どんな研究?
私たちの体の中には、血液をろ過して老廃物や余分な塩分を尿として排出する腎臓という重要な臓器があります。この腎臓の働きが徐々に悪くなる病気が慢性腎臓病(CKD)です。CKD が進行すると、最終的には透析や腎移植が必要になります。現在、世界中で 8 億人以上の CKD 患者がおり、日本でも成人の 7 人に 1 人がこの病気にかかっているとされており、新たな国民病とも言われています。CKD の主な原因は糖尿病や高血圧ですが、約 10%の患者では明確な原因が不明とされています。
そこで、大学院医歯学総合研究科 腎臓内科学分野の蘇原映誠准教授、森崇寧講師、藤丸拓也非常勤講師らの研究チームは、原因不明の CKD に遺伝子が関与しているのではないかと考え、患者 90 名を対象に詳細な遺伝子解析を実施しました。
解析では、腎臓の病気に関連する298種類の遺伝子を対象に、膨大な遺伝子配列を解析する次世代シーケンス(NGS)技術を用いて、遺伝子異常の有無を調べました。その結果、原因不明の腎不全で血液透析を受けている患者の11%に、腎不全の原因となる病的遺伝子変異が見つかりました。これは、一部の患者に未診断の遺伝性腎疾患が潜んでいる可能性を示唆しています。

ここが重要
この研究では、日本で初めて原因不明の透析患者を対象に大規模な遺伝子解析を実施し、全体の11%の患者において腎不全の原因となる病的な遺伝子変異が発見されました。この成果は、正確な診断に寄与する重要な情報となります。
さらに、11%の中には、ファブリー病やアルポート症候群など、早期発見によって治療が可能な病気も含まれており、遺伝子検査の重要性が改めて浮き彫りになりました。

今後の展望
本成果を踏まえ、CKD 患者への遺伝子検査の導入が期待されます。研究チームは 2014 年からこれまでに1,500 以上の家族の遺伝子を解析しており、日本人に特化した遺伝子検査システムの開発を進めています。このシステムが実用化されれば、早期診断が可能になり、より正確な診断や、より効果的な治療法の開発にもつながると期待されています。
研究者のひとこと
蘇原映誠准教授
原因不明の CKD 患者において、網羅的な遺伝子解析は正確な診断と適切な治療への道を開く可能性があります。透析が必要になる前に病気を発見して進行を防ぐことによって、透析患者数の減少が期待できると考えています。

森崇寧講師
遺伝子検査によって正しく CKD の原因を診断することは、最適な治療選択にとどまらず、ご家族の遺伝カウンセリングや移植後再発リスク予測という視点でも非常に重要です。より多くの CKD 患者さんに受けていただくべき重要な検査であると考えています。

藤丸拓也非常勤講師
原因がわからず透析に至った患者さんの中に、見逃されていた遺伝性の腎臓病があることが明らかになりました。今後、慢性腎臓病の診断に遺伝学的検査を取り入れることで、患者さん一人ひとりに合った診療につながる可能性があります。

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