4月2日に挙行した2025年度東京科学大学入学式の田中雄二郎学長の式辞は、以下のとおり日本語と英語で行われました。

学士課程
新入生の皆さん、本日は東京科学大学へのご入学、誠におめでとうございます。また、これまで皆さんを支え、励まし続けてこられたご家族や関係者の皆様にも、心よりお祝いを申し上げます。ご祝辞を賜ります、株式会社TRAIL杢野純子様他、来賓の方々にもご列席頂きましたことに感謝申し上げます。
To all new students, congratulations on your admission to Institute of Science Tokyo. I also extend my heartfelt congratulations to your families and all who have supported you.
I will now deliver the President's address first in Japanese, and then in English.
本日、皆さんが東京科学大学の一員として新たな一歩を踏み出されるこの日を、私たち教職員一同、心からお祝い申し上げます。
さて、今年の入学式は、私たち東京科学大学にとっても特別な意味を持つ日です。
昨年10月、東京工業大学と東京医科歯科大学が統合し、新たに誕生したこの大学で、初めての春季新入生を迎える日だからです。同じ学年の学生が一堂に会するのも初めての機会です。皆さんは、東京科学大学の歴史の第一歩を共に歩む、記念すべき世代でもあるのす。
私たちの大学は、今までも世の中を変えるイノベーションを実現してきました。例えば、液晶TVの前のテレビに不可欠だったブランウン管を発明したのは皆さんの先輩です。また、後ほど詳しく述べますが、むし歯治療の銀歯に代わる白い歯を産みだしたのも皆さんの先輩です。
また、私たちは、社会の深刻な問題にも正面から向き合ってた歴史があります。
2011年3月、東日本大震災後の原発事故において命懸けで対応した先輩もいます。首都圏を放射線災害から救ったともいえます。
2020年4月、我が国は新型コロナウイルスによるパンデミックに見舞われました。当時の東京医科歯科大学の附属病院では、コロナ禍において医療の最前線に立ち、新型コロナウイルス感染重症および中等症患者の受け入れを最優先事項としました。全学的な支援体制を整えて対応し、最も多くの重症患者を受け入れ東京の医療崩壊を救ったと社会から高い評価と大きな応援を頂きました。
しかし、コロナ対応の中で、重症患者を受け持つ医療現場では体外式膜型人工肺即ちECMOなどの血流ラインに血のかたまりができてしまうという大きな課題に直面していました。
そこで、今後に備えこの問題を解決するために、東京工業大学と協力し、遠心ポンプの流れを工夫して血栓を防ぐ方法を研究し、一定の成果が得られています。
また、先ほど触れた歯科治療における接着材についてお話をします。東京医科歯科大学の前身である東京高等歯科医学校を卒業した増原英一先生が、歯学の発展には理工学の知識が不可欠だと考え、東京工業大学で学び直しました。その後、先生は歯科治療用の接着剤の開発に成功し、従来の銀歯に代わる白い詰め物を可能にしました。この技術は、むし歯の再発を防ぐとともに、見た目もきれいで、侵襲の少ないむし歯治療として新たな時代を切り開きました。この歴史は、異なる分野が交わることで新しい価値が生まれることを示した例の一つです。
以上は、医療現場からの課題の解決に理工学が大きく貢献した事例ですが、当然逆も重要です。例えば、本学の未来社会創生研究院では火星で人類が生活する研究を進めていますが、重力が地球の3分の1の状態で生じ得る健康課題の研究に整形外科医が参画するようになりました。
皆さんがこれから学ぶ東京科学大学は、理工学、医歯学、情報学、リベラルアーツ・人文社会科学といった多様な学問が交わる場です。本学では、単なる知識の習得にとどまらず、異なる分野の人々と対話し、協力しながら新しい価値を創造する力を養うことを目指しています。
その一歩が、理工学から医歯学まで様々な学問を志向する新入生の皆さんが自由に意見を交換することだと思っています。皆さんの今日の出会いがたった一回の機会とならないように、大岡山に集い学びあうカリキュラムを設けています。また、課外活動等でも友情を育み、ネットワークを築いてください。
そして、皆さん、私たちと一緒に本学のMissionである「『科学の進歩』と『人々の幸せ』とを探求し、社会とともに新たな価値を創造する」という挑戦にぜひ参加してください。
新しい環境に飛び込むことには、不安や戸惑いもあるかもしれません。しかし、東京科学大学は、皆さん一人ひとりの挑戦を全力で応援します。
多様な見識を持つ仲間たちと、新たな挑戦を始め、これからの充実した学生生活を、そして、素晴らしい人生を送られることを祈念して、私のお祝いの言葉といたします。
本日は誠におめでとうございます。
New students, my heartfelt congratulations to you all again.
I would like to express our heartfelt sorrow regarding the devastating earthquakes in Myanmar and Thailand. In addition, we pray for swift recovery and will explore ways our university can provide assistance.
Institute of Science Tokyo was established last October through the merger of Tokyo Institute of Technology and Tokyo Medical and Dental University. Today, we welcome the first generation of students to join this new university, marking the beginning of a historic journey.
When different fields intersect, innovation emerges. During the COVID-19 pandemic, for example, staff at Tokyo Medical and Dental University Hospital faced challenges concerning blood clots forming in oxygenation devices. To address this issue, TMDU researchers began collaborating with engineers from Tokyo Institute of Technology on ways to modify the pumps in these devices.
Similarly, our history shows how Dr. Eiichi Masuhara bridged dentistry and engineering scientists in the 1970s to develop revolutionary dental adhesives that transformed cavity treatments. Dr. Masuhara had degrees from both Tokyo Medical and Dental University and Tokyo Institute of Technology.
These two examples show how research in science and engineering fields can help solve issues in the medical and dental fields, but of course the reverse is also true. For example, orthopedic surgeons at our university are participating now in research into health issues that could arise when humans live on Mars.
At Science Tokyo, diverse fields such as engineering, medical sciences, information sciences, and liberal arts converge. Here, you will not only gain knowledge but also learn to collaborate across disciplines to create new value.
Don't fear failure; embrace free thinking. We are committed to supporting you to create new value and shape a brilliant future.
Congratulations again.
大学院課程
新入生の皆さん、本日は東京科学大学大学院へのご入学、誠におめでとうございます。また、これまで皆さんを支え、励まし続けてこられたご家族や関係者の皆様にも、心より感謝と敬意を表します。ご祝辞を賜ります、東京大学大学院教授水島昇先生他、来賓の方々にもご列席頂きましたことに御礼申し上げます。
To all new students, congratulations on your admission to Institute of Science Tokyo Graduate School. I also extend my gratitude to your families and all who have supported you on your way to us. I will now deliver the President's address first in Japanese, and then in English.
本日、皆さんが東京科学大学大学院の一員として新たなステージに進まれるこの日を、私たち教職員一同、心からお祝い申し上げます。皆さんがこれまで積み重ねてきた努力と成果が、この新たな道を切り開いたことに、私たち教職員一同、心から敬意を表します。
さて、東京科学大学は昨年10月、東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して誕生しました。この統合により私たちは、社会に新たな価値を提供する大学として歩みを始めました。そして、今、皆さんを含めた私たちはその挑戦の最前線に立っています。
私たちの大学は、今までも世の中を変えるイノベーションを実現してきました。例えば、液晶TVの前のテレビに不可欠だったブランウン管を発明したのも皆さんの先輩です。また、後ほど詳しく述べますが、むし歯治療の銀歯に代わる白い歯を産みだしたのも皆さんの先輩です。
そのような先進的なイノベーションを生んだ大学の統合により異なる分野が交わることで、新しい価値が生まれる—それが、東京科学大学の目指す未来です。
この未来を象徴する事例の一つが、新型コロナウイルス感染症への対応です。当時の東京医科歯科大学附属病院では、コロナ禍において医療の最前線に立ち、新型コロナウイルス感染の重症および中等症患者の受け入れを最優先事項としました。全学的な支援体制を整えて対応しました。その中で、医療現場では、体外式膜型人工肺、いわゆるECMOなど血液を体外循環させる機器に血のかたまりができてしまうという大きな課題に直面しました。
今後に備え、この問題を解決するために、東京工業大学と協力し、遠心ポンプの流れを工夫して血栓形成を防ぐ方法を研究しました。その結果、動物実験で効果が確認されるなど、具体的な成果が出ています。このように、医療の現場で直面した課題に対し、理工学の知見を活用して解決を図る「医工連携」の取り組みは、統合大学ならではの強みとして、今後も発揮していきたいと思っています。
また、東京科学大学のルーツをたどり、理工学と医歯学の連携が生み出したもう一つの成功事例を紹介します。それは、先ほどの歯科治療における接着材の確立です。東京医科歯科大学を卒業した増原英一先生が、歯学の発展には理工学の知識が不可欠だと考え、東京工業大学で学び直しました。その後、先生は歯科治療用の接着剤の開発に成功し、従来の銀歯に代わる白い詰め物を可能にしました。この技術は、むし歯の再発を防ぐとともに、見た目もきれいなむし歯治療として新たな時代を切り開きました。こうした歴史は、異なる分野が交わることで新しい価値が生まれることを示した例の一つです。
この二つは、医療現場からの課題の解決に理工学が大きく貢献した事例ですが、当然逆もありえます。例えば、本学の未来社会創生研究院では火星で人類が生活する研究を進めていますが、重力が地球の3分の1の状態で生じ得る健康課題に整形外科医が参画しています。
このように、これからの研究においては、分野を超えたコラボレーションがますます重要になります。皆さんは、「修士」や「博士」の学位取得を目指すにあたり、知的好奇心を原動力として研究に取り組まれると思います。そして「科学の進歩」を探求しつつ、「人々の幸せ」という観点で、もう一度自分の研究を見詰めてみてください。そして、その時に皆さんには、理工学の専門家、医歯学の専門家が同じ大学にいることに新たな可能性を感じることが出来る筈です。「幸せの青い鳥」は結局身近なところに居たというメーテルリンクの童話を皆さんは知っていると思いますが、まさにScience Tokyoではその通りなのです。
どうか失敗を恐れず、自由な発想で自分の可能性を広げてください。東京科学大学は、皆さん一人ひとりの挑戦を全力で応援します。
皆さんがこれからの大学院生活を通じて、仲間と共に新たな価値を創造し、素晴らしい未来を切り開いていかれることを祈念して、私のお祝いの言葉といたします。
本日は誠におめでとうございます。
New students, my heartfelt congratulations to you all again.
I would like to express our heartfelt sorrow regarding the devastating earthquakes in Myanmar and Thailand. In addition, we pray for swift recovery and will explore ways our university can provide assistance.
Institute of Science Tokyo was established last October through the merger of Tokyo Institute of Technology and Tokyo Medical and Dental University. These two universities both developed innovations that changed the world. For example. those who came before you at Tokyo Tech invented the cathode ray tube, which was essential for televisions before LCD TVs. Those who came before you at TMDU created white dental fillings that replaced silver fillings.
Through the integration of two universities that produced such advanced innovations, Institute of Science Tokyo aims for a future in which different fields intersect, and new value emerges.
This future is already taking shape. During the COVID-19 pandemic, for example, staff at TMDU Hospital faced challenges concerning blood clots forming in oxygenation devices. To address this issue, TMDU researchers began collaborating with engineering scientists from Tokyo Tech on ways to modify the pumps in these devices.
As you can see, research in science and engineering fields can help solve issues in the medical and dental fields, but of course the reverse is also true.
For example, orthopedic surgeons at our university are participating now in research into health issues that could arise when humans live on Mars.
As you pursue the advancement of science, I encourage you to drive your research with intellectual curiosity while considering how your work contributes to human wellbeing. At Science Tokyo, you have the unique opportunity to discover new possibilities at the intersection of engineering and medical sciences.
Don't fear failure; embrace free thinking. We are committed to supporting you to create new value and shape a brilliant future.
Congratulations again.
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