どんな研究?
工場や倉庫、家の中には、温度や人の動き、機械の状態を見張る小さなセンサーが増えてきました。こうしたネットにつながる小型機器のことをIoT(アイオーティー)と呼びます。IoTは便利ですが、数が増えるほど困るのが電源の問題です。電池を何十個も交換したり、コードを引き回したりする手間が一気に大きくなるからです。そこで注目されたのが、電線なしで電気を送る「ワイヤレス(無線)給電」です。
電波やマイクロ波で電気を送る技術は、ICカードのような身近な例も含め、以前から研究されてきました。しかし、十分な電力を送ろうとすると大型のアンテナが必要になり、エネルギーの多くが途中で失われてしまいます。そこで、光を使って電気を送る「光無線給電」が注目されています。特にレーザー光は遠くまで届きますが、人の目や肌への安全性が課題のため、新しい安全技術の開発が必要といわれています。
安全性という観点で見ると、私たちの身近にあるLED照明は人がいる空間でも安心して使えます。実際の給電には、人の目に見えない近赤外線などの光を利用するため、まぶしさや安全面の心配も抑えられます。しかし、LEDは光が広がりやすく、少し離れるだけでエネルギーが弱くなるという弱点がありました。東京科学大学(Science Tokyo)の宮本智之(みやもと・ともゆき)教授らは、「安全なLEDの光で、遠くまで効率よく電気を届けられないだろうか」と考え、この課題に挑みました。
ここが重要
この研究の最大のポイントは、「光をかしこく操る」ことです。宮本教授らは、形を変えられる液体レンズを使い、相手までの距離に応じて光の広がりを自動調整する仕組みを開発しました。その結果、部屋の端から端ほどの距離にあたる最大5メートル先まで、ムダなく光を集中して給電できるようになりました。
さらに、明るい昼間でも、真っ暗な環境でも、受光器の位置を見失わない工夫も加えました。RGBカメラ(スマートフォンなどに使われている、赤・緑・青の3色で画像を記録する一般的なカメラ)と赤外線カメラを組み合わせ、状況に応じて瞬時に切り替えることで、暗闇でも受光器の位置を見失わず、そこに光を正確に当て続けて給電できます。このように、光がどこに当たっているかを高精度で見抜く画像処理技術により、給電のズレや中断を防げる点も、これまでにない成果です。
今後の展望
この技術が実用化されれば、小型機器の電池交換や配線の負担のないIoT社会の実現に向けて一歩前進します。人が暮らす室内や、動物がいる農場でも安全に使え、夜間や照明のない場所でも安定した電力供給が可能です。
将来は、天井のLED照明が「明かり」と「電源」を同時に担う、まったく新しいインフラへと進化するかもしれません。
研究者のひとこと
光は、私たちの生活に欠かせない、とても身近な存在です。その光をエネルギーとして活かし、社会を支える新しい仕組みを実現できます。身近な光が、配線のない未来の電源になる瞬間を楽しみにしてほしいですね。
(宮本智之:東京科学大学 総合研究院 教授)
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