“凍りついた地球”は氷床下で生きていた

2026年3月4日 公開

氷床下の「水-岩石反応」が全球凍結期間に与える影響の解明

ポイント

  • 全球凍結期においてもケイ酸塩風化が続行することで、大気中の二酸化炭素の量の増加率が抑制され、全球凍結が長期化する可能性を示しました。
  • 氷床下環境を再現するモデルを用いた数値シミュレーションを実施しました。
  • 地球史上、最も顕著な気候変動である全球凍結イベントの理解に貢献する成果です。

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 未来社会創成研究院 地球生命研究所(ELSI)の門屋辰太郎特任助教とMohit Melwani Daswani(モヒット・メルワニ・ダスワニ)准教授らの研究チームは、地球史上最も過酷な気候変動である全球凍結[用語1]イベントにおいて、これまで停止していると考えられていたケイ酸塩風化[用語2]が継続し、気候の回復(全球凍結からの脱出)を遅らせる重要な役割を果たしていた可能性があることを明らかにしました。

従来の仮説では、全球凍結中には大陸上に液体の水が存在しないため、水と岩石の化学反応(大陸風化、特にケイ酸塩風化)が停止すると考えられていました。こうした化学反応は大気中のCO2を消費する重要なプロセスであり、その停止は大気中のCO2濃度の増加、大気の温室効果の強化、さらには全球を覆う氷床の融解に寄与したと考えられています。しかし、本研究の結果から、全球凍結期においても水-岩石反応が継続しうることが明らかになりました。さらに、現代の南極に相当する条件下では大気中のCO2の増加が抑制されることが明らかになりました。

このように、本研究の結果は、従来の仮説を更新するものであり、また多様な全球凍結状態の理解に貢献します。約46億年の地球史で少なくとも3回は起こったとされる全球凍結イベントのうち、特に2度目と3度目は原生代後期の短い期間に立て続けに起こったとされますが、その継続期間は約10倍も異なると考えられています。本研究の成果は、こうした継続期間の差に説明を与えることが期待されます。また、氷床下の水-岩石化学反応は生物活動に必要な元素の供給にもつながることから、氷床下という極限環境における生物の存在の可能性の理解にもつながることが期待されます。

本成果は、1月22日付(米国東部時間)の「Earth and Planetary Science Letters」誌に掲載されました。

図1. 本研究で用いたモデルの模式図

背景

地球は過去に少なくとも3回、表面が完全に氷で覆われる「全球凍結」を経験したと考えられています(例:参考文献1)。従来の定説では、陸地が氷に覆われると液体の水が存在しないため、二酸化炭素(CO2)を吸収する「ケイ酸塩風化(岩石と水の化学反応)」が完全に止まってしまうとされてきました。その結果、火山活動から放出されるCO2が数千万年かけて大気に蓄積し、その強力な温室効果によって気温が上がり、氷が溶け、凍結が終わると説明されてきました。しかし、近年の地質学的調査により、凍結中にも風化が起きていた証拠が見つかり始めました(参考文献2)

もし凍結中に風化が起きていれば、大気中のCO2が吸収されてしまうため、凍結からの脱出は大幅に遅れることが予想されます。一方で、こうした全球凍結中の大陸風化を制御する要因やCO2の蓄積、全球凍結期間に与える影響については分かっていませんでした。

研究成果

本研究では、PHREEQCと呼ばれる化学反応計算モデルを用いて、氷床下における「水と岩石の化学反応プロセス」を再現する数値シミュレーションを行いました。厚い氷床の下部では、地熱による加熱と氷床の断熱効果によって、氷が融解します。また、氷床・氷河の流動に伴い、摩擦によって基盤岩が削剥されることで、新鮮な岩石が供給されます。本研究は、融解水や砕かれたばかりの新鮮な岩石がある期間の間にどのくらい供給されたかを示す供給率は、水-岩石間の化学反応の進行に強く影響を与えることを明らかにしました。

岩石の供給率を左右する表彰の流動や、融解水の供給率は、大気を介した水循環によって決まると考えられます。このため、全球凍結においても炭素循環[用語3]と気候の間に相互作用が機能していることが示唆されます。

全球凍結期の地球に最も近い環境である、現代の南極の条件が全球凍結期の大陸全域に適用できると仮定すると、火山活動によるCO2供給量に相当する量が氷床下の水-岩石反応によって消費されることが明らかになりました。これは、従来の仮説では無視されてきたケイ酸塩風化によるCO2の消費が全球凍結中も機能し、大気中CO2の蓄積とそれに伴う温室効果の強化、ひいては全球凍結からの脱出を遅らせる可能性があることを示唆します。

今後の展開

本研究により、全球凍結におけるケイ酸塩風化の効率が水や岩石の供給率によって左右されることが明らかになりました。しかし、水や岩石の供給率が全球凍結中にどのような値をとっていたか、またその結果、全球凍結におけるケイ酸塩風化がCO2の蓄積に対して実際に影響を与えていたのかどうかは明らかではありません。今後は、本研究で開発した化学反応モデルを気候モデルと結合することで、これらの問いに答えていきます。そして今後の研究を通じて、少なくとも3度あった全球凍結状態が一様でないことが明らかになると期待されます。特に2度目と3度目の全球凍結イベントは原生代後期の短い期間に立て続けに起こったとされていますが、その継続期間は約10倍も異なると考えられています。本研究の成果は、こうした継続期間の差を説明するのに貢献します。

また、水-岩石反応は、生物が存在するために必要な栄養を供給する重要なプロセスの一つです。本研究で開発したモデルを拡張することで、地球や氷天体、全球凍結惑星など、太陽系内外に想定される氷床下という極限環境での生物の存在の可能性を明らかにしていくことを計画しています。

付記

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(23K13199、23K17709、23H00144)、NASA(ROSES grant NNH18ZDA001N-HW:Habitable Worlds)、およびWPIによって設立された地球生命研究所の支援によって行われました。

参考文献

[参考文献1]
J. L. Kirschvink, Late proterozoic low-latitude global glaciation: the snowball earth, in The Proterozoic Biosphere: A Multidisciplinary Study, Cambridge University Press (1992), pp. 51-52,
[参考文献2]
A. V. S. Hood, et al., Neoproterozoic Syn-glacial carbonate precipitation and implications for a snowball earth, Geobiology, 20 (2) (2022), pp. 175-193.

用語説明

[用語1]
全球凍結(スノーボールアース):地球全体が赤道域まで氷床に覆われる現象。
[用語2]
ケイ酸塩風化:岩石(ケイ酸塩)が水やCO2と反応して溶け出すプロセス。大気中の温室効果ガスの1つであるCO2を消費するため、“天然の冷却装置”としての役割を持つ。
[用語3]
炭素循環:炭素がその形態を変えながら、地球上を移動していくプロセス。表層環境(大気と海洋)に注目すると、火山活動を通じてCO2として供給される一方、ケイ酸塩風化とそれに伴う炭酸塩(例:CaCO3)の沈殿によって除去される。炭素循環と気候の相互作用によって、大気中のCO2量は長期的に制御され、地球は温暖な環境を維持してきたと考えられる。

論文情報

掲載誌:
Earth and Planetary Science Letters
タイトル:
Continued continental weathering during snowball earth mitigated greenhouse gas buildup and prolonged global glaciation
著者:
Shintaro Kadoya, Mohit Melwani Daswani

研究者プロフィール

門屋 辰太郎 Shintaro Kadoya

東京科学大学 未来社会創成研究院 地球生命研究所 特任助教
研究分野:地球システム科学

メルワニ-ダスワニ モヒ Mohit Melwani Daswani

東京科学大学 未来社会創成研究院 地球生命研究所 准教授
研究分野:地球化学、水-岩石相互作用、惑星科学

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特任助教 門屋 辰太郎

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