ポイント
- 紅麹コレステヘルプの有害ロットとプベルル酸による腎障害がRNAレベルで類似しており、その発症機序として、細胞死に先行するミトコンドリア障害が関与していることを解明した。
- マウスモデル、ヒト腎由来初代培養細胞、および3次元培養した尿細管オルガノイドを用いて、腎障害が再現されることを多角的に実証した。
- 本成果は、紅麹コレステヘルプ腎症の原因解明に重要な科学的根拠を与えるとともに、患者の予後評価や治療法開発に向けた今後の研究の基盤となることが期待される。
概要
東京科学大学(Science Tokyo) 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野の關口裕太大学院生、森雄太郎テニュアトラック助教らの研究チームは、マウス、ヒト腎由来初代培養細胞、ならびに同細胞を3次元培養した尿細管オルガノイドに、紅麹コレステヘルプ[用語1]の有害ロットおよびプベルル酸を投与し、解析を行いました。
その結果、プベルル酸と紅麹コレステヘルプの有害ロットで生じる腎障害が、RNAレベルで類似していること、ならびに、その腎障害の機序に細胞死に先行するミトコンドリア障害が関与していることを明らかにしました。さらに、ミトコンドリア障害の結果として、尿細管上皮細胞の壊死が起きていることが示唆されました。
本成果により、これまで機序が不明であったコレステヘルプ腎症について、その発症機序の主要な部分が解明されました。これにより、本成果が今後の研究の礎となるとともに、後遺症に苦しむ患者さんの予後や、治療に関する研究が、さらに進展する可能性が示されました。
本成果は、1月23日付(現地時間)の「Kidney International Reports」誌に掲載されました。
背景
2024年3月、小林製薬の紅麹を原料とするサプリメントによる健康被害が報告されました。回復した患者においても、多くが部分的な腎機能低下を残した状態であることが報告されています。
一方で、その原因物質についてはプベルル酸の可能性が高いとされているものの[参考文献1]、依然として不明な点が多く、発症機序についても十分には解明されていない状況が続いています。
研究成果
本研究グループはまず、紅麹コレステヘルプ有害ロット/プベルル酸腎症モデルマウスの作製を行いました。その結果、有害ロットを投与したマウスでは、コントロールマウスと比較して、血液検査において腎機能障害を認め、尿検査でアルブミン尿や尿糖が確認されました。また、病理切片では、ヒトと同様の尿細管障害が認められ、Masson trichrome染色およびPicro-Sirius Red染色により、腎臓に線維化が生じていることが確認されました。一方で、炎症細胞浸潤や糸球体障害は顕著ではありませんでした。プベルル酸についても腹腔内投与を行い、同様の所見が得られました。
これらのモデルに対してトランスクリプトーム解析を行ったところ、紅麹コレステヘルプの有害ロットおよびプベルル酸を投与したマウスの腎臓は、非常に近いRNA発現パターンを示すことが明らかとなりました。この結果は、プベルル酸が原因物質である可能性と矛盾しないものでした。
さらに、パスウェイ解析により、これらの処理が腎臓におけるミトコンドリア機能を著しく低下させることが示唆されました。
そこで次に、この現象がヒト腎由来初代培養細胞においても再現されるかを検討しました。その結果、プベルル酸は尿細管上皮細胞において細胞死を引き起こし(EC50=66.04μM、抗癌薬シスプラチンの約2倍)、その細胞死は主として壊死(ネクローシス)であることが分かりました。
さらに、細胞死が生じるよりも短時間の処理を行った細胞において、ミトコンドリア膜電位の低下、ATP量の減少、ROSの増加が認められました。また、バイオアナライザーによる測定ではミトコンドリアの最大呼吸能の低下が観察され、呼吸鎖障害によるミトコンドリア機能低下が生じていることが示唆されました。これらの結果から、ミトコンドリア障害が細胞死の一因であると考えられました。
社会的インパクト
本研究の成果により、これまで機序が明らかでなかったコレステヘルプ腎症について、その発症機序の主要な部分が解明されました。これにより、今後の研究の礎となるとともに、後遺症に苦しむ患者さんの予後や治療法の確立に向けた研究の進展が期待されます。
今後の展開
ミトコンドリアが豊富な他臓器における障害は、ヒトではこれまで報告されておらず、本腎障害が腎特異的に生じる理由については、物質の取り込み経路などを含めたさらなる検討が必要であると考えられます。
また、本研究で使用したヒト腎由来オルガノイドは、通常の培養細胞と比較して約10倍高い感度で毒性に対する応答を示しており、薬剤毒性試験における創薬プラットフォームとしての有用性が示されました。
研究グループでは、これらのオルガノイド技術を応用した創薬支援を事業とする大学発ベンチャーの設立も計画しています。
付記
本研究は、日本学術振興会 科研費(22K20881、24K03249)、文部科学省 卓越研究員事業、上原記念生命科学財団、武田科学振興財団、MSD生命科学財団、バイエル薬品研究助成、AMED腎疾患実用化研究事業「細胞老化と代謝を標的とした慢性腎臓病に対する包括的病態解明」(JP25ek0310028h0001)、AMED革新的先端研究開発支援事業「ストレスと臓器線維化をつなぐエネルギー恒常性機構破綻の病態解明と臨床応用」(JP24gm6910017h0001)、科学技術振興機構JST SPRING(JMPJSP2180)の支援を受けて実施されました。また、本成果の詳細な実験手法や解析データは、論文掲載時に補足資料として掲載されています。
参考文献
用語説明
- [用語1]
- 紅麹コレステヘルプ:小林製薬から発売されていたサプリメント。2024年3月に腎障害を生じた患者が多数報告され、発売中止となった。
論文情報
- 掲載誌:
- Kidney International Reports
- タイトル:
- The Pathophysiological Mechanism of Beni-koji Choleste-Help or Puberulic Acid–Induced Kidney Injury
- 著者:
- Yuta Sekiguchi, Makiko Mori, Haruka Maruyama, Yuki Nakao, Hiroaki Kikuchi, Shintaro Mandai, Fumiaki Ando, Koichiro Susa, Takayasu Mori, Yuma Waseda, Soichiro Yoshida, Yasuhisa Fujii, Wakana Shoda, Daiei Takahashi, Rei Okazaki, Kenji Ikeda, Tetsuya Yamada, Eisei Sohara, Shinichi Uchida, Yutaro Mori
研究者プロフィール
關口 裕太 Yuta SEKIGUCHI, MD
東京科学大学 医歯学総合研究科 大学院生
研究分野:腎臓内科学
森 雄太郎 Yutaro MORI, MD, PhD
東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野 テニュアトラック助教
研究分野:腎臓内科学、生体医工学、実験病理学
関連リンク
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東京科学大学 医歯学総合研究科 腎臓内科学分野
テニュアトラック助教 森 雄太郎
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