現場に赴き、問いに向き合う—EDP・テックリ最終発表祭EDP GALA 2026を開催

2026年3月26日 公開

1月31日、エンジニアデザインプロジェクト(EDP)とTechnology Creatives Program(テックリ)の最終発表祭が、東京科学大学(Science Tokyo)大岡山キャンパス 70周年記念講堂で開催されました。

EDPは、デザイン思考を基盤とした5ヵ月間のPBL型授業で、東京科学大学大学院エンジニアリングデザインコースの必修科目です。今年はScience Tokyo、武蔵野美術大学、多摩美術大学、昭和女子大学から、多様なバックグラウンドを持つ学生が参加しました。
一方のテックリは、新たな価値創造を担う人材の育成を目的とした社会人向けプログラムで、現役のエンジニアやデザイナーが参加しています。

両プログラムとも、企業から提供されたテーマに対して新しい価値を見いだし、ソリューションやプロトタイプを提案することをゴールとしています。今年は5社がテーマを提供し、EDPから10チーム、テックリから2チーム、計12チームが半年間にわたって取り組んできた成果を発表しました。

参加者の集合写真

EDPは2015年に旧東京工業大学でスタートし、今年で12年目を迎えました。当初に比べ、デザイン思考やUXは広く実践されるようになり、課題もより具体的でより文脈を伴うものへと変化しています。今年の多くのテーマは、「人手不足」という重要な社会課題を含んでいました。しかし問われているのは単なる業務改善ではなく、業務や企業の本質的な価値や意味そのものに踏み込むものでした。

何を負担とみなし、何を価値として残すのか。
何を人に任せ、何をプロダクトに委ねるのか。

既に語り尽くされているように見える「人手不足」という課題を、どの角度から再解釈するか。それが今年のEDPの核心となっていたように感じます。12チームは半年間テーマと向き合い続ける中で、どのように問いを切り取り、どんな未来像を描いたのでしょうか。

学生たちの発表

建造物の過酷メンテナンス作業に従事する人々を支援するプロダクトをデザインせよ

テーマ提供:日本精工株式会社

最初に発表した2チームのテーマは、日本精工株式会社の「建造物の過酷メンテナンス作業に従事する人々を支援するプロダクトをデザインせよ」でした。このテーマの焦点は、「過酷」をどう定義するかでした。

Team 10 おそドッグスは、鳶職の足場作業に着目。「高所で重い部材を繰り返し持ち上げる」状況を過酷と捉え、部材ではなく作業者自身を持ち上げることで負担を軽減するプロダクト「ASIBASE」を提案しました。作業者の「持ち上げるのが最も効率的」という感覚を前提に、動作を変えるのではなく支援する設計です。当日は発表者自身も鳶職の服装で登壇しました。

Team 5 めのぬぱんは、塗装工程の一つであるパラペット作業に着目。塗りの確認のため何度もかがんで下から覗き込む姿勢を繰り返さなければならない状況を過酷と捉え、姿勢を崩さずに確認ができるプロダクト「ParaScope」を提案しました。

両チームに共通していたのは、インタビューや観察にとどまらず、実際に足場を組んだり塗装をするなど、自ら体験しながら解釈を更新し続けた点です。

アドバンストエッセンシャルワーカーを支えるB2B企業の知られざるスゴさを若者に伝える体験をデザインせよ

テーマ提供:株式会社小松製作所

次のテーマは株式会社小松製作所の「アドバンストエッセンシャルワーカーを支えるB2B企業の知られざるスゴさを若者に伝える体験をデザインせよ」でした。「スゴさ」をどう定義するかが、このテーマの焦点でした。

Team 6 レモン珈琲は、巨大な建機の迫力を目の当たりにしたことで業界に関心を持った学生の体験に着目しました。近年は工事現場が仮囲いで覆われ、大型建機を実際に目にする機会が減っていることから、工事現場の仮囲いを活用して建機の圧倒的なスケールを体感できるプロダクト「インフラっと」を提案しました。

一方のTeam 7 栗ごはんは、幼少期に“はたらくくるま”に惹かれた記憶に着目。スゴさを知識として伝えるのではなく、かつての感情を呼び起こすという切り口から、油圧式圧縮機構でゴミを圧縮する様子が見えるゴミ箱「GO!ミニマム」を提案しました。日常の行為を通して技術のダイナミズムを体感させる設計です。

両チームとも抽象的な「スゴさ」を起点にしながら、調査を通して見事に具体的な体験へと落とし込んでいました。

飲食業におけるさらなる省力化・省人化を進めるプロダクトをデザインせよ

テーマ提供:ダッソー・システムズ株式会社

3つめのテーマはダッソー・システムズ株式会社の「飲食業におけるさらなる省力化・省人化を進めるプロダクトをデザインせよ」。すでに多くの効率化施策が存在する中で、なお残る負担をどこに見いだすかが焦点でした。

Team 3 ホワイト企業は、大量在庫を扱う現場の“先入れ先出し”の入れ替え作業に着目。入れ替えそのものを不要にするストッカー「Stock Ride」を提案しました。現場を調査する中で既に高効率・業務の最適化が行われている事実に直面。そこで「どんな運営を目指しているのか」という視座に立ち返り、「接客の質は維持したい」「余力は顧客対応に使いたい」という意向を起点に、改めて改善余地を特定しました。

一方のTeam 1 Fundeeは、少人数で運営する狭小ラーメン店に着目。店外に並ぶお客さんを誘導する作業を自動化するプロダクト「kokodesu」を提案し、従業員が移動することなく厨房作業に集中できる環境を構想しました。特定の店舗を深掘りすることで、狭い店舗ならではのインサイトにたどり着くことができました。

「業務や負荷を減らす」「人を減らす」という視点から語られることの多いテーマですが、両チームは、何をプロダクトに任せ、何を人に残すのかという価値の再分配に焦点を当てました。

少ない人員でも音楽ライブイベントの良質な運営を可能にするためのプロダクトをデザインせよ

テーマ提供:株式会社SI&C

続いて発表されたテーマは、株式会社SI&Cのテーマ「少ない人員でも音楽ライブイベントの良質な運営を可能にするためのプロダクトをデザインせよ」。ここでも焦点は、「良質」をどう定義するかでした。

Team 4 ドベちゃんズは、音楽ライブの撤収作業を行う単発アルバイトスタッフに着目。指示がわからない状況で、周囲の視線やその場の空気を気にすることなく意思表示ができるプロダクト「Helmo」を提案しました。単発アルバイトのスタッフが増えている現状を踏まえ、チームメンバー自身が現場でアルバイトとして働き、その中で得た気づきに基づく提案でした。

Team 9 nine-livesは、小規模ライブハウスに注目。ドリンク提供業務を機械化した「Queueliner」を提案しました。レストランなどに導入されている既存のドリンクバーとは異なり、多様なアルコールメニューに対応できる点を特徴としています。この機械により、スタッフが音響や照明など他業務に集中できる環境をつくりだそうとしています。

両チームの提案は、人員削減そのものではなく、ライブ運営において何を保ち、何を委ねるのかという観点から「良質」を再定義したものでした。

都市部で農業を楽しみ続けるプロダクトをデザインせよ

テーマ提供:株式会社丸山製作所

学生最後の発表は、株式会社丸山製作所の「都市部で農業を楽しみ続けるプロダクトをデザインせよ」でした。楽しむだけでなく「続ける」をどう実現するかが焦点でした。

Team 8 金木犀は、ベランダ菜園における土の入れ替えに着目。土を再生することで、重い土を運んだり捨てる必要を無くす「Re:Soil Pod」を提案しました。車を持たない、庭を持たないといった都市部特有の条件を前提に、ベランダ設置を想定したサイズや形状に設計されています。

Team 2 とりごもくは、都市部で畑を持つことが難しい状況に着目。精神科デイケア利用者を対象とした移動式農園「Active Farm」を提案しました。当初は都市部の一人暮らし層を想定していましたが、調査を重ねる中で医療現場での活用可能性に注目したそうです。

どちらのチームも、都市部という制約を起点にしながら、「続けられる環境」をどう設計するかを具体化していた点が印象的でした。

テックリの発表

学生たちの発表の後には、社会人を対象とした価値創造人材育成プログラム、テックリの発表が行われました。現役のエンジニアとデザイナーが2チームに分かれ、EDPと同様のテーマに挑みました。

Team B 湘南かながわーずは、株式会社 SI&Cの「少ない人員でも音楽ライブイベントの良質な運営を可能にするためのプロダクトをデザインせよ」に挑戦。複雑なケーブル類の収納を簡単にするプロダクト「PiTTOMiKKE」を提案しました。収納場所がわかるだけでなく、所定の位置に収納されていないケーブルを見つけやすくしました。本業とは異なる領域にあえて踏み込み、ユーザー視点に立つことを重視したそうです。

Team A maguro ha sendoは、株式会社丸山製作所の「都市部で農業を楽しみ続けるプロダクトをデザインせよ」に挑戦。作りすぎた野菜をオフィス内で交換できるプロダクト「Office de Sharing-オフィシェア-」を提案しました。匿名でのお裾分けは気軽だが受け取る側には不安もあるという点に着目し、オフィスという半匿名的な環境を活用する設計としています。

社会人チームならではの実務的な視点と実装力が際立つ発表でした。

全体を通して

最終発表祭を通して感じられたのは「現場に深く踏み込む姿勢」でした。「過酷」「スゴさ」「省人化」「良質」「楽しみ続ける」-いずれも一見すると分かりやすい言葉ですが、実際には解釈の幅が広く、そのままでは設計に落とし込めません。各チームは、

  • 言葉を疑い
  • 現場に足を運び
  • 解釈を何度も更新し
  • 具体的な体験や構造へと変換する

というプロセスを半年間繰り返しました。その結果、チームがテーマをどう解釈したかが明確に読み取れる、解像度の高い提案が揃うことになりました。

デザイン思考が広く共有された今、方法論だけでは差は生まれません。どこまで現場に踏み込み、問いを掘り下げられるか。こうした姿勢はこれからのイノベーションを切り拓く力となるはずです。半年間、テーマと踊り続けた各チームの成果を、心から歓び、祝いたいと思います。

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東京科学大学 EDP産学デザインフロンティアコンソーシアム事務局