秒スケールで宇宙をとらえる

2025年12月3日 公開

人工衛星・スペースデブリの閃光現象を大量検出

ポイント

  • 宇宙で1秒程度だけ可視光で輝く突発天体現象[用語1]が存在するかどうかは、これまで知られていませんでした。
  • 世界で最も高い感度で可視光の「広域動画観測」を行い、得られた大量のデータを解析した結果、0.5秒だけ映る閃光現象が約1,500個発見された。
  • これらの多くが地球を周回する人工衛星・スペースデブリが太陽光を反射するもので、その頻度は全天で1日に1,000万回にも及ぶことが分かった。
  • 天文学の宇宙動画観測が、地球を周回する物体の理解にも役に立つことが示された。

概要

私たちが夜空を見上げると、同じような星々が瞬いているように見えます。しかし実際の宇宙は、恒星の大爆発(超新星爆発)のように突発的でダイナミックな現象に満ちています。こうした「時間とともに変化する宇宙」を研究する分野は時間領域天文学と呼ばれ、世界中で活発に探究されています。

東京科学大学 理学院の髙橋一郎研究員は、東北大学・東京大学・理化学研究所・NTT・東京科学大学らの研究者から成る研究グループと共同で、東京大学木曽観測所の広視野カメラ「Tomo-e Gozen」[用語2]を用いて、世界で最も高感度な夜空の「広域動画観測」を行いました。その結果、わずか0.5秒だけ光る閃光現象を1,500個以上発見しました。その多くは人工衛星やスペースデブリが太陽光を反射することで生じたもので、全天では1日に1,000万回もの頻度で発生していることが分かりました。この結果により、可視光で「秒」スケールの突発天体現象を探す際に考慮すべき人工物体の影響が明らかになり、今後の突発天体探査に向けた重要な一歩となりました。また、観測から得られたデータは、これまで追跡が難しかったスペースデブリの存在を明らかにし、その数や性質を調べる新たな手法にもつながります。

本研究成果は、2025年11月26日付で科学誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。

研究の背景

私たちが夜空を見上げると、同じような星々が瞬いているように見えます。しかし実際の宇宙は、恒星の大爆発(超新星爆発)のように突発的でダイナミックな現象に満ちています。こうした「時間とともに変化する宇宙」を研究する分野は時間領域天文学と呼ばれ、世界中で活発に探究されています。

これまで数日から数か月にわたって明るく輝く天体現象が知られていましたが、より短い時間スケールでの可視光現象の観測は困難でした。特に1秒程度の天体現象については、短い時間間隔で空の広い領域を観測することの困難さから、その存在すら明らかではありませんでした。

こうした短時間の天体現象を探る上で、もうひとつの課題があります。それは、地球の周囲を回る人工衛星やスペースデブリです。これらは太陽光を反射して一瞬だけ強く光ることがあり、遠方宇宙からの突発現象と区別がつきにくく、観測の妨げとなる可能性があります。

しかし、人工物体がどの程度の頻度で閃光を放つのかは、これまでほとんど分かっていませんでした。この不確かさが、可視光における「秒スケール宇宙」の探究を阻んできました。

今回の取り組み

今回、東北大学大学院理学研究科の田中雅臣教授らの研究グループは、東京大学木曽観測所のシュミット望遠鏡に設置された広視野カメラ「Tomo-e Gozen」を用いて、0.5秒ごとに夜空を撮影する動画観測を行いました。

このカメラは高速で画像を読み出せるCMOSセンサーを搭載しており、空の広い領域を“秒単位”で観測可能です。このカメラを用いることで、世界で最も高感度な「広域動画観測」を実現しました。さらに、東北大学・東京大学・理化学研究所・NTT・東京科学大学の共同研究によって機械学習による専用解析ソフトを開発し、大量の動画データから突発的な閃光を効率的に検出できる仕組みを整えました。

解析した約85 TBのデータから、0.5秒だけ光る閃光現象を1,554個発見しました(図1)。そのうち564件は既知の人工衛星やスペースデブリの位置と一致し、人工物体が多くの閃光現象を引き起こすことが明らかになりました。これらの人工物体の多くは、静止軌道(高度約36,000 km)など高軌道にあるものです。残りの991個も、その多くは位置を変えて何度か検出されており、同様に地球を周回する人工物体の閃光現象だと考えられます。

観測結果から、このような閃光現象の頻度は、空の1平方度[用語3]当たり1時間に10回程度であることが分かりました。空全体に換算すると1日に約1,000万回もの閃光が発生していることになります。これは、秒スケールの可視光観測を進めるうえで、人工衛星やスペースデブリが大きな障害となることを示しています。

図1. 動画データから検出された閃光現象の画像。横に並んだ5つのパネルが0.5秒ごとの時系列を表しており、真ん中の時間にだけ閃光現象が現れている(赤枠)。各パネルの視野角は約0.03度。
動画:東北大学理学部・理学研究科「秒スケールで宇宙をとらえる 検出された閃光現象の例」。検出された閃光現象の動画。視野角は約 0.098度 (縦) x 0.16度 (横)

他の画像・動画は東北大学 田中雅臣研究室のページから取得できます。

今後の展開

今回の研究で検出された既知の人工物と照合されなかった閃光の多くは、高軌道を周回する30 cm~1 m以下の小型物体によるものと推定されます。スペースデブリは人工衛星に衝突することで大きな影響を与えるため、今後の宇宙開発においてその数や性質を理解することが重要な課題となっています。このような小型物体は従来のレーダー観測では捉えにくく、今回の成果は天文学の動画観測がスペースデブリの把握や性質の理解に役立つ可能性を示しました。

東北大学大学院理学研究科の田中教授は「数億光年彼方の宇宙現象を探ろうとして、わずか数万km先の人工物体がこれほど多く見えるとは驚きでした。今後は、動画に映った閃光のより詳細な分析を行うことで、人工物体の形状などの特徴も調べていきたいと思います」と述べています。

また、理化学研究所の吉田チームディレクターは「大量の動画データを高速で分析するという技術的にチャレンジングな課題に取り組みましたが、予想以上に多くの閃光現象を見つけることができました。小さなデブリでも人工衛星や宇宙望遠鏡の損傷のもとにもなりますし、今後の宇宙開発にも役立つデータを提供できると思います。Tomo-e Gozen による観測を続け、新たな天体の発見にも結びつけたいと思います」と述べています。

謝辞

本研究は科学技術振興機構 AIP加速課題 (JP20317829)と日本学術振興会科学研究費助成事業 (24H00027)の支援を受けて行われました。

用語説明

[用語1]
1秒よりも短い突発天体現象:私たちの目にみえる可視光では知られていなかったものの、ガンマ線で宇宙を監視すると「ガンマ線バースト」と呼ばれる恒星の爆発現象が見えることが知られており、近年では電波で「高速電波バースト」という謎の現象も見つかりつつある。
[用語2]
広視野カメラTomo-e Gozen:木曽観測所シュミット望遠鏡に取り付けられた可視光広視野カメラ。84個のCMOSセンサーによって、一度に満月約100個分の領域の動画観測を行うことができる。
[用語3]
平方度:空の1度 x 1度の領域の広さ。満月の大きさは約0.2平方度。

論文情報

掲載誌:
The Astrophysical Journal
タイトル:
Second-timescale Glints from Satellites and Space Debris Detected with Tomo-e Gozen
著者:
Masaomi Tanaka*, Ichiro Takahashi, Naoki Yoshida, Naonori Ueda, Akisato Kimura, Kazuma Mitsuda, Hirofumi Noda, Shigeyuki Sako, Noriaki Arima, Mitsuru Kokubo, Tomoki Morokuma, Yuu Niino, Nozomu Tominaga, Kenzo Kinugasa, Naoto Kobayashi, Sohei Kondo, Yuki Mori, Ryou Ohsawa, Hidenori Takahashi, Satoshi Takita(*責任著者)

関連リンク

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