“未来創造”のアプローチから導き出したビジョン駆動型の研究・教育体制
大竹
Science Tokyo(東京科学大学)は2024年の誕生以来、「『科学の進歩』と『人々の幸せ』とを探求し、社会とともに新たな価値を創造する」を大学のMissionとして掲げてきました。そして、先進的なビジョン駆動型・分野横断型の研究体制「Visionary Initiatives(VI:ビジョナリーイニシアティブ)」の推進による、研究・教育システムの抜本的な変革に取り組んでいます。
この取り組みの基盤になっているのが、「こうすべき」ではなく、より主体的な「こうありたい」という発想から北極星を描き、そこを目指していく“未来創造”のアプローチです。
AIやビッグデータを活用した社会課題解決や経済成長が期待されるSociety 5.0時代において、社会が希求するものは変わってきました。また、明日がどうなるかわからない時代にあって、もはや線形の未来を描くことは非常に難しくなりました。だからこそまずはビジョンを描き、その実現に必要な科学、技術、医療、教育、社会制度を、分野を超えて設計・実装していく、ビジョン駆動型の体制が必要だと考えたのです。
田中
東京医科歯科大学と東京工業大学の統合によって医工連携の基盤が整いましたが、VIでは、より多様な研究分野と研究ステージを包括した体制を構築します。現在VIには、「健康」「宇宙」「環境・エネルギー」など8つのテーマがあり、そのいずれかに、ほぼ100%の常勤教員が参画しています。理工学系、医歯学系はもちろんリベラルアーツまで、旧来の研究や学術分野の垣根を越えて各テーマが掲げるビジョンに共鳴する人たちが集い、それぞれがさまざまなステークホルダーと共に、ビジョン実現に必要な設計や社会実装を目指しています。
なお学部教育においては当面、従来の学問領域ごとの体系を維持しますが、2028年度からは分野横断の大学院コースを開始予定です。研究だけでなく教育面においても、VIに基づいた変革を進めていきます。
大竹 全教員がVIに参画することは、それぞれのビジョンを「自分事化する」という意味でも大きな前進です。VIを通して、点と点の多様性ではなく、自ら動かし生み出していく動的な多様性によって、異なる知が混ざり合う強みを活かせるはずです。そうして、社会に大きく開かれたエコシステムを構築し、社会課題解決の先にある “善き未来” の実現のために尽力していきます。
田中
まさに壮大なチャレンジが進行中ですが、現場では教員の皆さんの非常に高い熱量を感じています。ビジョン実現に向けた取り組みと、その社会的インパクトの評価方法、また、従来の専門分野における研究評価との適切なバランスなど、本学としてこれから取り組むべき課題もありますが、いずれにしても、ここまで本格的なビジョン駆動型の研究・教育システムを、全学で構築した例は世界に類を見ません。
これからVIは社会や企業、地域、また国内外の研究機関との連携をさらに深めていきますが、複数の企業や世界のトップ大学からはすでに高い関心と評価を得ています。
また、たとえば四大学未来共創連合の一員であるお茶の水女子大学の生活科学関連の研究者と連携し、VI に生活の視点も入れていくことで、新しい展開が生まれる可能性もあると考えています。ほかにも、農業研究や政策研究など、現段階で本学だけでは補えない分野を各種専門機関と連携しながら補完していくという取り組みも進行中です。
国内2例目の「国際卓越研究大学」として世界に冠たる研究環境の構築を目指す
大竹 2026年1月、Science Tokyoは、東北大学に続き日本で2例目となる「国際卓越研究大学」に認定されました。国際卓越研究大学制度とは、国際的に卓越した研究成果を創出できる研究力や、その実効性の高さなどが見込まれる大学を国が選定し、長期にわたり支援する制度です。目指すのは、25年先を見据えた長期変革を通じた、Science Tokyoが掲げるMissionの実現です。
田中 企業や民間団体などから大学が獲得した外部資金額に応じて助成額が算定されるマッチングファンド方式をとるため、今後は外部資金獲得の重要性がさらに増しますが、今回の認定をきっかけに「Science Tokyo」の名が一層広く知られることになりました。すでに企業や金融機関などからの関心が急速に高まってきており、さまざまな学内外の関係者からも積極的な反応と期待の声が寄せられています。世界に類を見ない、まったく新しい大学モデルの実現という本学の挑戦に対して、社会の期待や評価を強く実感しているところです。
大竹 まずは最初の6年間で全学をVIによるビジョン駆動型の組織へ転換させ、続く9年間で世界と共創する包括的なエコシステム構築を推進。そして次なる10年間で財務自律性と世界最高水準の研究・教育を実現させます。これからの25年間にわたる挑戦に期待いただけたらと思います。
多彩な国際連携を通じて世界的な産学連携ネットワークの構築を先導
大竹
我々は海外の一流大学とのパートナーシップを通じて、グローバルな研究教育ネットワークの構築も進めています。2025年にはドイツのアーヘン工科大学と、2026年にはイギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンと戦略的パートナーシップ協定を締結しました。いずれの大学も本学とは以前から縁のある大学で、VIに対しても強い共感を示してくれています。またマサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学などボストンのエコシステムとの国際連携の強化も進めており、スタートアップの輩出を含めた、複線的なアプローチをしていきます。
これまでなかなか接点が持てなかった海外のスタートアップとも、本学がリードする国際的な産学連携ネットワークの実現により、より連携しやすくなるでしょう。これから、日本、そして世界で、我々の取り組みに共鳴してくれるパートナーと力を合わせ、産学官連携ネットワークの相互活用なども視野に入れながら、さまざまな課題解決に臨んでいきたいと考えます。
先の見えにくい時代において、ビジョンを通じた世界的なアカデミアネットワークを構築し、研究や人材育成を展開することは、国の未来、また世界の未来にとってもプラスになるはずです。“善き未来” の実現に向け、国際的なエコシステムを牽引する役割を本学が果たせれば何よりです。
田中
AIやロボティクスの時代になり、人間が果たせる役割とは何かを見直す時期に入ってきました。大学教育の果たすべき役割も、AIだけでは出せない答えを導き出すための思考を鍛える場として捉え直す必要があると考えます。先端的な理工学や生命科学、医歯学などの専門性を持つ本学は、これからの時代にこそ必要な、新たな大学教育モデルをつくるにふさわしい環境にあります。
改めて私たちは国際卓越研究大学として、社会と密につながりながら、社会とともに大きく発展していく所存です。ぜひ、共に “善き未来” をつくっていきましょう。
大竹 尚登
東京科学大学 理事長
1992年東京工業大学 博士(工学)取得。2010年同大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻教授に就任。2022年同大学科学技術創成研究院長に就任。2024年10月より現職。専門は機械材料学、機能性薄膜。
田中 雄二郎
東京科学大学 学長
1985年東京医科歯科大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)取得。2001年同大学医学部附属病院総合診療部教授に就任。2020年同大学長に就任。2024年10月より現職。専門は消化器内科学、医学教育学。
