CO₂が少ないと、微生物はプラスチックをよくつくる?

2026年9月4日 公開

限られたCO₂を使いこなす細菌の力を生かし、生分解性プラスチックの生産を促進

どんな研究?

プラスチックごみによる環境汚染が問題となるなか、微生物がつくり、自然界で分解される生分解性プラスチックが注目されています。さらに、その原料に二酸化炭素(CO₂)を利用できれば、石油資源の使用やCO₂排出の削減にもつながる可能性があります。

こうした生分解性プラスチックをつくる細菌として知られているのが、水素酸化細菌の一種であるRalstonia eutropha(ラルストニア・ユートロファ)です。この細菌は、水素からエネルギーを得てCO₂を取り込み、体内にポリ(3-ヒドロキシブタン酸) (P(3HB))という生分解性プラスチックを蓄えます。P(3HB)は、細菌にとって炭素やエネルギーをためておく物質であると同時に、生分解性プラスチックとして利用できます。

SergeyKlopotov/Shutterstock.com

この細菌を利用した方法は、石油に頼らないプラスチックの製造方法として期待されていますが、従来の培養では高濃度の水素を使うため、爆発の危険がありました。東京科学大学(Science Tokyo)の宮原佑宜(みやはら・ゆうき)特任助教と柘植丈治(つげ・たけはる)教授らの研究グループは、これまでに、水素濃度を燃えない範囲まで下げた安全な培養方法を開発してきました。

しかし、低濃度の水素を用いるこの安全な条件でP(3HB)を効率よく生産するには、CO₂をどのくらい与えるのがよいのかは、詳しく分かっていませんでした。そこで研究グループは、CO₂濃度によって細菌の増殖やP(3HB)生産がどう変わるのかを調べました。また、この細菌がCO₂を利用するときには、CO₂を細胞内で使いやすい形に変える炭酸脱水酵素が働きます。この酵素を増やしたときの効果については、これまでの研究で報告が分かれていたため、あわせて調べました。

ここが重要

研究チームはCO₂濃度を高・中・低の3段階に変えて細菌を培養し、細菌がどれだけ増えたかと、P(3HB)の生産量を比較しました。すると、CO₂濃度が高い条件よりも、低い条件の方が細菌はよく育ち、P(3HB)も多くつくったのです。供給したCO₂から得られるP(3HB)の収率は、高CO₂条件と比べて、低CO₂条件で約11.8倍になりました。

さらに、CO₂を利用しやすくする炭酸脱水酵素を細菌に多くつくらせました。酵素を増やしても、培養後の細菌の乾燥重量は大きく変わりませんでしたが、その重さに占めるP(3HB)の割合は77%から81%に増えました。つまり、細菌そのものが大幅に増えたのではなく、細菌全体に蓄えられたP(3HB)の割合が高まったのです。ただし、この効果が現れたのはCO₂が少ないときだけで、CO₂が十分にあるときには、酵素を増やしてもほとんど変化しませんでした。

興味深いことに、CO₂濃度が低い環境では、細菌自身もこの酵素を多くつくっていました。限られたCO₂を利用しやすくする働きを細菌自らが強め、そこに酵素をさらに増やすことで、P(3HB)の生産が促されたと考えられます。

今後の展望

今回の結果は、CO₂の濃度が低い条件でも、細菌がCO₂を効率よく利用し、生分解性プラスチックを生産できる可能性を示しています。将来、工場などから出る低濃度のCO₂を含む排ガスを、濃縮せずに原料として利用できれば、排出されたCO₂を資源として活用できるかもしれません。

ただし、今回の研究は小型の培養装置によるものであり、大量生産に向けては、十分な量の排ガスを安定して供給した場合の生産性を検証する必要があります。また、なぜCO₂濃度が高いとP(3HB)の生産効率が下がるのか、その詳しい仕組みもまだ分かっていません。今後は細菌の代謝を詳しく調べるとともに、実際の排ガスを用いた生産へと研究を進めます。

研究者のひとこと

CO₂を原料にするので、多く与えるほどよいと思っていました。ところが実際にはその逆で、CO₂が少ない方が生分解性プラスチックを効率よくつくるという予想外の結果でした。さらに、微生物自身が限られたCO₂を効率よく利用する仕組みを強めていたことも興味深い発見でした。

今後は、微生物が持つ力をさらに引き出し、CO₂を原料に、環境にやさしいプラスチックや有用物質をつくる研究を進めていきたいです。

(宮原佑宜:東京科学大学 物質理工学院 材料系 特任助教)

宮原佑宜特任助教

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