どんな研究?
ピッ、ピッと鳴り続ける機器の音、まぶしい光や逆に薄暗い空間――集中治療室(ICU)は、命を救う最前線であり、独特の環境の中にあります。東京科学大学(Science Tokyo)の海塩渉(うみしお・わたる)助教らの研究チームは、そうしたICUの「温熱・空気・光・音」という4つの環境要素が、医療スタッフの働きやすさにどう影響するかを調べました。
これまでICUの研究は、患者の回復を支える環境に注目するものが多く、働く側の視点は十分に検討されていませんでした。本研究では建築環境工学と医学の専門家が協力し、大学病院のICUで実際に温度や騒音などを測定するとともに、医師や看護師にアンケートを実施しました。こうして「客観的データ」と「人の感じ方」の両面から、ICUの環境を総合的に明らかにした点が特徴です。
ここが重要
調査の結果、空気のきれいさは比較的良好だった一方で、音と光に対する不満が特に大きいことが分かりました。例えば、音は夜間でも基準値を超えるレベルで、医療機器のアラーム音が不満の主な原因でした。
また、窓のない場所での明るさの不足、自然光のある場所との差を定量的に明らかにしました。光や音の満足度は、全体的な環境満足度に強く関係しており、特に光環境に満足しているほど、作業に集中しやすいと感じる傾向が見られました。
この研究で難しかったのは、環境の影響を数値と人の感覚の両方で捉えることでした。例えば温度は同じでも、人によって寒いと感じるかは違います。そこで研究チームは、センサーによる精密な測定とアンケートを組み合わせる方法を選び、見えにくい環境の影響を丁寧にすくい上げました。
今後の展望
今後は、病院設計の段階から光や音の工夫を取り入れることが重要になるでしょう。例えば、自然光を取り入れやすい構造や、音を吸収する素材の使用などが考えられます。こうした改善は医療スタッフの負担を減らし、結果として患者ケアの質向上にもつながると期待されます。さらに、季節による違いや他の病院との比較などを進めることで、より一般化した指針づくりが求められます。
研究者のひとこと
ICUは患者さんのための場所であると同時に、医療スタッフが何年、何十年と働き続ける日常の職場でもあります。そこでの光や音環境が、集中力や判断力に影響する可能性があります。環境を整えることは、医療の質を支えることに繋がると考えています。
この研究は、旧東京医科歯科大学と旧東京工業大学の研究者が、大学統合以前からの連携を基盤に進めてきたものです。医療の現場を知る視点と、空間を設計する視点が重なったことで、これまで見過ごされがちだった課題を具体的に捉え、今回の成果へと結びつきました。
(海塩渉:東京科学大学 環境・社会理工学院 建築学系 助教)
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