まばたきで分かる学習満足度

2026年5月21日 公開

AIによる表情解析で非言語情報の有用性を実証

ポイント

  • オンライン講義において、学習者のまばたき(AU45)と講義満足度との有意な相関を確認
  • AIによる表情解析(OpenFace2.0)を用いて、顔の微細な動きを定量化し、非言語情報と学習者エンゲージメントとの関連を検証
  • まばたきという単純な非言語情報が、学習者の状態把握や学習支援に活用可能であることを示唆

概要

東京科学大学(Science Tokyo) 大学院医歯学総合研究科 臨床医学教育開発学分野の宮真里大学院生、赤石雄講師、山脇正永教授らの研究チームは、臨床医学のオンラインレクチャーにおいて、学習者のまばたきの頻度と学習満足度に相関関係があることを発見しました。

本研究では、AI技術を活用し、オンライン講義中の学習者の表情を分析・定量化しました。その結果、自発性・反射性・随意性の3種類のまばたきのうち、自発性まばたきが増加すると学習満足度が有意に上昇する傾向にあることを認めました。非言語情報[用語1]と学習者のエンゲージメント[用語2]との相関を示す画期的な内容であり、AI技術の進歩に伴い、さらなる発展が期待される研究領域です。

本成果は4月15日付の「BMC medical education」誌に掲載されました。

図1 OpenFaceによる画像解析

背景

医学生が学ぶ必要のある知識は指数関数的な増大を示しており、教育方法や質の向上を模索していくことは、教育の世界において恒久的なテーマとなっています。そのような状況の下で、表情やしぐさなどの非言語情報が注目を集めています。これは、従来、非言語情報の定量化を行う際には手作業に頼っていたものが、AI技術の活用により情報処理の自動化と高精度化が進んだことも一因です。

講師は、講義中の学習者の表情などから講義に対する理解度を推測しており[参考文献1]、学習者もまた講師の表情を含む非言語情報に反応を示していることが報告されています[参考文献2]。このように、非言語情報は、学者者の心理状態やエンゲージメントを把握するための貴重な情報源となる可能性がありますが、具体的にどの非言語情報に注目すべきかは、いまだ明確には解明されていません。

そこで本研究では、表情の個別のパーツに着目し、それらの微細な動きとレクチャー満足度との関連について検証を行いました。

研究成果

1978年にエクマンらはFacial Action Coding System[用語3]を開発し、顔の動きをAction Unit(AU)と呼ばれる単位に分類することで、表情分析の基礎を築きました[参考文献3]。本研究では、AUを定量化できるOpenFACE2.0というソフトを用いて、オンラインレクチャー中の学習者の表情を分析・定量化しました。

同期型のオンラインレクチャーにおいて、講義全体の満足度とまばたき(AU45)の計測時間との間に有意な相関関係を認めました(単回帰分析 coefficient 0.33, 95% confidence interval [CI]: 0.12–0.55, p = 0.003; 重回帰分析 coefficient 0.25, 95% CI: 0.022–0.48, p = 0.033)。また、講義満足度の下位尺度である「伝達」に関する満足度とAU45の計測時間との間にも有意な相関関係を認めました(単回帰分析 coefficient 0.51, 95% CI: 0.21–0.81, p = 0.002; 重回帰分析 coefficient 0.41, 95% CI: 0.088–0.74, p = 0.015)。一方で、まばたき以外の顔の部位の動きについては、満足度との有意な相関は認められませんでした。

学習者のまばたきは、簡便かつリアルタイムに観察可能であり、講師側が学習者のエンゲージメントを推測する手段としての汎用性は高いと考えられます。

社会的インパクト

集中や知識統合の場面においては、自発性まばたきが増減することも知られており、学習環境におけるまばたきの観察の活用は、学習者のエンゲージメントに配慮した学習支援に寄与する可能性を秘めています。

今後の展開

今後は、まばたきをはじめとした非言語情報と、医学教育の他の場面における学習者の反応との関係を検証し、非言語情報の有用性についてさらに検討していきます。最終的には、これらの知見が各教育現場で活用されるよう、情報発信を続けていきます。

付記

本研究は、科学研究費助成事業「AIエンジンを使用した学習者表情分析による講義満足度の検証」(JP21K17226)と厚生労働科学研究費補助金「ICTを基盤とした卒前卒後のシームレスな医師の臨床教育評価システム構築のための研究」(24AC1002)による助成を受けました。

また、本学総合研究院M&Dデータ科学センター安齋達彦准教授および筑波大学システム情報系鈴木健嗣教授と共同で実施されました。

参考文献

[参考文献1]
Sathik M, Jonathan SG: Effect of facial expressions on student’s comprehension recognition in virtual educational environments. Springerplus 2013, 2B(1):455.
[参考文献2]
Ghafar ZN, Ali HM: Nonverbal communication in the classroom and its role in the teaching and learning from educational process. J Soc Sci (JoSS) 2023, 2(8):712-719.
[参考文献3]
Ekman P, Friesen WV: Facial action coding system. Environmental Psychology & Nonverbal Behavior. APA PsycTests, 1978.

用語説明

[用語1]
非言語情報:表情や視線、しぐさなど、言葉以外の手段によって伝えられる情報。
[用語2]
エンゲージメント:学習活動に対する学習者の関与を意味し、行動・感情・認知などの側面から構成される。
[用語3]
Facial Action Coding System:ポール・エクマンとウォーレス・フリーゼンによって1978年に開発された、顔の動きを解剖学的に筋肉単位で記述・分類するシステムであり、Action Unit(AU)と呼ばれる動きの最小単位を定義している。

論文情報

掲載誌:
BMC medical education
タイトル:
Artificial intelligence analysis of facial movements and satisfaction in online medical lectures: a cross-sectional study
著者:
Miya M, Akaishi Y, Anzai T, Suzuki K, Yamawaki M.

研究者プロフィール

宮 真里 Mari Miya

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 臨床医学教育開発学分野 大学院生
研究分野:医学教育学

宮 真里

赤石 雄 Yu Akaishi

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 臨床医学教育開発学分野 講師
研究分野:医学教育学、内科学

赤石 雄

山脇 正永 Masanaga Yamawaki

東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 臨床医学教育開発学分野 教授
研究分野:医学教育学、神経科学、内科学

山脇 正永

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