どんな研究?
強磁性半導体って、聞いたことはありますか?これは、電気の流れを制御する半導体に磁石の性質を加えた材料のことです。
私たちが利用している多くの電子機器は、電気を操る半導体が便利な機能を実現し、磁石の性質を使って情報を記録する仕組みが使われています。スマホに記憶のための磁気記録の装置は搭載されていませんが、電波やWiFiを通じてデータセンターなどにアクセスし、磁気記録の装置に保存された膨大な情報をやりとりしています。その情報は、磁石の性質を利用して、エネルギーを使わずに保存されているのです。
強磁性半導体は、電気と磁石の両方の性質をあわせ持つので、情報を省エネで素早く扱えるようになり、これまで利用されてこなかった電子のスピンという性質も利用できるようになります。その結果、今よりもっと速くて省エネな電子機器が実現できると期待されているのです。

そこで、マンガンや鉄など、磁石にもとになる金属の原子を少しだけ混ぜて、磁石のようにふるまう半導体(=強磁性半導体)の研究が盛んに行われてきました。しかし、これまでの強磁性半導体は、-73℃やそれ以下のとても低い温度でしか磁石の性質を示さず、半導体としての電気的性質にも限界があり、自由に回路を設計ができないという課題がありました。
それらを解決しようと、鉄を使った新しい強磁性半導体が開発されましたが、その性能はまだまだ十分ではありませんでした。実際の電子機器や工場では、電子機器の部品が予想以上の高温になる場合も多くあるため、できる限り高温でも安定して使える強磁性半導体が必要とされていました。
ここが重要
今回、東京科学大学(Science Tokyo)のファム・ナムハイ教授を中心とする研究チームは、ガリウムとアンチモンからなる半導体に鉄を少しだけ加え、高品質な結晶のまま強磁性半導体を作製することに成功しました。そして、257℃という高温でも動作することを確認しました!これは、これまでの記録(147℃)を大きく塗り替える快挙です。
さらに興味深いのは、この材料に含まれる鉄の原子ひとつひとつが、ふつうの鉄金属の原子の約2倍の強さの磁石としてふるまい、電気と磁石の力がしっかりと働く高性能な材料であることがわかった点です。
今後の展望
この新しい材料があれば、高温の場所でも使える特別な電子部品を作れるようになります。
たとえば、磁石の力でON・OFFを切りかえるコンピューターのスイッチや、電気をほとんど使わない新しいメモリなど、次世代の電子機器への応用が期待されています。
スマホやAI、自動車など、あらゆるエレクトロニクスの進化を支える未来のカギを握る材料になるかもしれません。
研究者のひとこと
常温でも動作できる強磁性半導体を目指して、今迄研究開発を行って来ましたが、まさかここまで高温で動くとは、正直自分たちでも驚きました。この研究では、高品質な材料を作れるという我々の結晶成長技術が生かされました。
その結果、期待以上の磁石の性質と、きれいな結晶構造の両方を同時に実現できたことは大きな成果であり、わたし自身もとてもうれしく感じています。この技術が未来のエレクトロニクスの土台になるようなに、これからもどんどん研究を進めていきたいと思います。
(ファム・ナムハイ:東京科学大学 工学院 電気電子系 教授)

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