光で働くDNAのしずく

2026年6月26日 公開

DNA液滴が粒子を運び、折りたたみ、泳ぐ ― 光で駆動する液体状機械の実現

どんな研究?

光を当てると、小さなしずくがクラゲのように泳ぎ出し、ときには別の粒子まで運ぶ。そんな不思議な現象を、東京科学大学(Science Tokyo)の瀧ノ上正浩(たきのうえ・まさひろ)教授と鵜殿寛岳(うどの・ひろたけ)特任助教らの研究チームがDNAを使って実現しました。

DNAというと、遺伝情報を担う物質というイメージがあるかもしれません。しかしDNAは、設計の仕方によってさまざまな形や性質を持たせることができます。近年は、DNAが集まってしずくのような柔らかい塊をつくることが知られており、研究者たちの注目を集めています。このような塊は、近年生命科学で注目されている「相分離」という現象を調べるためのモデルとしても利用されています。相分離は、ドレッシングの油と水が自然に分かれるように、細胞の中でも特定の分子が集まって液体状のしずくをつくる現象です。相分離は、細胞がどのように働いているのかを理解する鍵になると考えられており、細胞の中にできたしずくの「かたい」、「柔らかい」といった状態と病気との関わりについても研究が進められています。

mad fathy/Shutterstock.com

これまで研究者たちは、DNAのしずくを温度や光によって変形させたり、状態を切り替えたりする研究を進めてきました。もしこうした変化を利用して周囲の液体に流れを生み出せれば、細胞ほどの小さな空間の中で物質を運んだり混ぜたりできるため、小さなポンプやモーターのように働かせることができると期待されていました。しかし実際に、DNAのしずくの状態変化を流れや物質輸送へ結び付けることはできていませんでした。

そこで研究チームは、光に反応する分子をDNAに組み込みました。そして、光を当てるだけでDNAのしずくの性質を切り替え、その変化を流れや運動へ変換することに成功しました。

ここが重要

この研究で特に重要なのは、DNAのしずくの状態変化を、実際の動きや仕事へと変換できることを初めて示した点です。

研究チームは、紫外線と可視光を切り替えることで、DNAのしずくが「広がる、集まる、再び集められる」「物を折りたたむ」といった複数の動きを引き起こせることを明らかにしました。さらに、光をしずくの一部に当てると、しずくが特定の方向へ移動し、まるで泳いでいるような動きを見せることも発見しました。また、その動きを利用して別の粒子を運ぶことにも成功しました。

これまでの研究では、DNAのしずくを変形させたり状態を変えたりすることはできても、その変化を利用して周囲の液体を動かし、物を運ぶことはできませんでした。今回の成果は、分子レベルの小さな変化をマイクロメートルサイズの流れや運動へと変換し、実際に物理的な働きを生み出した点で大きな特徴があります。

さらに研究チームは、光を切り替える速さによって運動の性質が変わることも明らかにしました。この発見は、光によって微小な流体や物質輸送を自在に制御する新しい方法につながると期待されています。

今後の展望

今回開発された技術は、光だけで小さな空間の中の液体や物質を動かせる点が特徴です。例えば、人工細胞の内部で必要な物質を運んだり、小型のソフトロボットを動かしたりする技術への応用が期待されます。また、微小な反応容器の中で液体を混ぜたり、薬剤を目的の場所へ届けたりする技術にもつながる可能性があります。

DNAの配列設計と光応答分子の組み合わせによってさまざまな機能を実現できるため、将来的には「プログラムできるマイクロ流体システム」として、医療やバイオテクノロジー、材料開発など幅広い分野への展開が期待されます。

研究者のひとこと

DNAは生命の設計図として知られていますが、実はプログラムできる生体分子としても大きな可能性を秘めています。今回の研究では、DNAの状態変化を利用して流れや運動を生み出せることを示しました。今後は、細胞(生細胞や人工細胞)やマイクロロボットの内外で働く小さな知的流体ロボットの実現を目指して研究を進めていきます。
(鵜殿寛岳:東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所 特任助教)

鵜殿寛岳特任助教

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