量子ドット超格子の特異な発光を室温で観測

2026年4月15日 公開

集団的光ブリンキングと光子バンチング

ポイント

  • ペロブスカイト量子ドット超格子における集団的な発光現象を室温で観測
  • 超格子からの発光は、単一量子ドットに類似した二準位ブリンキングと、光子バンチングを示すことを発見
  • 新奇な発光ダイナミクスは、量子ドット間の励起子移動とバイエキシトン形成に由来

概要

東京科学大学(Science Tokyo)物質理工学院 材料系のMartin Vacha(バッハ・マーティン)教授および三宮工教授のグループと、ベルギー・ルーヴェン・カトリック大学のJohan Hofkens(ヨハン・ホフケンス)教授のグループからなる共同研究チームは、室温においてペロブスカイト量子ドット(QD[用語1]超格子[用語2]が集団的ブリンキング[用語3]および光子バンチング[用語4]という特異な発光を示すことを発見しました。

量子コンピューティング、通信、センシングなどの量子技術の実現には、量子光源の開発や、多体の集団状態[用語5]を支えることができる量子系の探索が必要です。こうした多体の集団状態は基礎物理の理解や新技術の開発に不可欠ですが、通常は極低温(液体ヘリウム温度、~4 K)でしか実現されません。この制約を克服するためには新しい材料系の探索が重要であり、その中でも金属ハライドペロブスカイトCsPbBr3[用語6]量子ドットは非古典的な光放出の可能性を持つ有望な候補です。

本研究では、CsPbBr3ペロブスカイト量子ドットが自己組織化して形成した超格子を用い、室温で蛍光観測を行ったところ、サブ波長サイズの超格子が2段階ブリンキングや光子バンチングなどの特異な集団挙動を示すことが確認されました。この発光は、時間分解計測および超解像イメージング[用語7]により解析され、超格子内の局所的なエネルギートラップへ量子ドット間の励起子[用語8]移動が起こり、発光が数十ナノメートルの領域に空間的に閉じ込められていることが明らかになりました。この局所領域での高密度の励起子が、バイエキシトン[用語9]を形成し、バイエキシトン—励起子カスケード発光により光子バンチングを示すことが解明されました。これらの結果は集団現象の基礎理解に貢献するとともに、ペロブスカイト量子ドット超格子を室温量子技術の有望なプラットフォームとして確立するものです。

本研究成果は、3月27日付(現地時間)で「Nature Communications」に掲載されました。

背景

ナノサイズの発光物質を高秩序に配列したとき、個々の発光ユニット間の相互作用により集団的な光学現象が生じます。量子ドット超格子はその代表例です。特に、ハライドペロブスカイトの立方体ナノ結晶量子ドットは自己組織化により、大規模で規則的な超格子を形成しつつ個々の光学特性を保持します[参考文献1]。超格子内の多数の量子ドットを同時に励起すると、初期状態では非コヒーレントな励起状態の集合が生成されます。その後、双極子モーメント間の相互作用により励起状態が同期し、集団的コヒーレント状態が形成されます。集団的コヒーレント状態の緩和は短時間で起こり、その際に多数の光子が同時に放出されます(超蛍光)[参考文献2]。この同時放出により、光子はポアソン統計に従うランダム放出ではなく束として放出されます(光子バンチング)。さらに、立方体型量子ドット超格子は光共振器としても機能し、励起子とキャビティモードの協同的相互作用によりレーザー発振やキャビティ増強超蛍光が可能となります。これらは将来の量子技術にとって重要ですが、これまで主に極低温(~4 K)でしか実現されていませんでした。

研究成果

本研究では、室温でこれらの超格子を調べ、光子バンチングおよび新たに集団的ブリンキング(発光の点滅)を観測することに成功しました。図1に示すように、単一量子ドットの自己組織化により量子ドット超格子を作製しました。すなわち、約10 nmのエッジ長を持つCsPbBr3量子ドットをトルエンに分散し、ガラス基板上に滴下した後、ゆっくりトルエンを蒸発させ、エッジ長100〜500 nmの立方体状超格子を作製しました。サブ波長サイズの超格子から発せられる光(フォトルミネセンス、PL)特性は室温で蛍光顕微鏡を用いて測定しました。図2aのPL強度の時間変化に示すように、超格子は数千個の量子ドットから構成されているにもかかわらず、強度は主に2つのレベル間で変動し、単一量子ドットの二準位ブリンキングに類似した異常な揺らぎが観測されました[参考文献3]。今回観測された集団ブリンキングでは、高強度状態(ON状態)は低強度状態(グレー状態)の20倍以上の強度を示しますが、低強度状態も弱い発光を示しました。蛍光寿命分布の解析から、ON状態は励起子、グレー状態は帯電励起子に対応することが分かりました。さらに超解像イメージングにより、ON状態に対応する発光位置を特定したところ、超格子全体サイズよりはるかに小さい直径約30 nmの領域に限定されていることが明らかになりました(図2b、図2c)。これは、励起光の吸収は超格子全体で均一に起こるにもかかわらず、発光は局所領域に集中していることを示しています。PL寿命測定からは、ON状態には長寿命成分が存在し、励起子が長距離移動して発光中心に到達することが確認されました。

図1. 超格子の作製
図2. (a)フォトルミネセンス強度の測定結果。発光強度が増減(点滅)するPLブリンキングが観測されている。青い部分が ON状態を表している。
(b)超解像解析による発光位置。
(c)超格子のSEM画像と発光位置(黄色の点)。
(d)光子バンチングを示す二次相関関数。
(e)量子ドット間の励起子移動とバイエキシトン形成の模式図。

さらに、光子統計性を解析するHanbury-Brown Twiss法による光子相関測定では、ON状態の光子は強くバンチングしており、その度合いは最大3.9に達しました(図2d)。この光子バンチングは励起強度の増加とともに減少し、この性質はバイエキシトン—励起子カスケード発光が起源であることを示唆しています。すなわち、発光中心の空間的閉じ込めにより励起子密度が増大し、励起子間の引力的相互作用と相まってバイエキシトンが形成され、カスケード発光により光子バンチングが生じたと考えられます。

これらのメカニズムは図2eのようにまとめられます。超格子内の複数の量子ドットで生じた励起子は超格子内を移動し、局所的発光サイトに集まることで、単一量子ドットのような発光を示し(ブリンキング)、また局所的発光サイトではバイエキシトンを形成し、バイエキシトン—励起子カスケード発光による光子バンチングが発現します。

社会的インパクト

今回得られた成果は、量子ドット超格子における励起子相互作用および集団現象の理解を深めるとともに、次世代量子技術や光電子材料開発に重要な知見を提供します。特に、これまで低温でのみ観測されていた量子的な発光現象の室温での観測に成功したことで、小型・低コストで駆動する量子光デバイスの実現へ近づくことが期待されます。

今後の展開

量子デバイス、量子通信・量子暗号技術への応用に向けて、より制御性のよい量子ドット超格子形成、放出光子のもつれ計測、単一超格子からの電気励起発光の実現が期待されます。

付記

本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「メゾヒエラルキー物質科学」(23H04875)および基盤研究(B)(24K01449)の支援を受けて実施されました。

参考文献

[参考文献1]
Liu, Z. et al. Adv. Mater. 35, 2209279 (2023)
[参考文献2]
Rainò, G. et al. Nature 563, 671-675 (2018)
[参考文献3]
Sharma, D. K. et al. ACS Nano 13, 624-632 (2019)

用語説明

[用語1]
量子ドット:励起子を0次元のポテンシャルの中に閉じ込めることができる発光材料。
[用語2]
超格子:ある結晶について、もとの構造の周期より長い周期を持つ構造が形成されるときの結晶格子。
[用語3]
ブリンキング:発光強度が点滅している現象。
[用語4]
光子バンチング:光子が時間的および空間的に、かたまって放射および検出される現象。
[用語5]
多体の集団状態:多数の粒子が互いに影響し合うことで、個々ではなく全体として新しい性質や振る舞いが現れる状態。
[用語6]
金属ハライドペロブスカイトCsPbBr3:通常のペロブスカイト構造をとる物質で、発光材料、太陽電池材料としてよく研究されている。
[用語7]
超解像イメージング:光学顕微鏡の回折限界を超えた分解能で発光位置を同定するイメージング手法。
[用語8]
励起子:半導体の中に電子と正孔が対を成した状態。
[用語9]
バイエキシトン:2つの励起子が互いに束縛されて分子を形成した状態。

論文情報

掲載誌:
Nature Communications
タイトル:
Room temperature collective blinking and photon bunching from CsPbBr3 quantum dot superlattice
著者:
Qiwen Tan, Sudipta Seth, Boris Louis, Xiayan Wu, Nithin Pathoor, Toranosuke Takagi, Shun Omagari, Takumi Sannomiya, Johan Hofkens, Martin Vacha

研究者プロフィール

バッハ・マーティン Martin Vacha

東京科学大学 物質理工学院 材料系 教授
研究分野:有機・ハイブリッド材料ナノスケール特性、単一分子分光

三宮 工 Takumi Sannomiya

東京科学大学 物質理工学院 材料系 教授
研究分野:光機能材料、電子顕微鏡

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