学との共同研究により検査実装へと橋渡しされた成果であり、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業および厚生労働科学研究費難治性疾患政策研究事業の支援を受けて実現しました。
今回の実用化のポイント
-
2025年6月末より、受託解析体制の実運用を開始
東京大学医科学研究所 IMSUT 臨床フローサイトメトリー・ラボにて、医療機関からの依頼検体の解析が可能に。 -
運用開始から3ヵ月で全国9施設からの検体を解析
体制が実臨床で安定稼働し、再現性の高いデータ提供を実現 -
企業(株式会社LSIメディエンス)との連携により、検査フローを確立
品質管理(QC)、試薬管理、レポーティングなど、検査として持続可能な運用基盤を整備。
概要
EBER flow FISH法は、東京科学大学 金兼弘和教授らの研究グループが本邦に導入・確立した新規技術で、フローサイトメトリーと RNA-FISH を組み合わせることで、EBVがコードする小型RNA(EBER)を発現している感染細胞を、免疫細胞表面マーカーと同時に検出できます(Int J Hematol. 2024;120(2):241–251)。この方法では、EBERを標的とする蛍光標識プローブ(PrimeFlow RNA Assay)を用い、細胞表面マーカーとの多重解析と同時に行うことで、感染細胞を1細胞単位で直接特定できる点が特徴です。
従来、感染細胞の同定には病理組織のin situ hybridization(EBER-FISH)や免疫染色科学染色法、あるいは末梢血細胞を磁気ビーズで分画してEBV DNA量を定量PCR(qPCR)で測定する方法が用いられてきました。しかし、これらの手法では感染細胞の種類(B細胞・T細胞・NK細胞など)を単一細胞レベルで直接区別することは困難であり、解析に時間と検体量を要するという課題がありました。
EBER flow FISH法では、1回の解析で複数の表面抗原(CD19、CD4、CD8、CD56など)とEBERシグナルを同時に検出できるため、感染細胞の種類と割合を迅速かつ定量的に把握できます。
さらに本法では、複数細胞への感染状態の解析や、感染した細胞の抽出も可能であり、従来不明だった病態の解明や治療効果の評価に新しい道を開きます。
背景
慢性活動性EBウイルス病(CAEBV)をはじめとする EBV 関連疾患では、どの免疫細胞(B細胞、T細胞、NK細胞)が EBV に感染しているかを特定することが診断に必須とされています。しかし、従来の in situ hybridization や分画PCR法では、標準化や再現性の面で課題があり、長年にわたり 一部研究機関に依存した限定的な実施体制 にとどまっていました。
こうした背景のもと、東京科学大学 金兼弘和教授らの研究グループによりEBER flow FISH法が本邦に導入・確立され、1細胞レベルで EBV 感染細胞を直接的に可視化できる新たな解析技術が開発されました。
本技術を全国の医療現場で利用可能な形とするため、AMED難治性疾患実用化研究事業および厚労科研研究班の枠組みの中で、検査の品質管理(QC)、ワークフロー標準化、全国医療機関との連携体制が整備され、研究成果を“社会実装”へと橋渡しする受託解析体制が確立したことが、今回の重要な成果です。その結果、2025年6月末から試行的運用が開始され、すでに全国の医療機関から検体依頼が寄せられるなど、本技術が臨床現場で活用可能な段階へと進んでいます。
成果のポイント
- 感染細胞の種類を1細胞レベルで直接同定できる世界的にも先進的な技術
- CAEBV・EBV-HLHなどの病型分類・病態理解が進展
- 治療前後の感染細胞動態を定量評価でき、治療効果判定に新たな指標を提供
- 感染細胞解析の一般化・検査体系化へ向けた基盤整備を実現
今後の展開
本技術の確立により、EBV感染細胞の動態を定量的に把握できるようになり、治療前後の変化を客観的に評価することが可能となりました。
今後は、全国の医療機関から集積される解析データをもとに、感染細胞ごとの病型分類・治療反応性の解析を通じて、CAEBVやEBV-HLHなどの診断基準・治療指針の精緻化を目指します。さらに、企業受託への橋渡しを経て、保険収載を見据えた臨床検査体制の確立に向けた取り組みを進めてまいります。
EBER flow-FISH法によるEBウイルス感染細胞の可視化と実用化
フローサイトメトリー(細胞解析装置)と蛍光プローブを組み合わせ、EBウイルスに感染した細胞を一つひとつ識別できる新しい解析法*
*Tomomasa D, et al. Int J Hematol 2024.
- 2025年6月末より試行的な解析が開始され、3ヵ月間で全国9施設の検体を解析
- T細胞・NK細胞・B細胞感染をそれぞれ特定
研究体制・助成情報
- 聖マリアンナ医科大学 医学部 血液・腫瘍内科学(安井 寛、新井 文子)
- 東京科学大学 小児地域成育医療学講座(寄附講座)(金兼 弘和)
本研究は、以下の支援を受けて実施されました。
- 日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業
- 「診療ガイドライン掲載のためのエビデンス創出を目指した慢性活動性EBウイルス病とその類縁疾患のレジストリ/バイオバンク強化・病態解析・治療法の開発」(25ek0109807JP)
-
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業
「慢性活動性EBウイルス病と類縁疾患のレジストリ・バイオバンク運用体制の拡充と診療連携基盤の確立」(24FC1001)
用語解説
EBウイルス(Epstein–Barr virus:EBV)
ヘルペスウイルス科に属するウイルスで、多くの人が子どものころに感染します。
通常は一過性の感染で症状は軽いかありませんが、まれにウイルスが免疫細胞(B細胞やT細胞、NK細胞)に持続感染し、さまざまな疾患を引き起こすことがあります。
EBVは世界人口の9割以上が感染しているとされますが、その多くは無症候性です。
B細胞・T細胞・NK細胞(免疫を担う主要なリンパ球)
B細胞:抗体をつくり、細菌やウイルスなどの外敵を排除する役割を担う細胞。
T細胞:感染した細胞を直接攻撃したり、免疫反応全体を調整する「司令塔」となる細胞。
NK細胞(ナチュラルキラー細胞):がん細胞や感染細胞を即座に攻撃する、自然免疫の要となる細胞。
EBウイルスは、これらのうち特にT細胞やNK細胞に感染すると、慢性活動性EBウイルス病(CAEBV)などの重い疾患を引き起こすことがあります。
EBウイルスが関係する主な疾患
慢性活動性EBウイルス病(CAEBV):T細胞またはNK細胞にEBウイルスが感染し、発熱や肝障害、血球減少などを慢性的に繰り返す希少難治性疾患。
EBウイルス関連血球貪食症候群(EBV-HLH):感染細胞による過剰な免疫反応で、発熱・肝脾腫・血球減少が急激に進行する重症疾患。EBウイルスが主にCD8陽性T細胞に感染しておこるとされています。
移植後リンパ増殖症(PTLD):臓器移植後の免疫抑制状態で、EBウイルスが主にB細胞に感染して腫瘍化する疾患。
フローサイトメトリー(Flow cytometry)
細胞を1つずつレーザー光に通し、細胞の大きさや内部構造、表面にあるタンパク質などを解析する技術。蛍光標識した抗体を用いることで、数万〜数百万個の細胞を短時間で測定できます。血液疾患やがん、免疫疾患の診断・研究などに広く利用されています。
EBER(Epstein–Barr virus encoded small RNA)
EBウイルスが感染した細胞の中で常に発現している短いRNA分子。感染細胞の指標として最も安定して検出できるため、EBV感染細胞の同定に広く利用されています。「EBER flow FISH法」は、このEBERを蛍光で検出しながら、同時に細胞表面マーカーを解析することで、感染している細胞の種類を特定できる新しい方法です。
論文情報
- 掲載誌:
- Int J Hematol.
- タイトル:
- Highly sensitive detection of Epstein-Barr virus-infected cells by EBER flow FISH.
- 著者:
- Tomomasa D, Tanita K, Hiruma Y, Hoshino A, Kudo K, Azumi S, Shiota M, Yamaoka M, Eguchi K, Ishimura M, Tanaka Y, Iwatsuki K, Okuno K, Hama A, Sakamoto KI, Taga T, Goto K, Ota H, Ichiki A, Kanda K, Miyamura T, Endo S, Ohnishi H, Sasahara Y, Arai A, Fornier B, Imadome KI, Morio T, Latour S, Kanegane H.
関連リンク
お問い合わせ
AMED事業・厚労科研事業および全国展開に関すること
聖マリアンナ医科大学 医学部 血液・腫瘍内科学
特任教授 安井 寛
聖マリアンナ医科大学 医学部 血液・腫瘍内科学
主任教授 新井 文子
取材申し込み
聖マリアンナ医科大学 総務課
- 住所
- 〒216-8511 神奈川県川崎市宮前区菅生2-16-1
- Tel
- 044-977-8111
- soumu@marianna-u.ac.jp
東京科学大学 総務企画部 広報課
- Tel
- 03-5734-2975
- Fax
- 03-5734-3661
- media@adm.isct.ac.jp