腸を守る立役者:不要な免疫反応を未然に防ぐT細胞があった!

2025年12月16日 公開

寛容を促すダブルネガティブT細胞が、不要な炎症を防ぐ

どんな研究?

私たちの腸は、食べ物や無数の細菌を受け入れながら、病原菌などの本当の敵を見分けて排除する、免疫の最前線です。腸は、体の中にありながら、「外の世界」と多く接する場所でもあります。そこで大切なのは、何を排除し、何を受け入れるのかを判断することです。腸にはそのバランスを保つための高度な仕組みがあります。

その仕組みを動かしている主役のひとつが「T細胞」と呼ばれる免疫細胞です。T細胞は、体に侵入したウイルスや細菌を見つけて攻撃したり、他の免疫細胞に指令を出したりする役割を担っています。

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東京科学大学(Science Tokyo)の根本泰宏(ねもと・やすひろ)准教授らの研究チームが注目したのは、そのT細胞の中でも特に珍しいタイプである「ダブルネガティブT細胞(DNT細胞)」です。その他多くのT細胞は「CD4」や「CD8」という分子を持ち、それらが敵を正確に見つけるためのアンテナとして働きます。ところが、DNT細胞はどちらの分子も持たない変わり者です。それなのに、腸には非常に多く存在しているのです。

これまでの研究では、腸の免疫バランスを整える役割は「制御性T細胞」が担っており、抗原に反応する免疫細胞の暴走を抑えることが知られていました。しかし、DNT細胞がどんな働きをしているのか、なぜ腸にたくさん存在するのかは、長い間わかっていませんでした。

ここが重要

今回の研究では、DNT細胞が「抗原提示細胞」として働くことが初めて明らかになりました。抗原提示細胞とは、体に入った異物(抗原)が敵か味方かを他の免疫細胞に対して教える、いわば免疫の情報伝達役です。

DNT細胞は腸の中で異物を取り込みリンパ節へ運んで、他のT細胞にこの異物情報を伝えていることがマウスを使った実験でわかりました。DNT細胞は免疫反応を促す分子を分泌せず、異物に関する情報、特に攻撃しなくても良い異物の情報を他のT細胞に教えていました。制御性T細胞とは全く異なるやり方で不要な免疫反応を抑えていたのです。

制御性T細胞は、異物への攻撃が始まってから行き過ぎた攻撃をしないようブレーキ役として活動するのですが、DNT細胞は、そもそも不必要な攻撃をしないように事前の調整を行っていたのです。その結果、腸では不要な炎症が起きにくくなります。だからこそDNT細胞は、もっとも多くの異物が入り込んでくる腸に居る必要があったのです。DNT細胞は、免疫の最前線で平和を守る静かな立役者と言えます。

今後の展望

この成果は、腸の免疫がどのようにして、ほどよい反応を保っているのかを理解する上で大きな一歩です。DNT細胞が炎症を抑える仕組みを詳しく解明することで、炎症性腸疾患などの原因解明や、新しい治療法の開発につながる可能性があります。将来的には、自分の免疫を調整する細胞を活用した予防医学や治療戦略の構築も期待されています。

研究者のひとこと

腸の免疫は、「敵を倒す力」と「受け入れる力」の両立が大切です。DNT細胞は、そのバランスを保つための見えない調整役でした。今後はこの細胞の理解を通じて、炎症性疾患の根本的な仕組みに迫りたいと思います。
(根本泰宏:東京科学大学 医歯学総合研究科 消化器病態学 准教授)

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