
(後列左から)山口 久美子ヘルスケア教育機構医歯学教育開発室 准教授、為 陽香さん(医学部医学科 4年)、遠藤 楓也さん(生命理工学院生命理工学系 学士課程3年)
「理工学と医歯学が融合する大学」を目指し、新たに設立したScience Tokyo。ここでは山口久美子准教授をファシリテーターに迎え、 本学の成り立ちや、現在学内で進行している新たな取り組みをテーマに、大竹尚登理事長と田中雄二郎学長が学生たちと座談会を実施しました。
Science Tokyoを設立した背景は?
山口 なぜ「理工学と医歯学が融合する大学」を設立することになったのでしょうか。その理由について、理事長と学長にお尋ねしたいと思います。
田中 まず、医学の世界というのは、競争が激しい割に、大きなインパクトを生み出しにくいという特徴がありますよね。近年の医療研究はその傾向が著しく、そのためどんどん狭い領域に入っていこうとしている印象がありました。その一方、例えば工学やデータサイエンスなどの分野に目を向けてみると、今までなかったような研究の切り口が新たに生まれてきている。ならば、そのような分野と一緒に研究を行うことで、何か新しい広がりが生まれるのではないかと思ったのです。
大竹 もうひとつは、コロナの問題ですよね。田中学長が旧東京医科歯科大学の学長になられた頃、世間はコロナの真っ最中でした。その際、新たな大学の必要性を実感されたということを以前に伺ったことがあります。
田中 当時、学内の教職員に向けてコロナ対応の呼びかけを行う機会があり、そこで「目の前の患者さんを治療することも重要だけれども、新たな病気やそれに必要な治療法なども同時に考えていってほしい」という話をしました。しかし、実際の病院の現場を見てみると、ものすごい数の患者さんが来院してきていてそれどころではなかった。そのとき、「もっと基礎体力をつけて、余裕のある大学にならないといけない」と感じたのです。そこで、「理工学系の大学なら、医学のフィールドを広げてくれるだけでなく、一緒になって大きなインパクトを生み出そうとしてくれるのではないか」と考え、四大学連合でつながりのあった旧東京工業大学に統合のお話を持って行くことにしました。
大竹 「理工学と医歯学が融合することで、お互いの大学の視野が広がる」というのは、本当にその通りだと感じました。実際、現在のScience Tokyoでは、語学の授業を受ける場合、その受講者の中には必ず理工学系と医歯学系の学生がそれぞれ入ることになります。このような環境であれば、お互いの専門分野の話を聞く機会が自然と増えていきますし、自分と違う専門性を持った友だちをつくる機会も生まれていきます。そういった学術的な広がりや、人としての広がりを生み出すことができるのは、非常に大きなメリットだと考えます。
専門性を深める学びは可能なのか?
山口 その一方、「理工学と医歯学が融合することで、かえって専門的な学びや研究ができなくなってしまうのではないか」と不安に思う受験生も少なくないのではないかと思います。その点は、いかがでしょうか。
大竹 私たちが重視しているのは、「学術分野の柔軟性」です。Science Tokyoでは、専門的な学びを深めることももちろん可能ですが、柔軟性を生かしてどこまで学びや研究を広げていくのか、あるいはどこまで限定するのかを、自分で決められるようにしています。そのような選択ができることは、大学のあり方や今後の科学の発展を考える上でも重要な部分になると思います。
田中 また、学生というのは、多様性を持つ存在です。しかも、自分自身でも気づいていないポテンシャルも秘めています。そのため、たくさんの刺激を受けて、その中で新しい自分のやるべきことを発見したとき、途中で別の道へ進もうと考えることは当然なことだと言えます。そういう意味でも、私たちが「そのときになりたいものになれる」というような学びや研究のシステムを用意するということは大切だと思っています。

山口 今のお話を伺って、学生のお二人はどのように感じられたでしょうか。
遠藤 理工学系にいる私の周りの学生たちは、比較的ひとつの分野に特化しようとしている人が多い印象があります。でも、田中学長のお話のように、彼らも今後途中で進む道を変更するということがあるかもしれません。そういうときに、大学から選択する場を提供してもらえるというのは、とても心強い気がしました。
為 医歯学系の場合は、大学に入学した時点から「医師になる」という最終的なゴールが決まっている学生が多いですよね。でも、将来の選択肢としては、他の分野の研究者になったり、企業に就職したり、本当はさまざまな可能性があるはずです。その点、最初からゴールを決めてしまうのは、もったいないと思う部分があります。とはいえ、医歯学以外に「本当にやりたいこと」をみつけたとしても、実際にその道に進もうとするのは勇気が必要です。そのようなことを考えると、多様性が保たれつつも、学生の可能性も最大限に伸ばすことができるシステムというのは、とても魅力的だと感じます。
両学系の交流は活性化できるのか?
山口 学生のお二人は、現在それぞれのキャンパスで学生生活を送っていますが、Science Tokyoになってから学内で何か変化を感じることはありますか?
遠藤 正直なことを言えば、「何かが変わった」という実感はありません。また、私は広報サポーターという学内の仕事をしているので、医歯学系の学生と話をする機会もあるのですが、彼らを見ていても両学系の交流はそこまで進んでいない感じがしています。
為 私も同じような感覚です。大学としては、今後どのような部分から変化を起こしていくのでしょうか。
山口 学生のお二人の「統合後、実感を伴う変化はない」というお話について、理事長と学長はどのようなことを考えられていますか。
田中 実は、統合を検討する中で、海外の大学における同じような事例をいくつか調べたことがありました。その中で特に興味深かったのが、「学生たちが交わる接点から、徐々に学内の変化が起きていく」と書かれたレポートでした。以来、「両学系の学生たちが自然と交流できるチャンスをつくることが、私たちの大きな仕事のひとつ」だと考えるようになりました。来年の新入生は入学式を合同で実施しますし、4〜5月は学系の垣根を越えて交流する「大岡山Day」というユニークなイベントも展開します。このような取り組みを通じて、今後はさまざまな場面で接点が生まれていくと思います。
大竹 また、私と田中学長、教職員のみなさんがフラットにコミュニケーションを行う「タウンホールミーティング」も実施しています。現在、その学生版の実施も検討していて、近い時期にぜひ実現したいと思います。

田中 ちなみに、遠藤さんは広報サポーターの活動を行っていますが、今後学生同士の接点を増やしていくためには、どのような仕掛けが必要だと考えていますか。
遠藤 学生同士が自然に交流できる状況をつくり出すということでしょうか。例えば、学生同士で一緒に何かに取り組めるようなイベントを企画して、その中にサークルや部活動なども巻き込んでいく。そうすれば、学生たちの中で「一緒に活動していこう」という気分が盛り上がっていくような気がします。
為 だとしたら、「理事長杯」「学長杯」のような大会やイベントなどができたら、面白そうですね。
山口 確かに、それはいいですね!スポーツもそうですが、その中に合同吹奏楽コンサートのような文化系のイベントなども混ぜられたら盛り上がると思います。
為 また、Science Tokyoの大きな特徴は、キャンパスに個性があるところ。そういう意味では、それぞれのキャンパスの魅力を知るツアーを企画できたら、学生の交流をさらに活性化できそうですね。
遠藤 理工学系の学生が病院内を見学する機会はほとんどありません。もしそのツアーが実現できれば、さまざまな学びを得る大きなきっかけになると思います。

(右)生命理工学院生命理工学系学士課程3年 遠藤 楓也さん
大竹 そういうところを入口にして、お互いの学系に友だちが増えていくのはとても良い流れだと思います。それこそ田中学長が最初にお話されていた「狭い領域の研究」とは違う、「もっと広がりのある研究」が展開できるようになるかもしれませんね。
田中 やはり、私たち教職員だけで企画を打ち出すよりも、学生からアイデアを出してもらった方が大学をより盛り上げられると思います。大学側でしっかりサポートしますので、これを機にぜひ周りの学生たちを募ってさまざまな企画を考えてみてください。
学びや研究の新たな試みとは?
山口 学内におけるコミュニケーションの施策はすでに始まっているとのことですが、その一方で学びや研究についてはどのようなことが行われているのでしょうか。
大竹 一番大きいのは、さきほどお話にも出ていた「病院を活用して、どうやって両学系の連携を深めていくか」という点ですね。現在検討している取り組みでは、両学系の学生だけでなく、例えば他の大学や海外からの学生や研究者も入ってくるようなイメージを描いています。これは遠からず実現すると考えていますので、ぜひご期待いただければと思います。
田中 その前段階として行っているのが、研究者たちの異文化融合研究を支援する「共同研究マッチングファンド」です。この取り組みはすでに実施されていて、現段階で50件近くもの革新的な研究が発表されています。
大竹 一方、2025年4月からは、医歯学と理工学が融合した大学院課程「人間医療科学技術コース」と、学士課程「医歯理工融合プログラム」もすでにスタートしています。また、近年新たな研究組織として「未来社会創成研究院」も設立しました。この研究院では、これからの「ありたい未来」を考え、その理想と現実の間にあるギャップの中に研究テーマを探していきます。多岐にわたるテーマを包括していくため、理工学、医歯学はもちろん、人文社会科学の視点などにもアプローチしていく必要があります。そのような観点では、非常に画期的な取り組みになっていくと考えています。
Science Tokyoが求める学生像とは?
山口 今日のお話を振り返って、学生のお二人はどのようなことを感じたのでしょうか。
遠藤 あらためて感じたのは、Science Tokyoが可能性に満ちている場所だということです。特に、統合を通じてさまざまな人たちが交流できるようになった今、その多様な価値観の中でしっかりと自分を洗練させて、成長していきたいと感じました。
大竹 私自身もScience Tokyoの一番の良いところは、その多様な価値観がある部分だと考えています。そのような環境の中で自分とは違う価値観の友だちをつくって、お互いの考え方を理解できるようになることは、人生においても重要な経験になると思います。
為 私は今回座談会に参加させていただいて、「Science Tokyoの先生は、本当にやさしい」という印象が強まりました。あと、大竹理事長も田中学長も、学生以上に柔軟な考えをお持ちだったのが印象的でした。
田中 そう思われたのは、きっと理事長も私も「学び続ける」ということを大事にしているからなのだと思います。お二人も、学生生活を通じて周りの学生たちの優れている部分からたくさんのことを学んで、積極的に自分に取り入れていってほしいと思います。
山口 最後に、受験生へメッセージをお願いします。
大竹 “Science Tokyo”という名前を持った大学なので、まず「科学が大好き」であることがとても重要だと思います。中でも「科学の力を生かして、未来を追求していきたい」という思いを持った人には、実りのある学びが広がっていると思います。また、これは在学生にも言えることですが、たくさんの本を読んでいることも大事だと思います。特に、歴史や哲学のような深い知性を養える読書をたくさん経験してほしい。私はそのような経験を積み重ねた結果こそが人生だと感じています。ぜひそのような観点を大切にしてほしいと思いますね。
田中 私は自分を高められたり、「何かを成し遂げたい」と考えたりする志の高い人に、ぜひ入ってきてほしいと思います。あとは、抽象的な言い方になりますが、善悪の判断基準を持っている人。仮に「研究を通じて、科学を追求していきたい」といっても、その力が悪い方向に使われてしまったら意味がないですよね。また、「世のため、人のため」と言っても、それが誤った方向に行ってしまったらとんでもないことになってしまう。特に、現在のような物事の価値観が揺れ動きやすい時代においては、そのような「善悪をいかに捉えるか」が物事を考える重要な指針になるのではないかと思うのです。
大竹 実際、現在の社会では、“Responsible Research& Innovation”が非常に強く求められるようになってきています。科学と向き合い、そこから新たな未来を切り開いていくためにも、そのような責任の意識を大事にしていかないといけませんね。
田中
そうですね。特に、このような善悪の価値判断は若い時代に培われていくものだと思いますので、ぜひ自分自身を磨き上げてもらえればと思います。

座談会の動画もご覧いただけます。
入学案内
東京科学大学(Science Tokyo)の概要を、高校生・受験生向けにまとめたパンフレットです。Science Tokyoでは何が学べて、どのようなキャンパスライフが送れるのか、教員や学生の声を織り交ぜながら紹介しています。

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